645

CFA協会ブログ

No.645

2023年11月24日               

よりよいインフレ予想は、どちらですか?エコノミストあるいは消費者?
Better Inflation Forecasters: Economists or Consumers?

アリク・ライト

 

インフレの予測は難しいことで知られております。つまり私たちは一連の予測について取り組まなければなりません。結局のところ、私に優れたインフレ予測をできるのならば、それについて書かず、おそらく投資をしているでしょう。

 

現代の経済理論は、実際のインフレは将来の期待インフレに依存していると仮定しています。つまりインフレがどうなるかは、人々がインフレはどうなると考えているかの一部分なのです。実際、ジェローム・パウエル議長は、連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見議会証言の両方で、アメリカ連邦準備制度理事会による期待インフレの分析を頻繁に引用しています。

 

もし予測がFRBの意思決定プロセスに影響を与えるとすれば、インフレを予測したい投資家は、答えるべき2つの重要な質問に直面することになります。どの期待インフレの指標に注目すべきでしょうか?また、期間はどうすべきでしょうか?

 

現在の議会への金融政策報告書によると、政策当局者はいくつかの期待インフレの指標を分析しています。それらは、金融市場の参加者やスタッフの経済モデル、専門の予測者のコンセンサス、家計や企業の調査などから得られる指標です。それらの期間も重要です。より短期間では、パンデミックの際に見られたように、実際のインフレは金融政策ではない要因によって変化する可能性があります。

 

では、消費者やエコノミストの短期および長期の実際のインフレ予測は、どれくらい正確なのでしょうか? それらは、金融政策の将来の方向性にとって、意味があるのでしょうか?見てみましょう。

 

データ

この分析では、消費者の期待インフレの指標として、ミシガン大学の消費者調査(消費者信頼感指数)を用います。この調査は月次ベースで発表され、12か月先と5年先という短期および長期のアメリカ国民の期待インフレの見通しを示しています。12か月の予想データは1978年まで遡れます。5年の予想データはより飛び飛びで、一貫したデータが得られるのは1990年以降のみです。

 

 

クリーブランド連銀のインフレ予測モデルは、エコノミストのインフレ予測の指標で、1年、5年、10年先の予測を示します。このモデルのデータは 1982 年に始まり、主要な入力データには、優良企業のCPI予測や当月および過去のCPI、短期と長期の米国債利回り、前年比CPI上昇率の中央値についての専門家予測の調査や、その他の変数等が含まれます。

 

ここでは、CPIとコアCPIをインフレ指標として用います。前者は消費者にとって最も関連性のあるものですが、政策立案者は変動の少ない「コア」の指標に焦点を当てる傾向があります。他の期待指標との方向性を比較するために、私は前年比および5年間の年率ベースのCPIとコアCPIを使用します。

 

結果:12か月先の予測と実際のインフレ


以下のグラフは、ミシガン大学の調査とクリーブランド連銀の12か月先のインフレの予測を、それぞれ CPI とコア CPI の実際の前年比の変化と比較して示しています。より具体的に言えば、CPIとコアCPIの前年比変化を12か月ずらして、翌年のインフレを示すようにしています。このようにして、消費者とエコノミストがインフレをどのように変化していくかを予測したか、そして12か月後にインフレがどうなったか分かります。

 

プロットしてみると、エコノミストも消費者の予測も、将来のインフレをうまく予測していないことが分かります。CPIについては、現実値と期待値の乖離は大きいものです。コアCPIの予測は、もう少し正確になっているようです。特に、1990年代半ばの予測は、期間内でかなりの一致を示しています。より最近では、2010 年代には、エコノミストの予測はコアCPIよりも変動率がはるかに高かったにもかかわらず、インフレの平均レベルを予測する上で適切な役割を果たしました。

 

もう1つの興味深い結果は、2000年前後から、消費者の期待インフレ率は一貫してエコノミストの期待インフレ率よりも高かったということです。2010年代を通じて、消費者の期待インフレ率は実現 CPIとコア CPIの両方をはるかに上回っていました。一般的に、消費者もエコノミストも、パンデミック後のインフレの急上昇は予測できていませんでした。

 

しかし、他の期間における予測はどうでしょうか?次の図は、予測指標と実際のインフレの間の3年のローリング相関を示しています。

 

 

CPIやコアCPIと予測指標は、1990年代にはある程度の相関関係を示しましたが、その関係は非常に不安定です。2010 年代には、4つの相関すべてにおいて、相関関係は正ではなく負が多くなりました。消費者とエコノミストの予測は双方とも、予測したインフレの程度だけでなく、インフレの方向性においてもしばしば大きく外れていたのです。

 

以下は、CPIとコアCPIの標準偏差と同様に、予測変数の回帰から得られる二乗平均平方根誤差 (RMSE) R2値を示す表です。

 


エコノミストと消費者が、将来のインフレについての信頼しうる予兆を予測したとするならば、調整後R2値は高く、RMSECPIとコアCPIの標準偏差を大幅に下回ると予想されます。 しかし、12か月先のCPIに対する2つの指標による予測は、不正確でした。RMSECPIの標準偏差とほぼ同じであり、調整後R2値は非常に低いため、回帰分析では1年ごとの変動がほとんど説明できないことがわかります。

 

しかし、コア CPI の測定値はより正確で、RMSE は低く、エコノミストの予測はコアCPI 変動の約40%を説明できます。ミシガン大学の統計でも同様のことが言えますが、エコノミストは消費者よりも予測では上であることを示します。コアCPIの全体的な分散が低いため、両グループは12か月先のインフレを予測しやすかったのです。

 

結果:5年先の予測と実際のインフレ

金融政策ではない要因が短期的なインフレに影響を与えるため、短期的な予測はより困難になる可能性があります。おそらく、短期的な物価変動が「平準化」するので、消費者やエコノミストは、長期的なインフレをより正確に予測できるようになるでしょう。この仮説を実証するために、私は対象期間を1年から5年に延長しました。

 

それでは、5年間のインフレ率の年次変化は、クリーブランド連銀とミシガン大学の調査による5年先の予測と、どのように比較されるのでしょうか?

 

ここでも予測指標は変動しており、消費者物価指数とコアインフレは共にかなり乖離しています。クリーブランド連銀の推計は、インフレと同様に30年間の大部分で減少しているため、少なくとも方向性としては正確です。ミシガン大学の調査による予測値は一貫してCPIとコアCPIを上回っており、インフレをあまり正確に予測していませんでした。20187月に行われた予測変数の最後の予測では、20237月のインフレを予測できず、どちらも最近の2年間のインフレの急増を予測できませんでした。

 

 


 ローリング相関のプロットは、こうした非公式な観測結果のいくつかを裏付けています。エコノミストの推計は、過去15年ほどにわたって、CPIと低い相関を持つだけでした。ミシガン大学の調査では全くと言っていいほどにあらゆる予測能力は示されず、過去20年間の大部分で負の相関を示しました。実際、ローリング相関をプロットすると、予測と実際のインフレの間に、安定した関係があることを示しませんでした。

エコノミストの集計された統計値は、5年先のインフレを予測することに関してわずかな能力しかないことを示しています。5年先のCPIに対するR2値は、前の12か月回帰のR2値よりも高くなっています。これは、エコノミストが構築したモデルが、より長い期間の恩恵を受けることを意味します。ミシガン大学の調査はCPIとの有意な関係を示していませんが、コアCPIとの統計量は改善しており、コアCPIに関するエコノミストの予測とはほぼ一致しています。全体として、回帰分析では、長期インフレの予測が容易であることを示していません。実際、いくつかのケースではパフォーマンスが悪化します。

 

さて、次はどうしましょうか?

経済理論によれば、インフレをコントロールするには、予測管理が鍵となります。しかし、将来の期待インフレに対するエコノミストや消費者の予想は、短期でも長期でも、大きく外れていることが証明されました。全体として、エコノミストは消費者よりわずかに有利ですが、その優位性は小さく、主に短期のコアCPIに限定されます。

 

確かに、ここで使用されている以外のインフレ指標はあります。例えば、PCECPI中央値、「スティッキー」指数、市場ベースや企業調査などのインフレ期待の他の尺度等々あります。しかしこの分析が示すように、最も一般的な指標で確信を持ったインフレ予測ができないのであれば、インフレ予測全体の有用性に大きな疑問が投げかけられます。

 

つまり、インフレ予測は難しいだけでなく、時間の無駄になる可能性があるのです。

 

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執筆者

Aric Light

(翻訳者:安部 智宏, CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

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) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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