640

CFA協会ブログ

No.640

2023年10月20日               

「書くこと」が最も過小評価されている投資スキルである5つの理由
Five Reasons Why Writing Is the Most Underrated Investment Skill

ジョン・W・ムーア、CFA、CAIA

 

投資家として成功するためには何が必要でしょうか?技術的なスキル、感情的な知性、そして意識の高い習慣の健全なバランスが役立つでしょう。この三脚椅子に欠かせないものは、知識と分析から正確さを、好奇心と規律から展望を導き出すと同時に、自分の可能性を最大限に引き出すプロセスを自分のものとすることです。

 

投資コミュニティは、この重要なプロセスを促進する新しいツールを常に探し求めています。しかし、金融界全体のテクノロジーが近年加速度的に進化している一方で、最も価値のある投資ツールのひとつは、何千年も前から身近にありました。それは「書くこと」です。

 

明解な文章と明晰な思考は相伴うものです。些細なことに思えても、頭の中だけでなく、ページに書かれた言葉を通して自分の考えを明確にすることが、啓発的な試みとなります。 同じ出発点からであっても、しばしば異なる形に考えが具体化するものです。それは、書くということが、焦ることなく自分の考えを調整し、自分の考えの真の健全性を試すよう促すものであるからです。

 

「書くこと」が、最も過小評価されている投資スキルということがあり得るでしょうか?私はそう考えています。実際、書くことには投資プロセス全体を通じて果たすべき積極的な役割があります。その理由は以下の通りです。

 

1.    書くことは、何を知っているのか、何を理解しているのかを明らかにする

私たちはある投資トピックについて完全に把握したつもりになりがちです。私たちは一日中情報を消費していますが、ニュースアラートに次ぐニュースアラートに追いたてられる中で、その広い意味合いを評価することは困難です。批判的な思考をする代わりに、深い認識なしにキャッチーな速報をオウム返しする「見出しの専門家」になることもしばしばです。多くのことを知っているけれども、理解していることははるかに少ないのかもしれません。

 

地政学はその典型です。とりわけ戦争、公衆衛生、自然災害、通商政策、気候、選挙といった話題は、多くの注目を集めます。こうしたトピックが発生すると、そのトピックに殺到、没頭して、できるだけ多くを学び、潜在的な投資への影響を評価し、適応するということを私たちはしがちです。

 

「何かをしなければ」という衝動が、投資コミュニティ全体を、極めて複雑なトピックの専門家になろうとする熱狂的な探求にしばしば駆り立てます。適切な情報を得ることは崇高な目標ですが、あるトピックをどれだけ良く理解しているかということを、投資対応における確信の強さに一致させるように注意しなければなりません。

 

書くことはこのギャップに橋を架け、自らの盲点をもっと早く見つける助けとなります。

 

2.    書くことは、自己認識を強化する

投資の定量的な側面は十分に難しいですが、感情的なハードルははるかに険しいことがよくあります。自分のバイアスを見抜き、感情をコントロールするためには、自己認識が重要です。健全な投資プロセスには、意思決定を最適化する一連のチェック・アンド・バランスが体系的に組み込まれています。しかし、何をどのように改善すべきかを正確に見極めるには、さらなる視点が必要です。

 

鏡がなければ、歯に何かが挟まっているかどうかを必ずしも知ることができないのと同じことです。書くことは、その瞬間、そして時間を超えて私たちの考え方を映し出す鏡の役割を果たします。自分自身と健全な感情的距離を置くことで、より客観的になり、自分の信念を確認し、必要ならば挟まっていたものを掃除するのに役立つのです。

 

3. 書くことは、ノイズから洞察を見出す能力を向上させる

書くことは、健全な投資調査の習慣を育てます。有益な情報を検出するための意識的なフレームワークを用いることで、「洞察-ノイズ・フィルター」が研ぎ澄まされるのです。

 

あまりに基本的な例ですが、S&P500種株価指数が年初から著しく好調なスタートを切ったと浮かれる2023年半ばごろの見出しを考えてみましょう。「株は絶好調だ」と受け取るのは簡単かもしれません。本当にそうだったのでしょうか?上昇の大部分の原動力となったのはわずか7社でした。平均的な銘柄はほとんど動いていませんでした。つまり、あるテーマの根底にある仕組みは、表面的に見えるものよりもはるかに微妙なものであることが多いのです。

 

株式市場の健全性を記述しようとするシンプルなプロンプト(問いかけ文)が書かれていれば、すぐに文脈がわかったでしょう。

 

4. 書くことは、投資プロセスにおける「車線アシスト」の役割を果たす

運転手であるか投資家であるかを問わず、道路から目を離すと、コースから逸れる可能性は急上昇します。ホットな話題は、私たちがまさにこのような状況のために作った規律あるコースから、静かに、しかしあまりにもたやすく私たちを遠ざけてしまいます。結局のところ、どんなに優れた投資プロセスであっても、それに私たちがどれだけ忠実に従っているかが重要なのです。

 

20235月、差し迫った「米国債務上限危機」は、財務省が債務不履行に陥り、世界経済が大混乱に陥るのではないかという懸念を呼び起こしました。ニュース・ネットワークは、政治家たちの1日のスケジュールをもとに、ワシントンDCのさまざまな派閥が協力する可能性を推測し、特集番組を放送しました。大見出しは、何週間も続くシステミック・リスクに対する恐怖が広がっていると煽りました。1960年以来77回も債務上限が引き上げられてきたにもかかわらず、今回はこれまでとは違うと。当然ながら、集中し続けるのは困難でした。

 

しかし、書くことは、プロセスが最も重要なときに、それに的を絞るうえで助けとなります。新たなテーマを熟考する際には、意図的なプロンプトを構築することで、私たちがより明確にものが見えるようにするためのチェック・リストができます。さらに、書くことは自分自身のアイデアを校正し、自らのセカンド・オピニオンとしての役割を果たします。

 

5. 書くことは、意思決定の質に光を当てる

パフォーマンス結果だけでは、私たちの投資判断の真の質を推し量るには十分ではありません。私たちの分析は適切だったのでしょうか?結果は期待した通りの理由から結びついたものでしょうか?正しかったのか、幸運だったのか。間違っていたのか、不運だったのか?インプットへの考慮なしでは、アウトプットを評価するための装備が足りません。さらに重要なことは、結果のみに焦点を当てると、達成しようとしている長期的なインパクトを総合的に高めることができる学習の機会を無視してしまうことです。

 

後知恵ではすべてを良く見通すことができるかもしれませんが、ある時点で実際にどう考え、どう感じたかを思い出すことは、それを文書化するプロセスがない限り、曖昧になりかねません。書くことで、その瞬間をより意図的にとらえることができます。書くことで作られるタイムカプセルは、より深い文脈を提供し、フィードバックを通じて、進化し続ける学習曲線を加速させるのです。

 

 

では、どうやって始めましょうか?

投資としてみると、書くことにはJカーブ効果の価値があります。フィットネスと同じように、忍耐と努力が書くための筋肉を鍛えるのに役立ちます。まず、始めるにあたっての方法をいくつか紹介します:

 

l  小さく始めること

l  タイミングを考えること

l  目的に長さを一致させること

l  自分の感情に注意を払うこと

l  定期的に見直すこと

 

 

この投稿を気に入られたら、Enterprising Investorのご購読をお願いいたします。

 

(翻訳者:清水英佑、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/10/18/five-reasons-why-writing-is-the-most-underrated-investment-skill/

 

当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。