By アルヴィン・ホー博士、CFA およびジャネット・ウォン、CFA)
(翻訳者:中山桂、CFA)
統計的に見ると、プライベート・エクイティ(PE)による企業所有は高い失敗リスクをはらんでいます。PEの投資先企業の破綻確率は、そうではない企業の10倍ほど高いのです。確かに、5社に1社が破綻すると言っても確実に失敗することを示しているわけではありませんが、驚くべき数値です。それに対する反論として、PEの投資先は不振企業が多く、PEは成功率の低い業務であるという点もあります。
しかし、PEの何が悪いのか理解するには、個人としてもプロとしても行動が必要です。PE会社だけが恩恵にあずかり、それ以外のだれにもメリットのない特定の活動が繰り返されている実態を監視する必要があります。
簡単に言うと、以上が「略奪者:アメリカを食い尽くすプライベート・エクイティの計画(仮訳)(Plunder: Private Equity’s Plan to Pillage America)」の受賞作者、ブレンダン・バロー氏との対談の論点です。連邦検事として、また米司法省でPEの特別弁護士としての経験を持つバロー氏は、CFA香港が主催する対談イベントで個人的にインタビューに応じました。同氏は幅広い経験に基づき、PE会社がその影響力を駆使して経済全体にいかに害を与えているかを気づかせてくれる絶好の存在です。PE業界の仕組みとPE会社が与える深刻な影響について見解を共有してくれました。
対談では、レバレッジド・バイアウト(LBO)が焦点となりました。PE会社は通常、自己資本による投資は少額にとどめ、多額の投資家資金を投じ、投資先企業の買収のために資金を借り入れます。そして数年間で利益を上げようと目論むのです。
バロー氏は、大手PE会社が全体として、投資先企業を通じて何百万人も雇用しており、米国経済におけるPEの影響力が大きいことを強調しました。その大きな存在感にもかかわらず、PEの活動に対する世間の認識は低いままです。
バロー氏は、PEの企業保有に伴う複数の悪影響—投資先企業の倒産確率の上昇、失業、小売りやヘルスケアといった業種への悪影響など—に言及しました。その理由として、(1)PE企業の投資ホライズンが短期、(2)負債依存度が高く手数料を搾り取ろうとしている、(3)法的効果から隔離されている、という3点を挙げています。
また、PEが投資先企業、従業員、顧客をないがしろにしながら、金融工学を駆使していかに利益をむさぼっているかを示す2つのケーススタディを紹介しました。さらに、PEの悪影響を緩和する方法として、PEの活動と、企業およびコミュニティの長期的な健全性とを一致させる規制改革を提唱しています。
バロー氏との対談の抜粋
CFA香港(以下「CFA」)
著書「Plunder」で、PE会社が投資先から過度な利益を搾り取る7つの方法—セール・リースバック、配当リキャップ、戦略的倒産、強制パートナーシップ、税金回避、ロールアップ、解雇や値上げ、品質低下を伴う業務効率性—に言及しています。
Q: (7つのうち)最も有害であり、懸念している項目を1つか2つ挙げていただけますか?
ブレンダン・バロー氏(以下「バロー氏」):1つか2つを上げるのは困難です。例えば、セール・リースバックは必ずしも問題ではありませんが、その企業に数年間しか投資しようと思っていない場合は問題です。事業に対する長期的な視点に立てば、セール・リースバックは合理的かもしれません。
しかし、PE会社は、今後も良い不動産状態を確保するためではなく、主に短期的な価値最大化のために、企業を買収しセール・リースバックを行うかもしれません。この事例は、ウォルマートのようなウィスコンシン州のチェーン店、Shopkoの買収案件で鮮明に表れています。PE会社はセール・リースバックにより、15年のリース契約でShopkoを縛り付けたのです。小売業界は景気循環業種のため、借入の担保に差し出せる不動産保有は重要です。しかし、その不動産をPEはShopkoから取り上げたのです。
2つ目の事例は配当リキャップです。配当リキャップとは基本的に、投資先企業が資金を借りてPE会社に配当を支払うというものです。問題は、PE会社が数年間しかその会社に投資しないかもしれないことです。契約上の取り決めにより、PE会社はごくわずかな持分(1~2%)であっても、投資先企業に対して重大な支配を及ぼすことができます。そのため、PE会社は配当リキャップを実施し、買収費用を回収できるよう投資先企業に資金を借りさせる傾向があります。このようにして、PE会社は買収コストを回収し、以降の収益を純粋な利益へと変えてしまうのです。こうした手法はPE会社には理に適っていますが、投資先企業は返済できるかどうかわからない負債を負わされます。
この例は、利害の不一致により、PEによる買収がしばしば痛みと論争をもたらすことを示しています。
Q: セール・リースバックや配当リキャップのような戦略は、伝統的なビジネス慣行ではないでしょうか?どれも違法ではありません。「悪い」データだけ取り上げている可能性はありませんか?
バロー氏:非常にまっとうな批判かもしれませんが、先に話した基本的な問題に戻ります。PE会社は投資先企業の業務面を支配しているにもかかわらず、財務的または法的な責任をほとんど負いません。つまり、PE会社は事業がうまくいった時は利益を総取りします。一方、うまくいかない時でも利益を得ることがあり、悪影響はほとんど受けません。
セール・リースバック、ロールアップ、配当リキャップのような戦術は、さまざまな場面で多くの企業に最適かもしれません。しかし、こうした戦術が、「どのような状況でもPE会社の利益になる」ビジネスモデルと組み合わさると、ほとんどの場合、PE会社を除くすべてのステークホルダーにとって、壊滅的な結果をもたらします。
「Plunder」の中で取り上げているビジネス慣行は、究極の資本主義のように見えるかもしれません。バランスシートを再構築することで、必ずしもiPhoneのような新しいものを発明しなくても価値を創造できます。
Q: これら資本主義者たちは、制度の中で活動し政府高官と協働することで、不公平を助長する案件ができるとお考えですか?
バロー氏:もちろんです。第1に、米国の弁護士は20年ごとに問題の多いビジネスモデルを考案する傾向にあります。今はレバレッジド・バイアウトがそれです。20年前はサブプライム・ローン、40年前は貯蓄金融機関、60年前はコングロマリット(多国籍企業)、そして100年前は信託でした。短期利益追求の発想を促す法律や規制を制定できるのです。
誤解のないように言っておくと、私は資本主義者です。しかし、我々が作る法律や規制もまた、こうしたプラスのエネルギーを破壊的な結果に向かわせかねません。そして実際、悲惨な結果をもたらすことがあります。
2つ目に、PE会社が成功する理由は、首脳陣が業務やエンジニアリングの専門家だからではなく、法律や金融エンジニアリング、さらにはロビー活動に長けているからだということを理解することが大事です。PE会社は、効果的なロビー活動で望ましい結果を確保できる、極めて規制の多い業界で成功しています。米国のPE会社は、地方自治体の水道システム、刑務所の電話サービス、メディケアから巨額の資金提供を受けているヘルスケア制度などのさまざまな分野で活発に活動してきました。
こうした分野でPE会社が成功している一因は、下院議長、財務長官、国防長官、副大統領、多数の上下両院議員など、主要な元政府高官を採用してきたからです。こうした人々は現在、PE会社のために働き、PE会社が規制業界で目標を達成できるよう手助けしているのです。
これは、我々が望む資本市場の仕組みではありません。コネを持つ人が自分の有利になるよう規制を制定できる世の中ではなく、だれもが公正に競争できる場を望んでいます。
Q: 過去10年間、アジアや香港など世界各国でプライベート・クレジットが台頭してきました。プライベート・クレジットに対する見解を簡単にお聞かせいただけますか?
バロー氏: さまざまな理由から、米国でプライベート・クレジットが台頭してきました。その1つは、世界金融危機後に大手投資銀行が銀行持株会社に移行し、米連邦準備制度の規制下に置かれ、高い資本要件と監督が課されるようになったことです。これにより、投資銀行の金融活動がPE会社へとシフトし、その後、上場市場以外のプライベート・クレジットへと業務が拡大していきました。
同時に、上場企業に対する規制も厳格化され、上場市場での資金調達が難しくなり、いまやプライベート市場での資金調達の方が容易になりました。結果として、米国の上場企業は10~15年前の約半数になり、根本的に資金の調達と支出方法が変化しました。
プライベート・クレジットに対する私の主な懸念は、透明性の欠如です。この業界は不透明で、監督が困難です。プライベート・クレジット会社の中には、知名度の低い格付機関からAAA格や投資適格を取得しているところもあります。こうした状況は、2007~2008年の世界金融危機時と比べれば規模は小さいですが、類似しています。秘匿性や透明性の欠如という本質的な問題は当時と似ています。
Q: あなたのデータによると、米国ではプライベート・クレジットによる調達額が年によってはIPOによる資金調達額を抜いています。これは将来の時限爆弾だとお考えですか?
バロー氏:金融の専門家ではないので、これが将来の危機かどうかはわかりません。しかし、懸念している人はおり、確実に注視すべき分野です。
最大手のPE会社は自社をオルタナティブ資産運用会社と称し、レバレッジド・バイアウトはその事業の1つに過ぎないと言っています。金利上昇と商業用不動産セクターの苦戦が、こうしたPE会社にどのような圧力となるのか興味深く注視しています。こうした圧力が通常の景気サイクルの一部にすぎないのか、それともよりシステミックなものを示唆するのかはまだわかりません。
Q: プロフェッショナルは、PEが大きな影響を与える企業内および業界内で、いかに公正な実務を提唱できるでしょうか?
バロー氏:私の業務は米国中心ですが、それでも一般的なアドバイスを提供できます。この問題に複数の米国団体が取り組んでおり、知識習得や情報収集に役立つでしょう。金融改革のための米国人(Americans for Financial Reform)、米国経済自由プロジェクト(American Economic Liberties Project)、プライベート・エクイティ・ステークホルダー・プロジェクト(Private Equity Stakeholder Project)などのグループが発行するニュースレターの購読をお勧めします。
プライベート企業に関する政策イニシアチブやリサーチを通じて、CFA協会リサーチ政策センターは、グローバル資本市場の透明性を促進し、投資家保護の強化を提唱しています。
プロフェッショナルとして我々は、既存の法規制の枠組みが時に、短期利益追求の考え方を助長することを認識する必要があります。だれにとっても機能するより良い経済にするには、企業にも投資家にも、長期的な視点を持ち、その行動に責任を取るよう促さなければなりません。必ずしも実現可能でないかもしれませんが、長期的視点の育成は確実に役立つでしょう。
Q: 近年、多くのPE企業が上場し、資産運用額を増やしています。これは、PE企業の優勢を示していますが、このトレンドを支持しますか?
バロー氏:好むか好まざるかに関わらず、このトレンドは不可避に見えます。著書の中で、過去10年間の大手ハイテク企業や、その10年前のサブプライム・ローンの貸手のように、これからの10年はPEが経済を一変させると書きました。実際PEは経済における変革の力であり、その成長は驚くに値しません。PEの資本がより生産的な利用に向かうか、PE会社がさらに責任を負い長期的な視点に立つならば、その資本は経済に利益となるでしょう。
しかし、それには協調行動が必要です。規制の取り組みを通じて変化が起こるでしょう。州および地方の議員や規制当局は行動しなければなりません。例えば、ニューヨーク州、カリフォルニア州、ミネソタ州は、州内で活動するPE会社に条件を課すことができます。企業がセール・リースバックや配当リキャップ、ロールアップを実施し、その後解雇に踏み切らざるを得ない場合、州はPE会社に金融損失の責任を負わせるかもしれません。これは「意思決定者はその行動に責任を負うべき」という原則に沿った方針であり、本来会社法のあるべき姿なのです。
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/08/02/private-equity-in-essence-plunder/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。