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CFA協会ブログ

         

No.657

2024年3月1日               

2024年米国ウェルス・マネジメントの見通し

2024 US Wealth Management Outlook: In with Alternatives?

エイプリル・J・ルーディン (April J. Rudin)

 

 

新たな年、新たな投資

我々の多くは、2023年に経験したような精神的な打撃はもう繰り返さないだろうと、現実的には潜在的なリスクがあることを理解しながらも慎重な楽観論とともに2024年を迎えました。米大統領選挙の年にあってまだ確実視することはできないものの、長く予言されてきた米国の景気後退は現実のものにはならず、市場は金利に対して明確な見通しを持ちつつあるようです。このため、我々の多くは新たな年に向けて、新しい投資機会をとらえようとしています。

2024年、ウェルス・マネジメントの分野では、オルタナティブ投資に新たな注目が集まっています。オルタナティブ投資の秀でているところ、そして複雑なところは、それが芸術作品から不動産、プライベート・エクイティまで幅広い分野を包含している点にあります。ウェルス・マネジャーにとって、顧客にどのようにサービスを提供するのが最適かという点が課題となります。とはいえ、プライベートマーケットやオルタナティブ資産が民主化され投資しやすくなったことで、顧客のこの分野に対する関心はますます高まっています。実際のところ、キャップジェミニは2023年ワールド・ウェルス・レポート」の中で、ウェルス・マネジャーに対して競争激化の中で進化する顧客の嗜好に対応できるよう、オルタナティブ投資により強く注目するよう提言しています。

「結局のところ、数十年という投資期間を考えるほとんどの顧客は、オルタナティブ投資に30%以上を配分することを許容できると考えています」とUBSCIO米州オフィスのポートフォリオ戦略責任者のダニエル・スカンサローリ (Daniel Scansaroli) 氏はバロンズ紙に語っています

 

オルタナティブ投資に関する5つの議論

1. 分散は重要である

我々は常にこの原則を顧客に強調しています。分散されたポートフォリオは強靭であり、オルタナティブ投資は最も優れた分散投資対象の一つです。顧客がより高いリターンや新しいタイプの投資を探す際、オルタナティブ投資はこれまで顧客が考えもしなかったあるいは怖くて手を出そうともしなかった投資対象を提供できる場合があります。

2. 大きな可能性

関心は高まっているにもかかわらず、2022年の顧客資産に占めるオルタナティブ投資の比率はまだ14.5%に過ぎませんまた、ウェルス・マネジメントの幹部の3人に1人しかオルタナティブ投資商品をポートフォリオに加えることを予定していませんこのような控えめな数字は、特に個人の富裕層がエンダウメントやファミリーオフィスに倣おうとする場合、オルタナティブ投資に大きな成長余地があることを示しています。例えば、大規模エンダウメントでは運用資産のおよそ60%がオルタナティブ投資に充てられています

3. 富と金融知識は無関係

我々の顧客には投資する資金はありますが、それをどこでどのように投資すべきか、いつもわかっている訳ではありません。そこで我々の出番となります。顧客が探しているものが、一般的な投資対象から大きくはずれているものや、新たな投資機会の場合ほど、ウェルス・マネジャーの役割が一段と重要となることは他にはありません。オルタナティブ投資には独自の利点がありますが、一方で税制面での考慮など、ウェルス・マネジャーが顧客を導けるよう準備しておくべき複雑な問題もあります。

4. 顧客が知らずにオルタナティブ資産を保有している可能性

何が投資資産を構成するのは必ずしも明らかではありません。そして、投資アドバイザーの手助けによって簡単なオルタナティブ投資の機会に気づくこともあります。顧客は美術作品や靴、宝石、その他の蒐集品を所有しているか、あるいは所有したいと考えているかもしれませんが、それらがポートフォリオで果たす役割には気づいていないかもしれません。

例えば伝説的なエルメスの高級バッグ、バーキンは信じられないほど高価ですが、価値が上がることもあります。2020年のデロイトのレポートによればバーキンの年率換算リターンは、素材、サイズ、希少性にもよりますが、平均で5.7%です。

5. デジタル資産への需要

ウェルス・マネジメント会社がデジタル資産に対して当然のごとく慎重になるのは、一般的にそれが資産の透明性を欠いており、規制の状況も変化しているからです。しかし、投資家、特に若い世代やアジア市場の投資家は、デジタル資産の選択肢に熱狂的です。高いボラティリティにも関わらず暗号通貨は依然として最も人気のあるデジタル資産であり、より広範なオルタナティブセクターと同様に急速に拡大する市場です。

 

ウェルス・マネジャーは伝統的な強みに集中し続ける一方で、最新の投資イノベーションを探し出し、それを顧客のために活用することができます。近年の市場の不安定性と不確実性は、伝統的な証券の枠を超えて柔軟な考え方を受け入れることがいかに重要であるかを示しています。

ウェルス・マネジャーにとって、オルタナティブ投資は検討余地のある成熟した市場であり、思慮深く投資配分を行うことで、市場が難局を迎えた際、それを乗り切る助けとなることでしょう。

 

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執筆者

April J. Rudin

(翻訳者勝野 泰典、CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/02/23/2024-wealth-management-outlook-in-with-alternatives/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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