622

CFA協会ブログ

No.622

2023年5月19日               

後悔と最適ポートフォリオ配分

Regret and Optimal Portfolio Allocations

デビッド・ブランチェットDavid BlanchettPhDCFACFP

 

ポートフォリオ最適化の目的関数においてリスクはどのように定義されるでしょうか。通常はボラティリティ指標が使われますが、ダウンサイドリスクや損失額に特に重点を置いた指標が使われることもよくあります。

 

しかしながら、それはリスクの一面しか説明していません。投資家が経験する可能性のあるさまざまな結果の全体を捉えていないのです。たとえば、その後に好成績を収めた資産に投資し損ねていたら、投資家には感情的な反応(後悔など)が生じる可能性があり、これはより伝統的なリスクの定義に類似しています。

 

そのため、ポートフォリオ最適化の目的でリスクを理解するには、後悔も考慮する必要があるのです。

 

暗号通貨などの投機的資産のパフォーマンスは、投資家によって様々な感情的反応を引き起こすかもしれません。私自身は、暗号通貨のリターンにはそれほど期待していませんし、自分は合理的なほうだと思っていますから、ビットコインの価格が100万ドルに上昇したとしても、あまり気にしなくてすむでしょう。

 

しかし、私と同じようにビットコインのリターンに期待していない投資家であっても、まったく逆の反応を示すかもしれません。将来ビットコイン価格が上昇したときに、それを享受できないことを恐れ、全面的にせよ部分的にせよ、分散化ポートフォリオの構築を諦め、そうした痛手を避けようとするかもしれません。ビットコイン価格の動きに対する投資家の反応は各々異なっているのですから、その資産配分も投資家によって変えるべきということになります。ところが、伝統的なポートフォリオ最適化関数を適用すると、私も他の投資家もビットコインに良いパフォーマンスを期待していないのですから、ビットコインへのアロケーションはまったく同じ――おそらくゼロ――になってしまうのです。

 

後悔というものを考慮するならば、分散や純粋な数学を使った指標以外のものを考えることになります。つまり、ある結果に対して生じうる感情的反応を取り入れるということです。テクノロジー、不動産からチューリップに至るまで、長年、投資家は欲をかいてバブルに踊らされ後悔に陥ってきました。ですから、もし「不良資産」のパフォーマンスが好調になり始めた場合に慎重なポートフォリオ分散を放棄してその不良資産に投資する可能性を小さくしてしまうのであれば、その不良資産に少しだけ配分することには価値があるかもしれません。

 

私は、ジャーナル・オブ・ポートフォリオ・マネジメント(Journal of Portfolio Management)誌の新たな研究で、後悔を明示的にポートフォリオ最適化の手順に組み込む目的関数を紹介しています。具体的に言うと、この関数は後悔をリスク回避やダウンサイドリスク(0%未満のリターンやその他の目標リターンなど)とは異なるパラメータとして扱い、それぞれ異なった後悔回避度を持つ後悔ベンチマークに対してポートフォリオのリターンを比較するのです。このモデルでは、資産のリターン分布に正規性の仮定を必要としないので、宝くじや正規分布に従わないペイオフを持つ資産を組み込むことが可能です。

 

個別証券からなるポートフォリオを用いて一連のポートフォリオ最適化を実行することによって、後悔を考慮することが資産配分の決定に大きな影響を及ぼすことがわかります。特にリスク回避度が高い投資家では、後悔を考慮に入れるとリスクレベル――ダウンサイドリスクと定義されるもの――が増加する傾向があります。なぜでしょうか。最も後悔を引き起こす資産は、元来、より投機的な傾向があるからです。リスク許容度が高い投資家の場合は、リスク資産の効率性が低いと仮定すると、獲得するリターンは低く、ダウンサイドリスクは大きくなる可能性が高いです。ところが、よりリスク回避度が高い投資家は、ダウンサイドリスクはもっと大きくなりますが、高いリターンを生み出す可能性があるのです。さらに言えば、後悔を引き起こす資産へのアロケーションは、想定されるボラティリティに連動して増加する可能性があり、これは伝統的なポートフォリオ理論に反することになります。

 

この研究結果は各投資家にとってどのような意味を持つでしょうか。一つは、大規模なポートフォリオでやや効率性は低いが後悔を引き起こす可能性の高い資産は、期待リターンと共分散によっては、そのアロケーションが大きくなる可能性があるということです。こうした結果は、特にマルチアセットファンドの構築方法に影響を及ぼすかもしれません。ターゲット・デート・ファンドなどの単一ファンドとは対照的なマルチアセットポートフォリオに特有のエクスポージャーに関する情報が明示的に提供され、それを活かすことができるからです。

 

もちろん、後悔する顧客がいるからといって、フィナンシャル・アドバイザーや資産運用会社が非効率な資産へのアロケーションを始めるべきだと言っている訳ではありません。そうではなく、各投資家の選好に応じ、ポートフォリオ全体の文脈の中で後悔を明示的に考慮に入れてポートフォリオを構築するアプローチを提供すべきであるということです。

 

人間は効用最大化を図るロボットや「ホモエコノミクス」ではありません。私たちはこうしたことを反映したポートフォリオと解決策を打ち立てる必要があるのです。そうすれば、潜在的なリスクの定義が多様なものであっても、私たちは投資家がより良い結果を得られよう役に立つことができるでしょう。

 

デビッド・ブランチェット(David Blanchett)博士、CFACPAについてもっと知りたい方は、フィナンシャル・アナリスト・ジャーナル(Financial Analysts Journal)誌に掲載の「最適な年金所得戦略の再定義(Redefining the Optimal Retirement Income Strategy」をお見逃しなく。

 

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執筆者

David Blanchett, PhD, CFA, CFP

(翻訳者:瀧澤 創、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/05/12/regret-and-optimal-portfolio-allocations/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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