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CFA協会ブログ

         

No.679

2024年8月23日               

市場リスクとモデル・リスク:連続的に織り込まれるべきリスク事象

Market and Model Risk: Sequentially Interweaved Risk Dimensions

アティカ・ラジ(Attika Raj)、CFAFRM

 

 

市場リスクとは、金利・通貨・為替/商品スポット・レート・株価等の市場要因の変動により、有価証券に生じる潜在的な損失のことです。これらのリスクは、社債からコモディティに至るまで、全ての取引される有価証券に内在しています。各有価証券は同時に複数のリスクに直面する可能性があるため、市場リスクは投資家や金融機関にとって極めて重要な検討項目です。

これらのリスクをさらに複雑にしているものがモデル・リスクで、これは財務的なアウトプットと意思決定を決定するためのモデル開発と利用に内在するリスクを指します。非効率的な、あるいは誤ったモデリング手法は、企業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。したがって、このリスクを理解し管理することは、十分な情報に基づいた財務上の意思決定や潜在的な損失を防ぐために不可欠です。

 

市場リスクの詳細

証券が持つ構造的要素における様々なリスク要因が、その有価証券の持つ市場リスクの種類と程度を決定します。最も広く研究され、よく考察されている市場リスクの種類に、金利リスク・信用リスク・為替リスク・株式リスク・コモディティリスクがあります。一つの有価証券が、これらのリスクの一つまたは複数を有することもあります。例えば、社債は信用リスクだけでなく金利リスクも有し、外貨建であれば為替リスクも内包します。したがって、市場リスクとは広義には、金利や株価など市場関連のリスク要因により有価証券の価値が変動すること、と考えることができます。しかし、こうした有価証券評価は、企業やリスク・マネジャーのリスク・プロファイルに応じて、投資・規制遵守・ポートフォリオの最適化等のより多くの意思決定に活用されるため、広範囲に影響を及ぼします。

 

モデル・リスクの詳細

モデルには、インプット/データ、前提条件、ロジック/プロセス、最終アウトプットという様々な構成要素があります。これらの構成要素のいずれかに沿って、非効率的な、あるいは誤ったモデリング手法が用いられた場合、時として企業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。SR11-7規制の枠組みは、銀行がどのようにモデル・リスクを管理すべきかを定義していますが、これは他の金融企業にも関係のあることです。

 

市場リスクとモデル・リスク:依存関係

市場リスクとモデル・リスクは異なるリスク事象を表しているように見えますが、両者は連続した形で織り込まれています。これは、企業による市場リスクの定量化や決定、その結果としての全ての意思決定が、通常、金融モデルのアウトプットとして表現されることからも明らかです。企業のリスク管理者が市場リスクを効率的に管理することに重点を置く場合、そのプロセスにはモデル・リスクも同様に効率的に管理することが含まれます。したがって、企業の投資リスク、すなわち市場関連リスクを管理するためのコスト・時間・リソースを見積もる際には、これら2つのリスクを相互に関連させることが合理的と言えます。

例えば、有価証券ポートフォリオの価値を決定するために金融モデルを使用し、それによって売買の意思決定を行うようなケースです。バリュエーション・モデルが、ポートフォリオの分散効果やヘッジ効果を考慮しないことで誤った前提を置いている場合、誤った意思決定が行われる可能性があり、それは企業に財務上の影響をもたらすだけでなく、風評リスクや規制リスクにも繋がる可能性があります。

モデル・リスクは、金融機関が健全な市場リスク管理に基づく意思決定を確実にし、規制要件を遵守するためだけでなく、企業として生き残り、更なる成長をするためにも、効果的に管理する必要のある重要なリスクです。価格決定や価値算定にベンダーを利用する場合、ほとんどのベンダーがモデルを使ってその数値を決定しているため、モデル・リスクはさらに増大します。この場合、依頼主である企業側はベンダーのモデルが検証・監査されていることを確認するために、十分なデュー・デリジェンスを実施しなければなりません。

 

規制枠組みを理由する場合

トレーディングに係る計上手法の抜本的見直しFRTB)は市場リスク規制の枠組みであり、規制当局は銀行のトレーディング関連で計上される市場リスクを資本賦課の形で定量化するために、多くの定量的手法を導入しています。この規制の枠組みにおける重要な変化のひとつは、従来のバリュー・アット・リスク(VaR)ベースの手法から、期待ショートフォールベースの市場リスク指標への移行です。この移行により、既存の市場リスクモデルを修正するか、場合によっては市場モデルを一から作り直すことが求められ、FRTBにカスタマイズされた計算を効率的に行う必要があります。このため、新たな前提条件・インプットデータ・コード/ソフトウェア・プログラムの修正、アウトプット指標のカスタマイズによる多様化等、モデル関連の様々なリスクが発生します。FRTBのモデルの前提が変更された場合、資本賦課の数値は大きく変動する可能性があります。市場リスクをより効率的に管理する目的でこのフレームワークを適用することは、新規又は更新されたカスタムモデルでFRTB特有の計算を行うため、そこに内包されたモデル・リスクの管理をするために余分なコストと複雑さをもたらすのです。

 

重要なポイント

リスク・マネジャーは、管理コスト・内在リスクの複雑さ・時間・規制要件に加え、市場関連の投資リスクや有価証券売買に係るリスク等の全体像を把握するために、市場リスクとモデル・リスクを一つのレンズを通して見る必要があります。

 

参考文献

[1] https://www.bis.org/bcbs/publ/d457.htm 

[2] https://www.federalreserve.gov/supervisionreg/srletters/sr1107.htm

 

 

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翻訳者篠原 央士、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/08/21/market-and-model-risk-sequentially-interweaved-risk-dimensions/

 

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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