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CFA協会ブログ

         

No.687

2024年12月6日               

エンダウメント症候群: エリートが運用するエンダウメントが遅れをとっている理由
The Endowment Syndrome: Why Elite Funds Are Falling Behind

 
 
オルタナティブ投資に重点を置いているエリートが運用するエンダウメントのパフォーマンスは低迷し、単純なインデックス戦略に負けています。高コスト、競争の激化、優位性に対する時代遅れの認識が大きな打撃を与えたのです。そろそろ、リセットする時期ではないでしょうか。
オルタナティブ投資に多額の配分を行っているエンダウメントのパフォーマンスは、比較対象となるインデックス戦略のパフォーマンスを下回っています。2008年の世界金融危機以降、アイビーリーグ大学エンダウメントの平均リターンは年8.3%でした。アイビーリーグ大学エンダウメントの特徴的な配分である株式85%、債券15%で構成される指数のベンチマークは、同じ16年間で9.8%の年間リターンを達成しています。年換算の運用パフォーマンスの差、つまりアルファは年-1.5%に上ります。これは、インデックスと比較すると、その機会費用が累積で20%になることを意味します。つまり、潜在的な富の相当な部分が失われたことになるのです[1 ]。 
荒れ狂うマーケットでのエンダウメント: オルタナティブ投資成績で巨大ファンドも負ける(Endowments in the Casino: Even the Whales Lose at the Alts Table)」(Ennis (2024))では、大規模なエンダウメントの運用成績のアンダーパフォーマンスの原因は、プライベートエクイティ、不動産、ヘッジファンドなどのオルタナティブ投資の不調によってすべて説明されることを明らかにしています。
なぜ一部のエンダウメントは、運用の失敗が明らかになっている選択肢に大きく依存し続けるのでしょうか。オルタナティブ投資に多額の資金を割り当てているエンダウメントの運用責任者は、私がエンダウメント症候群と呼んでいる症状に苦しんでいます。その症状に含まれるのは、(1) 競争条件の否定、(2) コストに対する意図的な目隠し、(3) 虚栄心です。
競争条件
1990年代から2000年代初頭、デビッド・スウェンセン(David Swensen)氏(イェール大学)とジャック・マイヤー(Jach Meyer)氏(ハーバード大学)が魔法のような好パフォーマンスを達成したのは、オルタナティブ投資市場がまだ比較的小規模で未成熟な時代でした。それ以来、何兆ドルもの資金がオルタナティブ投資に注ぎ込まれ、運用資産総額は10倍以上に膨れ上がりました。現在、10,000 を超えるオルタナティブ投資の運用会社がその分け前に与ろうと鎬を削っています。そうした状況に応じて、マーケットの構造も進化しました。つまり、非上場市場への投資は、以前に比べて著しく競争が激しくなっています。ただし、大型エンダウメントの責任者は、ほとんど何も変わっていないかのように運用を続けています。彼らはこうした市場の現実を否定しているのです。
コスト
最近の研究では、オルタナティブ投資のコストが明らかになっています。プライベートエクイティは、資産価値の少なくとも6%の年間コストがかかります。ノンコアの不動産投資では年4~5%です。ヘッジファンド・マネージャーは年間3~4%の手数料を受け取ります[2]。60%超がオルタナティブ投資をしている大型のエンダウメントでは、少なくとも合計で年3%の運用コストがかかっていると私は推測しています。
ここが大事なところです。競争的なマーケットで、分散ポートフォリオの経費率が3%というのは不可能なコスト負担の大きさです私の知る限り、エンダウメントからはコストに関する報告はなく、議論されることすらありません。コストに関しては、都合の悪いことには見ないふり、ということで運用されているようです。
虚栄心
高等教育を受けた資産運用の責任者は格が違うのだという考えが存在します。10校余りの大学エンダウメントでは、大学の格と同様に投資部門もエリートであるという考えが生まれました。リーダーを選抜し、投資のプロという特別な階級に引き入れることに喜びを見出す大学もありました。つい先ごろ、あるベテランの機関投資家は次のように証言しています。
• エンダウメントは、機関投資家の世界で最も良く運用されている資産プールであると長い間考えられており、一番の人材を雇用し、伝統的な投資でもオルタナティブ投資でも、長期運用に焦点を当てることが可能で、実際にそうしている運用責任者に資産を割り当てている。
• エンダウメントは、とりわけ[市場に勝つ]ことに向いているようだ。給与は高く、優秀で安定感のあるスタッフを集めている。こうしたエンダウメントは、その多くがノーベル賞受賞者を輩出しているビジネススクールや経済学部のすぐ近くにある。こうしたエンダウメントには、最高の顧客であるとして、世界中の運用責任者が訪問してくる[3]。 
これは頭の痛い話です。過去からの遺産として、あるいは仲間内の言い伝えによって、多くのエンダウメントの運用責任者が、優れた投資家たること、少なくともそう行動することが自分たちに義務付けられていると信じていても不思議ではありません。しかしながら、最終的に、こうした優位性の幻想は、競争とコストが決定的な要因であるという現実に取って代わられるでしょう[4]。 
目覚め
受託者が現状を維持できないと結論付けたとき、上層部がまず、そうした幻想から目覚めるかもしれません[5]。それは、エンダウメントの運用責任者にとっては不幸な結末となるかもしれません。雇用の喪失や評判の低下につながる可能性もあります。しかし、必ずしも、そうなる必要はありません。 
そうなる前に、エンダウメントの運用責任者は、このジレンマからうまく抜け出すことができます。例えば、85%―15%の比率で株式と債券に配分したインデックス投資勘定を簡単に設定することも可能でしょう。そして、大学エンダウメントのキャッシュフローのニーズが許す限り、追加の寄附、口座の清算、インデックス勘定の分配から得られる現金をつぎ込むことができます。ある時点で、彼らは資産配分の現実的アプローチを公表し、パフォーマンスが最善の戦略――アクティブかパッシブか――を選択し、資産配分を定期的に調整することができます。
あるいは、インディアナ州のジェームス・E・ワトソン(James E. Watson)上院議員が好んで言っていたのは「勝てないなら、そこに加われ」です。「そして、好きなだけ静かにやってください」と、私はそこに付け加えたいと思います。
 
参考文献
Ben-David, Itzhak and Birru, Justin and Rossi, Andrea. 2020. “The Performance of Hedge Fund Performance. NBER Working Paper No. w27454, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3637756.
Bollinger, Mitchell A., and Joseph L. Pagliari. (2019). “Another Look at Private Real Estate Returns by Strategy.” The Journal of Portfolio Management, 45(7), 95–112.
Ennis, Richard M. 2022. “Are Endowment Managers Better than the Rest?” The Journal of Investing, 31 (6) 7-12.
—— . 2024. “Endowments in the Casino: Even the Whales Lose at the Alts Table.” The Journal of Investing, 33 (3) 7-14.
Lim, Wayne. 2024. “Accessing Private Markets: What Does It Cost? Financial Analysts Journal, 80:4, 27-52.
Phalippou, Ludovic, and Oliver Gottschalg. 2009. “The Performance of Private Equity Funds.” Review of Financial Studies 22 (4): 1747–1776.
Siegel, Laurence B. 2021. “Don’t Give Up the Ship: The Future of the Endowment Model.” The Journal of Portfolio Management (Investment Models), 47 (5)144-149.
[1] 報告基準価額の更新の遅れによって生じたズレがあり、2022 年から 2024 年のファンドのリターンを修正した。過去13年間の回帰統計と最後の3 年間のマーケットリターンを組み合わせている。(修正リターンは、一連の報告数値よりも年に45 bps 大きいくなった。) アイビーリーグの平均リターンを3つのマーケット・インデックスで回帰しベンチマークを作成している。対象インデックスと凡そのウェイトは、Russell 3000株式(75%)、MSCI ACWI Ex-US (10%)、 Bloomberg US Aggregate Bond (15%) である。ベンチマークは 2009 年から 2021 年のリターンに基づいている。
[2 ] Ben-David et al. (2020)、 Bollinger and Pagliari (2019)、Lim (2024)、Phalippou (2009) 参照。
[3 ] Siegel (2021) 参照
[4 ] 私の調査では、アクティブ投資、中でも、オルタナティブ投資への投資額がはるかに少ない公的年金と比べて、大規模なエンダウメントのリスク調整後リターンの低いことが一貫して示されている。Ennis (2022) 参照。
[5 ] ハーバード大学は、何も開示がないが、授業料よりも多くの金額をマネー・マネージャーに支払っていると私は推測している。
 
 
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執筆者
Richard M. Ennis, CFA
                                                                                                                                                        (翻訳者:瀧澤 創、CFA)
 
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