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CFA協会ブログ

         

No.690

2024年12月27日               

損失確率の低さ:投資において低リスクとは限らない理由
Low Probability of Loss: Why It Doesn’t Equal Low Risk in Investing 

サンディープ・スリニヴァス(Sandeep Srinivas)、CFA

ゴルフでは、ホールインワンは驚くべき快挙です。その確率はどの程度だと思いますか?150ヤードの距離で85万回に1回なので、統計的には異常値といえます。しかし、2023年のLPGAツアーでは20回のホールインワンが記録されました。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?単純に言えば確率が低いからといって頻度が低いとは限らない、ということです。これからしばらく、この考え方を忘れないようにしてください。
さて、話を変えましょう。2つのコイン投げゲームを想像してみます。1つ目のコインは公平で、勝敗の確率は等しいものです。一方、もう1つのコインには欠陥があり、負ける確率は60%、勝つ確率は40%しかないとします。しかし、どちらのゲームも期待リターンは25%です。
一見すると、欠陥のあるコインの方がリスクは高いと主張する人が多いでしょう。しかし、よく考えてください。どちらのゲームも、事前に結果が分からず、また特に一度しかプレイしないのであれば、リスクは同じです。次の回は確率を無視したものになりかねません。したがって、リスクとは単に勝つ確率のことではないのです。うまくいかなかった時の損失の大きさのことなのです。
新たな条件を追加してみます。公平なコインは、勝つと150%のリターンがある一方、失敗すると100%の損失があるとします。一方、欠陥のあるコインは、成功した場合のリターンは135%だが、失敗した場合の損失は50%しかないとします。どちらのシナリオも期待リターンは25%程度ですが、欠陥のあるコインの方は、投資で重要な要素である再チャレンジができるのです。
投資では、リスクは確率や期待リターンで定義されるものではありません。真のリスクとは、不利な状況に陥ったときに、永久に影響し得るキャピタルロスを被る可能性のことです。したがって、リスクは常にリターンとの相対的な関係ではなく、絶対的な関係と捉えるべきなのです。
端的に言えば、マイノリティ株式投資家としては、永久に影響し得るキャピタルロスのリスクに見合うリターンは存在しません。将来は予測不可能である以上、極端なペイオフを避けることが最も重要です。合理的な投資とは、どんなに魅力的なアップサイドの可能性があっても、二者択一の結果に賭けることではありません。これは単純に聞こえますが、実際にははるかに複雑なことです。
 
理論から実践へ
大規模な設備投資サイクルを実施したばかりの化学会社で考えてみましょう。経営陣は、新たな生産能力によってキャッシュフローが3倍になり、2年後には債務を返済してネットキャッシュインになる、と楽観視しています。さらに、株価は同業他社や過去の平均株価に比べ、かなり割安な水準で取引されているとします。
この株式は魅力的でしょうか?賢明な投資家であれば、潜在的な上昇ではなくコモディティ化した景気敏感産業、特に中国のダンピングに弱い産業に内在する倒産リスクに注目します。
別の例を考えてみましょう。歴史的に強力なキャッシュを生み出すレガシー・ビジネスを展開するブランド消費財メーカーがあるとします。最近、同社は関連新製品を拡大するために負債を抱えました。新製品が失敗しても、同社の中核ポートフォリオは債務返済に十分なキャッシュフローを生み出すでしょう。手痛い後退にはなるかもしれませんが、破滅的な事態にはならないでしょう。長期投資家にとっては、この投資でも利益が出るかもしれません。
どちらのケースも違いは成功確率ではなく失敗の深刻さにあります。常にリスクを管理することに重点を置くべきなのです。そして、リターンは複利の力で自然についてきます。
 
実証的証拠:レバレッジと長期リターン
この原則を再確認するために、より実践的な例を挙げてみます。2つの時価総額加重指数を生成し、過去10年間の米国株のパフォーマンスを分析しました。唯一の違いは何だと思いますか?1つ目の指数には純有利子負債資本比率が30%未満の企業が含まれる一方、2つ目の指数は純有利子負債資本比率が70%を超える企業で構成されています。
米国株
 
 
その結果が全てを物語っています。低レバレッジ・インデックスは高レバレッジ・インデックスを10年間で103%上回り、S&P500株価指数を23%上回りました。
 
 
エマージング・マーケット(EM)の指数についても同様の検証を繰り返すと、より狭い範囲には収まりますが、同様の傾向が浮き彫りになります。低レバレッジ・インデックスは高レバレッジ・インデックスを10年間で12%アウトパフォームし、より広範なMSCI EMを6%上回りました。
エマージング・マーケット
  
 
これらの結果は、単純な真実を浮き彫りにしています。すなわち、レバレッジの低い企業、言い換えれば倒産リスクの低い企業は、不況を乗り切り、長期にわたって複利的にリターンを得るのに適している、ということです。
 
 
 
重要なポイント
投資とは、あり得ないような勝利を追い求めたり、魅力的なアップサイドを持つ二者択一な結果に賭けたりすることではありません。永久に影響し得る損失から資本を守り、時間をかけて着実に成長させることです。強固なバランスシートと低レバレッジの企業に焦点を当てることで、潜在的な失敗の深刻さを最小限に抑えることが可能です。このような慎重なアプローチにより、市場の低迷を乗り切り、自然な複利リターンの力を活用することができるのです。リスク管理は単なる防衛戦略ではありません。持続可能な長期投資の成功の礎となるものなのです。
 
 
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(翻訳者:篠原 央士、CFA)
 
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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