デヒッド・ブランチェット PhD, CFA, CFP、ジェレミー・ステンピアン
もしも1年間の投資ホライズンのリターンと共分散だけに注目するのであれば、あなたは投資ポートフォリオの中にコモディティのための余地はないと結論付けるかもしれません。しかし、より長期の投資ホライズンではコモディティの効率性は劇的に改善します。期待リターンを用いてヒストリカルな系列依存性を一定に保持した場合には特にそうなります。
投資ホライズンに応じてコモディティへのアロケーションがどのように変わり得るのか、特にインフレーションを考慮した場合についてお示しいたしましょう。投資プロフェッショナルはポートフォリオの構築に際して特定の投資、特にコモディティのような実物資産についてより繊細な見方をする必要があるかもしれないことを、わたしたちの分析は示唆しています。
これは、わたしたちのCFA協会研究財団ペーパーに関する一連の投稿の第三回目となります。わたしたちは第一回目の投稿で、様々なアセットクラスの間でヒストリカルな系列相関が存在することをお示ししました。第二回目では、投資ホライズンに応じて株式のリスクがどのように変化し得るかを議論いたしました。
コモディティのヒストリカルな非効率性
コモディティのような実物資産は、より大きな選択機会が揃う中ではしばしば非効率的であるとみなされ、そのために平均分散法(MVO)のような共通ポートフォリオの最適化ルーチンの中で、通常はわずかなアロケーションを与えられるにすぎません(または全く与えられないこともあります)。コモディティのヒストリカルな非効率性を図1にまとめました。同図では、米国キャッシュ、米国債券、米国株式およびコモディティの1870年から2023年までのヒストリカルな年率リターンが示されています。米国キャッシュ、米国債券、米国株式の主要リターンは、Jordà-Schularick-Taylor (JST) マクロヒストリーデータベースの1872年(完全なデータセットが利用可能である最初の年)から2020年(利用可能である最後の年)までのデータと、それ以降の年のリターンについてはイボットソンのSBBIシリーズのデータを用いました。
コモディティのリターンのシリーズは、カナダ銀行のコモディティ・プライス・インデックス(BCPI)の1872年から1969年までのデータと、S&P GSCIインデックスの1970年から2023年までのデータを用いました。BCPIは連鎖式のフィッシャー物価指数であり、カナダで生産され世界市場で販売された26品目のコモディティの米ドル建てスポット価格ないし取引価格で構成されています。GSCIは、投資可能なコモディティインデックスとしては最初に主流になったものであり、その幅広さと生産によるウエイト付けでグローバルなコモディティ市場のベータを表現しています。
GSCIの長い歴史、BCPIの構成比率との類似性、およびGSCIのパフォーマンスをほぼトラックするために用いることのできる一般的に利用可能な投資プロダクトがいくつか存在するという事実から、わたしたちはGSCIを選択しました。これらの中には、2006年7月10日を開始日とするiシェアーズETF GSGが含まれています。データの利用可能性(1872年まで遡及するリターンなど)と認知度の理由から、わたしたちは2つのコモディティインデックス指数を用いました。これらの制約を念頭に置いて、分析結果を見ていただきたいと思います。
図1 アセットクラス別のヒストリカルな標準偏差と幾何平均リターン:1872年~2023年

(出典)Jordà-Schularick-Taylor (JST)マクロヒストリーデータベース、カナダ銀行、モーニングスターダイレクト、筆者による算定
短期証券、債券および株式と比較すると、コモディティは明らかに信じられないほど非効率的です。コモディティは短期証券や債券よりもリターンが低いにもかかわらず、リスクは著しく高いといった具合です。また、概算年率標準偏差の点でコモディティは株式と同一水準にありますが、リターンの点では株式よりもおよそ600ベーシスポイントも低いのです。これらの数値に全面的に基づく場合、コモディティに対するアロケーションはほとんどの最適化フレームワークにおいて低いものとならざるを得ません。
しかし、こうした見方が見逃していることは、とりわけ高インフレーションの時期にコモディティを所有することによる潜在的な長期的利益です。図2は、インフレーション環境の異なる時期における短期証券、債券、株式およびコモディティの平均リターンに関する情報を示したものです。
図2 異なるインフレーション環境におけるアセットクラス別の平均リターン:1872年~2023年

(出典)Jordà-Schularick-Taylor (JST)マクロヒストリーデータベース、カナダ銀行、モーニングスターダイレクト、筆者による算定、2023年12月31日現在のデータ
低インフレーションの時期にはコモディティのリターンも低い一方で、高インフレーションの時期にはコモディティが劇的にアウトパフォームしていることが見てとれます。
より長期の投資ホライズンで見るとコモディティのインフレに対する相関は顕著に高まり、1年間ではおよそ0.2であったものが10年間では0.6となります。これとは対照的に、株式のインフレに対する相関は1年間でおよそ-0.1、10年間でもおよそ0.2となるに過ぎません。言い換えると、コモディティ所有による長期的利益に着目してはっきりとインフレーションを考慮することは、ポートフォリオ最適化ルーチンにおいて認識される効率性を劇的に変化させ得るのです。
マイク・ウォルバーグ CFA とわたしの会話を聴いてみてください。
コモディティへのアロケーション
「サープラス」つまり負債対比型の最適化のような特定のタイプの最適化においてはインフレーションがはっきりと考慮され得る一方で、これらのモデルにおけるひとつの潜在的課題は、財・サービスの価格の変化が必ずしも金融市場における変化と同期した動きとならないということです。つまり、遅延効果があるかもしれないということです。例えば、金融市場では突然の価格変化が生じることがありますが、インフレーションの潜在効果はより強いものとなりがちであり、変化が遅延して顕在化するまでに数年かかることもあります。インフレーションと株式など特定のアセットクラスの1年間(暦年など)の相関(または共分散)に注目すれば、潜在的な長期的利益が見えなくなってしまうかもしれません。
コモディティへの最適アロケーションが投資ホライズンによってどのように変わってきたのかを判定するために、わたしたちは1年間から10年間まで1年ずつ投資ホライズンを延ばしながら、一連のポートフォリオ最適化を実施しました。最適アロケーションは、一定の相対的リスク回避度(CRRA)を用いて決定しました。これは、一定の投資ホライズンにわたる富の累積的成長をリスクで調整したものです。
5%から100%までの5%刻みの株式アロケーションに対応する最適アロケーションを、ターゲットとするリスク回避の水準に基づいて決定いたしました。わたしたちは、このポートフォリオ最適化に4つの資産(短期証券、債券、株式およびコモディティ)を含めました。図3は、考慮されたそれぞれのシナリオごとのコモディティへの最適アロケーションを示したものです。
図3 富の定義、株式リスクのターゲット、および投資期間別に見たコモディティへの最適アロケーション:1872年~2023年

富を名目リターンとして定義した場合は、事実上すべての株式アロケーションのターゲットに対してコモディティへのアロケーションはほぼゼロとなります(パネルA)。一方、富を実質で(つまりインフレーションを含めて)定義した場合は、投資ホライズンが長くなるほどコモディティへのアロケーションが相対的に大きくなることがわかりました(パネルB)。やや保守的なポートフォリオ(株式アロケーションを40%までとするようなものなど)をターゲットとする投資家にとってこれはとりわけ当てはまり、コモディティへの最適アロケーションはおよそ20%程度となります。別の言い方をすれば、コモディティへのアロケーションの認識されたヒストリカルな利益は、富の定義(名目vs実質)と投資ホライズンの想定(1年間から10年間への遷移など)によって大きく変わりました。
コモディティのリターンに対するフォワードルッキングな期待は、ヒストリカルな長期平均ほど荒涼としたものではありません。例えば、コモディティは株式との対比では、リスク調整後でおよそ600ベーシスポイントも歴史的にアンダーパフォームしてきましたが、PGIMクオンタティブソリューションによる2023年第4四半期の資本市場の想定と、42名の投資マネージャーに対して実施したホライズンアクチュアリアルによる調査(10年間のリターンにフォーカス)の両方に基づけば、アンダーパフォーマンスの期待値は200ベーシスポイント近くとなります。
わたしたちは同じヒストリカルタイムシリーズを使いつつ、キャッシュ、債券、株式、コモディティのリターンおよびインフレーションの期待値(それぞれ3.6%、5.4%、8.4%、6.1%および2.5%)、および標準偏差(それぞれ2.0%、5.6%、15.3%、14.7%および2.0%)に適合するようにヒストリカルリターンの中心化を行い、ポートフォリオ最適化を再実行しました。図4で示されたとおり、コモディティへの最適アロケーションは、名目と実質のいずれで富を定義するかにかかわらず著しく増加しました。
図4 富の定義、株式リスクのターゲット、および投資期間別に見たコモディティへの最適アロケーション:期待リターン

コモディティへの最適アロケーションは、名目の富にフォーカスした場合は投資家の株式リスクのターゲットまたは投資ホライズンにかかわらずおよそ10%であり、実質の富にフォーカスした場合は20%近くからそれ以上でした。これらの結果は、コモディティにアロケートすることの潜在的利益が、ヒストリカルリターンを用いる場合よりも期待リターンを用いる場合に顕著に高まることを示唆しています。
1年間のリターンと共分散の先を見ていきましょう
ある資産のリスクを考慮するときに1年間という投資ホライズンのリターンと共分散だけに着目していたのでは、その潜在的利益を捕捉することがいつも可能であるとは限らないということを認識することが重要です。コモディティのようなアセットクラスは、インフレーションを心配する長期投資家にとって歴史的に顕著な分散化の利益を有しています。投資プロフェッショナルがこれらの効果と最適なポートフォリオへの潜在的な意味を認識することが本質的に重要です。
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執筆者
David Blanchett, PhD, CFA, CFP and Jeremy Stempien
(翻訳者:荒木 謙一、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.CFAinstitute.org/investor/2024/07/08/commodities-for-the-long-run/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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