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CFA協会ブログ

No.641

2023年10月27日               

AI:ファミリーオフィスはどのようにAIを活用できるか?4つの利用法を指南
How Can Family Offices Leverage Artificial Intelligence? Four Applications

Dan Conner, CFA, FSA

 

人工知能(AI)は、ビジネス業界でも大衆文化でも大きな話題と不安をもたらしています。だれもがChatGPTやその他生成AIプラットフォームについて耳にしたことがあるでしょうし、個人でも職場でもそれらを利用する人が増えています。

 

投資の世界も例外ではありません。金融プロフェッショナルたちは生成AIの導入方法と、それから身を守る術を模索しています。AIは力強く確固たる結果を生み出すことができる便利なツールですが、同時に大きなリスクもはらんでいます。だからこそ、ファミリーオフィスはAIの強みと限界を理解し、AIの潜在的脅威に気を配りながら、責任ある形で業務にAIを取り入れる必要があるのです。

 

AIは顧客サービスをどのように改善するか?

AIは投資推奨やシナリオ分析、シミュレーションの実行、さまざまな投資要因の監視を行うことができます。企業はリスク分析、サプライチェーン管理、会計業務、ファイナンシャル・プランニングなどの目的でAIを活用できます。ファミリーオフィスはAIを技術スタックに取り入れることで、生産性を高め費用を削減できます。最終的にデータモデリングではなく、顧客との関係構築やイノベーションの向上、市場シェアの拡大にアドバイザーの時間を多く割けるかもしれません。これにより、必ずしも人を介した業務を時代遅れなものにせずともAIが効率性を改善します。つまり、ファミリーオフィスはAIを活用することで、人的資本の価値を最も創造できる分野に再配分できるのです。

 

AIを使ったカスタム化

AIは投資ソフトウェアを通じ、ファミリーオフィスに重要な価値の提案を行います。大量のデータを処理することで、AIはアルファを創出する可能性のあるトレンドやパターンの特定を支援できます。人による判断でさらに肉付けし、明確な範囲で制約を加えることで、AI投資プロセスを微調整し、個々の顧客に合わせた支援を行い、ソリューション提供します。

 

ファミリーオフィスによるAIの最適な活用法

ファミリーオフィスは、過去の財務データ、市場動向および関連のあるファクターを学習させたAIによるウェルスマネジメント・モデルを効果的に活用し、それらを以下の業務に応用できます。

 

1. 投資分析

AI生成投資シナリオやシミュレーションは、潜在的なリスクやリターンについて洞察を提供することで、ファミリーオフィスの投資戦略を導き、より有益な情報をもたらすことができます。ファイナンシャルプランナーがシークエンス・オブ・リターン・リスクシナリオを実行するように、ファミリーオフィスは大量のデータに基づいて代替的な投資シナリオやパフォーマンスのシミュレーションを実行します。AIを追加することで、より洗練されたデータに基づく意思決定を下せるのです。

 

2. ポートフォリオ配分の最適化

AIはさまざまな資産配分戦略のシミュレーションを行うことができます。リスク選好やリターン目的、投資における制約を考慮し、投資目的に沿った最適なポートフォリオ構成を提案します。したがって、AI主導の投資分析は、ファミリーオフィスに仮説を検証し、緊急時対応策を実行する手段を提供します。

 

3. リスク管理

ファミリーオフィスでは、リスク管理は常に難しい作業ですが、AIはその対応を支援します。市場データ、マクロ経済指標、その他関連要素の監督を通じて、AIはリスクシナリオに警告を発するのに役立ちます。AIの力を生かして、ファミリーオフィスはそのデータに対して危機的な事象の実証実験を行い、リスクの大きさをモデル化できます。しかしAIがもたらす付加価値は単に診断にとどまりません。AIは潜在的な脅威をモニタリングし、戦略的なタイミングで対応するツールも提供してくれるのです。

 

4. オルタナティブデータ分析

ソーシャルメディアの配信、新しい記事、オンライン上のセンチメントなどのオルタナティブデータソースの処理や分析にAIを活用することで、 ファミリーオフィスは新たなトレンドや投資機会を特定し、伝統的な分析ではこれまで見過ごされてきた情報を入手できるようになりました。定性的データを調査し、以前は手が届かなかったり、費用がかかりすぎて分析できなかったりしたデータに、微妙な差異を付加する大きな可能性を秘めているのです。

 

慎重だが意図的なAIの採用

AIの重要性や将来性は引き続き拡大するとみられます。それを念頭に、ファミリーオフィスはAIの長所だけでなく、AI行き過ぎてしまう可能性や短所も調査して然るべきです。経営陣はAIがどのように事業を強化するのか、それとも脅威にさらすのかを理解するために資源や人材をつぎ込み、チームメンバーを任命してこれらプログラムや自社に与える影響を監視し調査する必要があります。

 

AIには数多くの長所があることは明らかですが、AIの利用はまだ始まったばかりであり、新しく登場した広く試されていない技術と同様に、慎重に対応すべき理由があるのです。

 

実際、ファミリーオフィスは極めて規制の高い分野で事業を行っており、慎重に扱う必要のある知的財産を常に念頭に置く必要が往々にしてあります。各ファミリーオフィスは、AI導入の範囲を決める必要があるでしょう。現実にリスクは存在しているのです。一つ例を挙げましょう。サムスンのソフトウェアエンジニアが社外秘にあたるようなソースコードをChatGPTにアップロードしました。ChatGPTを信用しすぎたある弁護士は、訴訟ケースを慎重に調査することなく、ChatGPTを使用して完全にでっち上げの判例を使用した結果、制裁が課せられ倫理違反が問われることになりました。こうしたリスクを考えると、ファミリーオフィスは、知的財産が確実に安全で、顧客に提供する情報が正確であるよう、冗長性と品質管理を組み込む必要があります。

 

AIはファミリーオフィスの業務に革新をもたらすでしょう。だからこそ、各ファミリーオフィスがAIの採用方法、ガバナンス手順、長期的なAIの導入計画について意識的に行動しなければならないのです。AIというツールの利用はすでに始まっています。それをどうやって最大限活用するかはファミリーオフィスの創意工夫にかかっているのです。

 

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執筆者

 

(翻訳者:中山桂、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/10/24/how-can-family-offices-leverage-artificial-intelligence-four-applications/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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