インカ・ファレティ (Yinka Faleti)
気候変動は、富裕層(high-net-worth individual, HNWI)にとっても避けられないものです。その影響は、HNWIとそのファミリー・オフィスに短期的および長期的な決断を迫っています。短期的には、この現象はHNWIがどこに住むか、旅行するか、ビジネスを行うかという計画を変えつつあります。長期的には、自分たちの子供や孫、そして社会全体にとって世界がどのような姿になるのか、疑問を抱かせることになります。
社会的責任投資や持続可能なインパクト投資は、短期的・長期的な利益を保護し、その過程で金銭的な報酬を得る可能性のある手段をHNWIに提供します。
気候変動がHNWIに与える影響
フロリダとカリフォルニアは、HNWIに長く愛されてきた2つの州です。しかし、気候変動がその状況を変えるかもしれません。多くの保険会社は、たびたび暴風雨とハリケーンの脅威にさらされるフロリダから、脱出しています。ファーマーズ・インシュアランス(Farmers Insurance)、バンカーズ・インシュアランス(Bankers Insurance)、AIG傘下のレキシントン・インシュアランス(Lexington Insurance)などは、同州での住宅保険の取り扱いを中止しました。
カリフォルニア州も同様のジレンマに苦しんでいます。2010年代後半と2020年代前半に壊滅的な山火事のシーズンを経験した後、カリフォルニア州は最近、大気の不安定状態による支流氾濫と大嵐に見舞われました。ハリケーン「ヒラリー」は同州の一部の地域に1日で1年分の雨を降らせ、70億ドルから90億ドルの損害をもたらしました。度重なる損害に苦しめられ、保険会社は、保険料をますます高く設定したり、同州から完全に撤退したりしています。
HNWIは保険料の上昇を冷静に受け止めることができるかもしれませんが、保険が受けられなくなることはまったく別の問題です。HNWIはこれらの州に留まり、多額の経済的損失を被るリスクを負うのでしょうか、それとも完全に移転するのでしょうか。これらの州から去ることで当面の問題は解決するかもしれませんが、同じ本質的な疑問が残ります: 彼らは相続人にどのような世界を残すのでしょうか?
そこで社会的責任投資が、「成功する」と「良いことをする」の間のギャップを埋める助けとなります。
持続可能なインパクト投資: 善行主義を超える投資
社会的責任投資や持続可能なインパクト投資は、単にお金を失う利他主義の一形態ではありません。富裕層やファミリー・オフィスは、他の投資家と同様、投資による金銭的リターンを得ることを期待しています。持続可能な企業には、収益を超えた動機があるかもしれませんが、長期的に投資家にアピールするためには、持続可能な収益を伴うビジネスモデルを持たなければなりません。
このような投資戦略の影響力の高まりは、その実現可能性を示しています。このような投資戦略は、いくつかの重要なマイルストーンを達成しています:
1. グローバル・アクターからの賛同
世界的に、社会的責任投資は加速しています。サウジアラビアの政府系ファンドである公共投資ファンド(PIF)は、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成するという目標を発表しました。各国政府はインパクト投資を後押ししています。
2. 資本と顧客の拡大
環境・社会・ガバナンス(ESG)報告は、投資家の売買判断においてますます重要性を増しています。半数近く(48%)がサステナブル投資に関心を示し、68%がサステナブル商品にもっとお金を払ってもよいと回答しています。
個人的な観点からは、気候変動を緩和する企業に投資することは、富裕層が享受している有形資産を守るだけでなく、相続人のために資産を守ることにもつながります。気候変動は、自分たちが生きている間、あるいは数世代先には解決されないかもしれませんが、気候変動対策に資源を集中させることで、経済的にも実際にも利益を得ることができると考える消費者、投資家、金融機関、政府はますます増えています。
投資あるいは投資の足場となるバックアップとしての惑星は存在せず、HNWIはそのような思惑に沿う資本配分の調整を始めようとしているところです。
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執筆者
Yinka Faleti
(翻訳者:村上みさき, CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/03/05/climate-change-calculus-hnwis-and-sustainable-impact-investing/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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