オースティン・バルボサ(Austin Barbosa), CFA
金融の世界では、認知バイアスが投資家の意思決定に多大な影響を与えます。こうしたバイアスの中でも、特に「確証バイアス」が広く見られます。確証バイアスとは、馴染みのある考え方に合った情報を好み、それと矛盾する証拠には疑いの目を向ける傾向を指します。このバイアスは、ソーシャルメディア・プラットフォーム上のエコーチェンバー(共鳴室)によって悪化しますが、そこでは、アルゴリズムによって個人の考え等に合わせたコンテンツが提供されるため、投資家の見解を強める環境が作り出されることになります。とりわけ、X(旧Twitter)やReddit(レディット)などのプラットフォームでは、若い個人投資家を中心に、こうした動きの影響を受けやすいため、マーケットの認識を大きく左右します。
本ブログ記事では、これらのプラットフォームが確証バイアスとエコーチェンバーを介して投資家の行動にどのような影響を及ぼすのかメカニズムを探り、その影響を軽減するための対策を提案します。
ソーシャルメディアの役割:Xとレディット
Xとレディットは、個人投資家にとって重要な金融情報の提供元として台頭してきました。これらのプラットフォームはリアルタイムで最新情報を提供し、コミュニティ内の考え方を促す一方で、確証バイアスを高める格好の環境としても作用します。
X:このプラットフォームのアルゴリズムは、ユーザーの操作履歴をもとにフィード(個別にカスタマイズされたコンテンツの一覧)をキュレート(管理選別)します。つまり、投資家が特定の金融インフルエンサーをフォローすると、同じような考え方のコンテンツに偏った大量の情報に飲み込まれてしまう危険性が高いことを意味します。これは、CFA協会リサーチ・アンド・ポリシー・センター(CFA Institute Research and Policy Center)による報告書「The Finfluencer Appeal: Investing in the Age of Social Media(金融インフルエンサーの魅力:ソーシャルメディア時代の投資)」で指摘されている重要なポイントです。例えば、テクノロジー株に対して強気な見通しを持つ投資家は、楽観的な分析に満ちたフィードを受け取りやすくなり、より懐疑的な見解に触れる機会が減る可能性が高まります。このように一方的な見方が強化されることで、確証バイアスがさらに増幅され、その意思決定はバランスを欠いたものになります。
レディット:r/WallStreetBetsのような金融関連のサブレディットは、エコーチェンバーがどのようにその影響力を及ぼしているかの好例と言えます。これらのコミュニティでは、人気のある意見が支持を集める一方で反対意見が抑圧される「集団思考」に陥りがちです。その影響は、2021年のGameStop社とAMC社の株のショートスクイーズにおいて、とりわけ顕著に現れましたが、そのとき、エコーチェンバーの力が大きく働き、投資家は財務面のファンダメンタルズを無視し、感情的な投資判断を下すことになりました。ピーク時にGameStop社やAMC社の株を購入した多くの個人投資家は、その後株価が暴落したため、深刻な値下がり損失を被りました。
投資の意思決定への影響
確証バイアスとエコーチェンバーによる相互作用は、近年、重大な金融現象を引き起こしてきました。2024年に発生したGameStop社の急騰も、最近の例として挙げられます。直近のこの出来事は、3年間の活動休止を経てキース・ギル(Roaring Kitty)がレディットとXに再登場したことがきっかけでした。ギルの復帰により、GameStop社の株価は急騰し、1日で70%以上上昇し、31ドル近くまで達しましたが、その後わずか数日で50%以上急落しました。これにより高値で買った多くの個人投資家が大きな損失を被ったことから、2021年の投機熱を彷彿とさせる出来事でした。
同様に、暗号資産市場では、Xやレディットのようなプラットフォームが特に強気相場においてその投機熱に火をつけました。多くの投資家は、関連するリスクを十分に理解しないまま、カルダノ(ADA)のようなプロジェクトに投資しました。カルダノは急落し、2024年のピークから40%以上下落しました。有名なプロジェクトでしたが、変動性と不確実性にさらされていることを浮き彫りにしました。
拡張性があり持続可能なブロックチェーンエコシステムを構築するという野心的な展望にもかかわらず、カルダノの進展には曖昧なことが多く、現実世界でどれだけ有効なのかに対しては懐疑的な見方を招きました。過剰な期待が煽られ、そこに確証バイアスが拍車をかけ、多くの投資家が警告サインを無視した結果、市場の調整局面で大幅な損失を被ることになったのです。
リスク軽減対策
確証バイアスやエコーチェンバーが蔓延していますが、XやRedditのようなプラットフォームは情報を入手する上で相変わらず大きな価値を提供しています。Xでは最新ニュースや専門家の意見に素早くアクセスでき、レディットはより深い議論や多様なコミュニティの見識の機会を提供しています。バイアスに陥ることなくこれらのリソースを最大限に活用するためには、投資家はそのプラットフォーム利用する際、それに伴うリスクを軽減する対策を講じる必要があります。以下に、その対策のいくつかをご紹介します。
多様な視点に目を向ける:Xでは、意識的に様々な意見を提示するアカウントをフォローしましょう。もしあなたの見方が通常強気であるならば、懐疑的な意見や反対意見を自分のフィードに入れておくことで、コンテンツの範囲を広げ、自分の見解を立ち止まって冷静に見直すことができます。
レディットの幅広いコミュニティを参考にする:1つのサブレディットに頼るのではなく、さまざまな視点を持つ金融関連のコミュニティに幅広く目を向けましょう。多様な視点と関わりを持つことで、集団思考が陥りがちな落とし穴を避け、市場動向におけるより機微な側面について理解を深めることができます。
ソーシャルメディア以外の情報源を求める:ソーシャルメディアのエコーチェンバー効果を軽減するには、信頼できる金融報道機関、査読付き学術論文、市場調査報告書などをあなたの情報源に加えることをお勧めします。これらの情報源は、ソーシャルメディアのコンテンツを管理選別するアルゴリズムの影響を受けることなく、より厳格で精査された情報を提供します。
自分の個人的な見解に異議を申し立てること:自分の投資アイデアに対しては、常に反対者の立場に立って考えること。どんな肯定的な主張であっても、あえて意識しながら反対意見を探し出し、慎重に評価し、両方の証拠を考慮した上で決定すること。自分のネットワークやオンラインコミュニティで信頼する専門家との議論を交わし、あえて進んで自分の投資理論に疑問を投げかけるよう依頼することも有益でしょう。
重要なポイント
現代は、情報が氾濫している一方で、アルゴリズムによって個人の好みに合わせたフィルタリングが行われています。そんな時代において、投資家は確証バイアスを認識し、それを積極的に打ち消していくことが不可欠です。Xやレディットのようなプラットフォームは貴重な見識を提供してくれますが、同時に投資家の金融に関する現状認識を歪め、その経済的な幸福に重大なリスクをもたらします。投資家は、意識しながら多様な視点を探し求め、自身の信念を批判的に評価することで、よりバランスが取れた、情報に基づいて意思決定を行うためのプロセスを深めることができます。
金融において知的柔軟性を維持することは、単に有益だというだけではありません。複雑で急速に変化を遂げていく市場のなかでうまく舵取りをするために不可欠です。エコーチェンバーの境界を乗り越え、より広範でより情報に基づいた見識を持つよう努めましょう。
執筆者
Austin Barbosa, CFA
(翻訳者:大濱 匠一、CFA)
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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