C・トーマス・ハワード (C. Thomas Howard)
株式のリターンについて話すとき、多くの人は個別銘柄がプラスのリターンをもたらすはずだと考えています。これは、株式市場が歴史的に債券のような他の資産クラスをアウトパフォームしてきたからです。しかし驚くべきことに、個別株の大規模なサンプルの月間リターンの中央値は―ドラムロールをお願いします―ゼロです。その通りです。ヘンリック・ベッセンビンダーが実施し、2023年4月にファイナンシャルアナリストジャーナルに掲載された調査では、大きなサンプルデータで月単位で見ると、(ドラムロールでちょっと盛り上げてみましょう。)なんと個別株はゼロを中心としたリターンを生み出していることがわかりました。実際、これはリターンが「ポジティブか、ネガティブか」のシナリオを描いています。株式の半分はプラスのリターンを生み出し、残りの半分はマイナスのリターンを生み出しています。
投資家またはアドバイザーとして、あなたとあなたのクライアントはこれにどのように反応しますか?このゼロの中央リターン統計が株式のパフォーマンスを見る唯一の方法である場合、株式への投資を正当化することはまったく困難です。特に短期的な利益を求めているクライアントに株式への投資を説得するのは困難な戦いになるでしょう。
ボラティリティ
実際、株式リターンを評価する方法は、月間パフォーマンスの中央値に注目する以外にも数多くあります。一般的なアプローチの1つは、ボラティリティの観点から株式リターンを測定することです。ボラティリティとは、株式価格の変動幅を指し、標準偏差を使用して測定されることがよくあります。平均すると、株式リターンの年間標準偏差は50%です。つまり、個々の株式の価格は年間を通じて大きく変動する可能性があります。統計でよく使用される95%信頼区間を適用すると、個々の株式のリターンは特定の年に約+/-100%変動する可能性があることを意味します。これは非常に大きなことです。基本的に、個々の株式は12か月以内に価値が2倍になるか、すべてを失う可能性があります。
このレベルの不確実性により、特に安定性を求める人にとっては、株式は気力がうせるようなものに思えるかもしれません。個々の株式は毎月のリターンが「ポジティブか、ネガティブか」のようなもので、年間ではさらにボラティリティが高いという考えは、潜在的な投資家を怖がらせる可能性があります。しかし、株式は主に長期投資を目的としていることを忘れないことが重要です。
短期的な浮き沈みは神経をすり減らしますが、長期的な富の創造への道のりの一部です。
では、長期的な個別株のリターンに焦点を移すとどうなるでしょうか。時間の経過とともに、より一貫性が期待できるのではないでしょうか。ベッセンビンダーは長期的な株式のパフォーマンスも調べましたが、その結果は必ずしも安心できるものではありませんでした。長期的には、米国株の 55%が米国財務省証券のリターンを下回りました。つまり、個別株の半分以上が最も安全な政府支援投資よりも悪い結果でした。おそらくさらに憂慮すべきなのは、個別株の最も一般的な結果が 100%の損失、つまり完全な失敗だったという事実です。これらの結果は、長期的なアプローチをとったとしても、個別株への投資はリスクの高い取り組みであることを示唆しています。
通常、投資家や金融アナリストが株式のパフォーマンスを評価する際、彼らは2つの主要な統計的尺度、つまり中心値 (平均または中央値のリターンなど) とボラティリティ (標準偏差で測定) に注目します。この従来の分析方法は、個々の株式への投資について否定的、または少なくともやる気をなくさせるような話につながることがよくあります。
短期的にはリターンがほぼゼロで、中期的にはボラティリティが非常に高く、長期的にはリスクが高い場合、なぜ株式に投資する人がいるのでしょうか?
歴史が示すように、答えは、これらの課題にもかかわらず、株式は長期にわたって債券や現金などの他の資産クラスを大幅に上回っているということです。しかし、その理由を本当に理解するには、株式のリターンを分析する際に使用される一般的な最初の2つのパラメーターを超えて見る必要があります。
株式パフォーマンスを評価するための 3 番目のパラメーター: 正のスキュー(歪度)
従来の分析では、最初の2つのパラメーター (中心値とボラティリティ) に重点が置かれていますが、株式リターンの重要な要素である正のスキュー(歪度)が見落とされています。正のスキューは株式リターン分布の3番目のパラメーターであり、株式が歴史的に他の投資よりも優れたパフォーマンスを示した理由を説明する鍵となります。中心値とボラティリティのみに焦点を当てると、株式リターンはベル曲線に似た正規分布に従うと仮定することになります。この仮定は多くの自然現象には当てはまりますが、株式リターンには当てはまりません。
なぜでしょうか。株式リターンは自然法則によって支配されているのではなく、人間の行動によって動かされており、人間はしばしば非合理的で感情に動かされています。予測可能なパターンに従う自然現象とは異なり、株価は恐怖、貪欲さ、投機、楽観主義、パニックといった複雑な人間の行動の結果です。この感情的な背景により、株価は群衆が熱狂すると劇的に上昇する可能性があるものの、下落は-100%(株価が価値をすべて失う)までしか下がらないことになります。これが、株式リターンの正のスキューを生み出すものです。
簡単に言えば、どの株式でも下落は100% の損失に制限されますが、上昇は理論上無制限です。投資家は1つの株式ですべての資金を失う可能性がありますが、別の株式は急騰し、200%、500%、またはそれ以上の利益を得る可能性があります。
このリターンの非対称性、つまり利益が損失をはるかに上回る可能性があるという事実が、正のスキューを生み出します。
このスキューと複数期間の複利の魔法が組み合わさって、株式投資の長期的な価値の多くを説明しています。
テール・イベントを許容することを学ぶ
株式リターンの分布を調べると、市場への投資による長期的な価値は主にテール・イベントから来ていることに気付くでしょう。これらは、分布の両端で発生するまれですが極端な結果です。長くポジティブなテールは、頻繁に発生する小さな損失を補って余りある、並外れたリターンを生み出します。株式が歴史的に見られたような高いリターンを生み出すには、大きなポジティブなテール・イベントが大きなネガティブなテール・イベントを上回っていなければなりません。
リターン分布がより正のスキューを持つほど、長期的なリターンは高くなります。
これは、特に従来のポートフォリオ管理戦略がボラティリティの排除に重点を置いている場合、最初は直感に反するように聞こえるかもしれません。ポートフォリオ構築の議論は、プラスとマイナスの両方の極端なイベントへのエクスポージャーを減らすことで、リスクの動きを平滑化する方法を中心に行われることがよくあります。
目標は、より予測可能でボラティリティの低いリターンストリームを作成することであり、投資家にとってより安全に感じられます。しかし、不安をかき立てるテール・イベントを回避することで、投資家は大きな損失と大きな利益の両方を排除します。これにより、正のスキューが減り、結果として全体的なリターンが大幅に減少します。
マネージド・エクイティの隠れたコスト
一般的な「マネージド・エクイティ」戦略では、すべての株式損失を排除しながら(ゼロ未満のリターンがない)、プラスのリターンを制限します。たとえば、有名な投資会社が、年間損失をすべて回避しながらリターンを 7% 未満に抑えるマネージドS&P500ファンドを提供しています。毎日のリターンを予測することは事実上不可能なので、このリターンの成果は、ゼロコストのS&P 500オプションのカラー・ポジションを構築するだけで達成されます。過去40年以上にわたり、S&P 500が年間11%以上のリターンを生み出していたとき、この戦略はわずか4%の年間リターンしか生み出さなかったでしょう。
言い換えれば、感情も神経をもすり減らすような価格変動を引き起こすテール・イベントを回避することは、長期的な富の創出の主要な原動力であるリターンを逃すことを意味します。リターンの平準化に重点を置きすぎる投資家は、時間が経つにつれてより安定したリターンを得ることになりますが、そのリターンは大幅に低くなってしまいます。
株式投資から真の利益を得るには、正のスキューに伴う感情と報酬の両方を受け入れることが必要です。つまり、テール・イベントと共存することを学ぶことです。テール・イベントは発生したときは不快かもしれませんが、株式市場での長期的な成功には不可欠な要素です。
最も成功している投資家はこれを認識し、避けられないボラティリティとテール・イベントが高収益の達成に不可欠であることを認めています。正のスキューとそれに関連するテール・イベントを評価することを学ぶことで、投資家は株式市場の利益の可能性を最大限に引き出すことができます。
スキューを恐れるのではなく、愛することを学びましょう。
執筆者
C. Thomas Howard
(翻訳者:村上みさき, CFA)
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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