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CFA協会ブログ

         

No.692

2025年1月2日               

高齢化社会に求められる早急の年金改革:私たちの準備は万全か?
Aging Populations Demand Urgent Pension Reforms: Are We Prepared? 

 
世界の高齢化は、10年前と比べても、予想をはるかに上回るペースで急速に進行しています。コロナパンデミック以降も、世界中で平均余命が伸び続けています。つまり、私たちはこれまで想定していたよりももっと長生きになっているのです。概して、それらの余命の何年かは健康な状態で過ごせるのでしょうが、必ずしも健康な生活を送れる年月が増えるとは限りません。
一方で、出生率は、ほぼすべての国で、急速に低下しています。平たく言うと、世界は、ますます少子化の一途を辿っているのですが、その背景にはいくつかの社会的な変化が見られます。次の表は、国連が公表しているデータ に基づく、主要国における各国の合計特殊出生率の変化を示しています。

合計特殊出生率が人口置換水準とされる2.1を満たさない場合、移民の影響を無視すれば、ほとんどの国で、将来ある時点で人口は減少傾向に向かうことになります。中国では既に人口減少が始まっています。
しかし、人口が減少する前に、まずは急速な高齢化が進展しますが、それは労働人口の減少と退職年齢を過ぎた人口の割合の増加を伴います。OECD(注1)が指摘しているとおり、「高齢化が年金制度にもたらす影響へどう取り組むかという問題が、再び最重要課題として浮上してき」ているのです。もはや、年金制度の見直しは、政府にとって選択肢のひとつでなく、取り組むべき必須課題なのです。
とは言え、この問題は、地域社会の将来に対する期待に影響を与えますので、変革は簡単ではありません。特に、年金受給額の減少、就労期間の延長、そして年金拠出額や税金の増額につながる可能性もあります。
私の年金制度に関する40年以上の研究によれば、何回か改革は行われてきたことが分かっていますが、それは長期的な目標などもない、ゆっくりとした行き当たりばったりのものでした。
2024年度マーサーCFA協会・グローバル年金指数(MCGPI)では、世界48カ国の退職所得制度を調査しました。同調査では、十分性、持続性、健全性の観点から評価しましたが、その結果、Aグレードの制度を持つ国はわずか4カ国でした。オランダ、アイスランド、デンマーク、イスラエルです。
MCGPIは、50以上の指標を使っていますが、その半分以上の指数は、OECD、国連、世界銀行などの国際機関のデータを使用しています。指数スコア算出に関する残りの情報は、各国の退職所得制度に精通した年金専門家の意見に基づいています。
MCGPIが評価する優れた制度には、以下の特徴の多くが備わっています。
・ 貧困高齢者に対する国家年金が、フルタイム労働者の平均賃金の少なくとも25%で
あり、高齢者における貧困状況を軽減していること。
・年金による所得代替純額(公的年金と私的年金の両方を含む)の割合が、現役世代の平均給与所得者の収入に対して少なくとも65%であること
・ 現役の勤労世代の少なくとも80%が民間年金に加入し、ほとんどの個人の公的年金と民間年金のバランスが確保されていること
・ 賃金の少なくとも12%が年金拠出され将来のために投資されていること
・ 現在の年金資産は対GDP比100%以上が確保されていること
・ 民間年金制度が適切に運営管理・規制されていること
MCGPIは、将来の退職者が、この変化する世界において地域社会からの信頼に応えられるよう十分な収入を制度から受け取れるために、いくつかの重要な改革を提言しました。その提言された改革は以下のとおりです。
・民間年金制度の被雇用者の適用範囲を拡大し、自営業者も対象とすることで、将来的に
政府予算への圧力を軽減すること
・退職年齢および/または公的年金受給年齢を段階的に引き上げ、人々が少しでも長く働くことを奨励し、それによって退職後の期間を短縮すること
・年金制度内外で、より高いレベルの個人貯蓄を奨励または義務化し、労働者が生涯にわたって消費の分散化ができるようにする。
・退職前の退職貯蓄制度からの漏出を削減し、それによって退職目的のための資金が確保
されるようにすること
· 多くの年金制度に見られる男女間の年金格差を縮小するための対策を導入すること
· 個人年金プランのガバナンスと透明性を改善して、加入者の信頼度を高めること
上記の改革は、積立型個人年金制度の重要性を高めるでしょう。高齢者人口の増加に伴い、医療費や高齢者介護費用、公的年金費用が増加するのであれば、これからの政府に大きく依存することはできません。必然的に、年金基金資産の増加は、CFA協会の会員およびチャーターホルダーにも新たな課題と機会をもたらすでしょう。
例えば、世界が確定給付型年金制度から確定拠出型年金制度へと移行するにつれ、投資リスクやその他のリスクは雇用主スポンサーから個々の会員へと移行するでしょう。また、年金加入者の平均年齢が上がるにつれ、高齢の加入者はより保守的になりがちなので、年金プランの投資戦略にも影響が及びます。
高齢者からの否定的な反応を避けるためには、年金プランの参加者向けの教育やコミュニケーションへの取組みは慎重に進めていく必要があります。現在の投資アプローチがこれからもずっと続くという前提に立つべきではありません。
高齢者の人口増加は、政府、政策立案者、ファンドマネージャー、年金プラン、ファイナンシャルアドバイザーなど、私たちすべてに課題と機会をもたらします。年金改革はほとんどの国で求められていますが、その結果は各国の経済情勢によって様々です。そこには、唯一の解決策はありません。それでも、将来の高齢者世代がその退職期間を通して尊厳と自信を維持できるよう、互いに学び合うべき教訓があります。
 
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執筆者
David Knox, PhD                   
(翻訳者:大濱 匠一、PhD、CFA)
 
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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