ダン・フィリップス、PhD、CFA および ティルマン・ウェイデ、PhD
ChatGPTの出現により、大規模言語モデル(LLM)は時代の潮流に乗り、金融や投資運用における将来のチャンスと落とし穴が大きいことを暗示しています。LLMは、一部のハイテク投資マネージャーにとっては、拡大し続けるモザイクの中で新しく整理されたタイルとなります。しかし、多くの人にとって、LLMは多くの人が避けたいと願っていた技術的な軍拡競争の口火を切るものです。
チャットボット「ChatGPT」を開発したOpenAIのCEOであるサム・アルトマンは、期待値をマネージしようとしています。「ChatGPTは非常に限定的なものですが、いくつかの点において、さもそれ自体が偉大であるという誤解を招くような印象を与えています。」と彼は述べています。
彼が言わなかったのは、ChatGPTは始まりに過ぎないということです。
では、投資運用におけるLLMのチャンスとリスクは何なのでしょうか?その疑問に答えるため、この3回シリーズでは、投資運用におけるLLMの活用方法を紹介し、『プロンプトエンジニアリング』という新しいダークアートを探ります。第2回では、ChatGPTをファンダメンタルズとクオンツの両方のアナリストのツールキットに組み込む方法を説明し、第3回では、ChatGPTとLLMの背後にある人工知能(AI)を深く掘り下げ、投資運用のAI革命の次の段階を予想していきます。
LLMs:投資運用の未来か?
ChatGPTのようなLLMは、最高の状態では、リサーチのセクションを書き、企業やセクターに関する質問に答え、クオンツコードを作成しデバッグし、投資技術、会計、法律、規制に関する問い合わせに対応できます。最悪の場合、「幻覚」を見たり、事実や参考文献をでっち上げ、読みやすいが意味不明な文章を書いたり、バグだらけのコードを生成したりすることもあります。もちろん、実際には、この両極の間にあることが多いのですが。ですから、LLMの力を最大限に活用するためには、LLM特有の新しいスキルを開発する必要がありますし、おそらく、この新しく強力なツールを統合するために投資プロセスを見直すことも必要でしょう。
原理的には、LLMは様々な投資運用業務をサポートすることができますが、それは自動操縦というよりは副操縦士として、専門家や既存のAIアプローチを補助することで実現されるでしょう。以下は、LLMが様々な金融プロフェッショナルに提供できるデータやサービスの例です。
ファンダメンタルアナリスト
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クオンツアナリスト
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リーガル/コンプライアンス
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要約の作成
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クオンツコードの開発
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法律・規制に関するアドバイス
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テクニカルリサーチの説明
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コードファンクションの記述
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免責事項・フットノートの記述
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分析内容の記載
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データベースへの問い合わせのためのSQL作成
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契約条項の記載
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文献レビューの作成
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説明文・要約の記述
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LLMは、文章の要約や説明、簡単なコンピュータコードの理解や生成に特に優れています。つまり、投資戦略の設計と開発に関わる多くのタスクに配置することができるのです。しかし、ChatGPTをはじめとする現在のLLMの世代には、次のようなリスクを念頭に置いてアプローチする必要があるのではないでしょうか。
1. 時間的制約のある情報:LLMには終了期限があり、それ以降は新しい文書でモデルを学習させることはできません。そのため、時間的な制約がある質問は避けてください。
2. その質問は適切でしょうか?:ChatGPTや他のLLMの検索クエリを作成することは、芸術であり科学でもあります。これは 『プロンプトエンジニアリング』と呼ばれています。
3. 具体的・不明瞭な事実:フォロワーが少なければ、ChatGPTは私たちの経歴を書くのに苦労します。しかし、ChatGPTに履歴書を提示して、経歴を書くように依頼すれば、より良い結果を得ることができます。
4. 新しい発見:LLMには、既存の情報や利用可能な情報を収集し、要約し、点と点を結ぶ以上のことを期待しないでください。新しい知識を得ることが目的なら、私たちはまだ人間だけの領域にいるのです。
5. 幻覚:LLMは、時に物事をでっち上げることがあります。数字や事実を引用し、参考文献で裏付けを取ることもあります。しかし、それがインチキである可能性もあります。ですから、アウトプットが正確であるかどうかを確認する必要があります。このようなミスの可能性を減らすには、LLMに質問したい文章を渡し、構造化されたリストを要求したり、結果を検証するために他の情報源を挙げてもらうようにします。
6. 数学・自己矛盾:現在のLLMは数学が苦手です。「テスラの収益の5年間の平均年間成長率を教えてください。」というような質問では、満足のいく、あるいは一貫した答えが得られないかもしれません。そのため、ユーザーも気をつけなくてはいけません。
このような注意点はさておき、その強みを生かせば、現在のLLMの世代であっても、信じられないほどパワフルで役に立つツールになり得るのです。
投資運用にChatGPTをどのように活用できるか
ChatGPTや他のLLMを最大限に活用するためには、適切なプロンプトを構築することにフォーカスする必要があります。実際、プロンプトエンジニアリングは重要な新しい学問分野になっています。ChatGPTは、より良い質問をすればするほど、より良い答えを出すことができます。ChatGPTは、キーワード、フレーズ、箇条書き、そして整然としたフォローアップの質問に対して最もよく反応します。
新たな金融の領域: プロンプトエンジニアリング

プロンプトを書く際には、具体的にいくつかのポイントがあります:
1. 主観を避ける:「ベスト」「最もリスキー」などの言葉は一般的な表現ですが、主観的であるため、良くない回答が返ってくる可能性があります。客観的な表現を心がけましょう。
2. 特殊文字を使用する:本文の最後にクオテーション(“...”)を付けるか、分析対象の文書にハイパーリンクを張ってください。
3. リストはより効果的:文章が山ほどあるよりも、簡潔な結果を得るために、回答はリスト形式で表示されるようにお願いしましょう。
4. シンプルな英語:最も基本的で一般的なフレーズでプロンプトを作成しましょう。プロンプトが他のプロンプトやリファレンスポイントと似ていればいるほど、正しい情報が浮かび上がる可能性が高くなります。
5. リファレンスポイント:一般的な存在に関する不明な事実や、不明な存在に関する一般的に検索される事実を探す場合、リファレンスポイントを付けましょう。
以下は、ChatGPTで金融に特化したクエリをどのように構成するかについて、いくつかの焦点を当てた例です。OpenAIもベストプラクティスで最も効果的なプロンプトのいくつかを説明しています。
「リスト」を使って、環境、社会、ガバナンス(ESG)のデータを調べる
特定の出来事または個別の点に関する情報を生成するには、「リスト」と入力して、ChatGPT が生成するアイテムの数を特定します。
非効果的
鉱山会社A社が関与した社会的不祥事を10個リストしてください
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より効果的
アーニングコールを要約する
例えば、長ったらしいアナリストの原稿を読みやすくまとめるには、「summarize」と入力し、引用符で囲み、気になる箇所を指定します。
以下を要約せよ:
ロブ、ありがとう。皆さん、こんにちは。不確実性に満ちたマクロ環境の中で、私たちは堅実な四半期を送ることができました。(中略)このような課題にもかかわらず、B社のnon-GAAP EBITA1は前年同期比で29%増加し、私たちは引き続き ...
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非効果的
以下を要約せよ:
1) COVID-19 インパクト
2) テキストに含まれるマイナス要素
ロブ、ありがとう。皆さん、こんにちは。不確実性に満ちたマクロ環境の中で、私たちは堅実な四半期を送ることができました。(中略)このような課題にもかかわらず、B社のnon-GAAP EBITA1は前年同期比で29%増加し、私たちは引き続き ...
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より効果的
注意点:ChatGPTは、直接依頼されても決算説明会を分析することはありません。しかし、通常、ChatGPTは、「決算説明会」や類似のフレーズを検出して、このような依頼を特定します。したがって、このフレーズを削除することで、「脱獄」を行い、LLMを騙して私たちの望むものを提供させることができるのです。
コードを生成する
コンピュータコードを作成するために、番号付きリストはChatGPTを正しい方向へ導くことができます。また、ChatGPTが使うべき変数を指定することもできます。
マイルからキロメートルを計算するPythonコード
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非効果的
次の関数をPythonで作成する。
1) マイルの入力
2) キロメートルに換算して表示
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より効果的
具体的ななにか、あるいはもっと曖昧なこと? 思考の連鎖
LLMは、見慣れないテーマや実体を識別するのに苦労するかもしれません。そこで、質問や発言の連鎖によって、LLMを目的のテーマやエンティティに誘導しましょう。
非効果的
インドのアパレル・スポーツウェア業界のリスクについて説明せよ。また、この業界におけるC社のリスクについて説明せよ。C社は労働スキャンダルと関係があるか。
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より効果的
ChatGPT: 今すぐ使える副操縦士、次は自動操縦士
LLMのプロンプトの作り方がわかったところで、次回は、ChatGPTがファンダメンタルアナリストとクオンツアナリストの副操縦士としてどのように機能するかを検証することで、新しいプロンプトエンジニアのスキルを試してみます。
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執筆者
Dan Philips, PhD, CFA and Tillman Weyde, Phd
(翻訳者:猪原 英治、CFA、CIPM)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/03/06/chatgpt-the-origins-the-hype-the-opportunity/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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