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CFA協会ブログ

         

No.693

2025年1月17日               

A Guide for Investment Analysts: Toward a Longer View of US Financial Markets
投資アナリストのためのガイド:米国金融市場を長期的に見るために

 
 金融市場の歴史的背景を理解することは、今日の複雑な状況で情報に基づいた意思決定を行おうとする投資専門家にとって非常に重要です。230年以上前に遡って過去のデータを調査することで、市場がどのように進化し、継続性や変化が投資機会をどのように形成してきたかが明らかになります。
 19 世紀の鉄道株の時代からマルチセクター・インデックスが登場するまで、この歴史的な視点は、過去のデータを扱うアナリストにとって非常に貴重な洞察を提供しています。専門家は、この知識を最新の戦略に統合することで、市場サイクルにより良く対処し、長期的なトレンドを理解し、投資アプローチを改善することができます。
 本稿は、3部構成シリーズの第2部であり、過去のデータを扱って過去の状況についてもっと知る必要がある投資アナリストを対象にしています。第1部では、近代全体を扱い、定義し、そして、1920年代に至るまでの近代の起源をたどりました。本稿では、歴史をさらに遡ります。対象読者は、その過去のデータを使用して過去の状況についてさらに知る必要があるアナリストです。
継続性と変化
 今日の金融市場において、1790年代から継続的に存在してきたことを示せる項目はごくわずかです。
  1. 株式有限責任会社は、売買するための合理的な流動性を持つ法人として、当時から米国の投資家が利用できるようになっています。そして、株主は常に残余請求権を持つ者として、資本構造においては劣後しているので、法人が解散した場合に支払われるのは最後になります。
  2. 国債市場は、時にはサブソブリン債(州債と都市債)を含めて、1790年代から継続的に運営されています。
 つまり、米国で株式と債券は、230年以上前に遡って構築されていました。何十年にもわたる努力にもかかわらず、これらのデータはまだ1925年以降のデータほど良くないことを認めざるを得ません。それでも、これらの記録は、多くの目的には十分に対応できると私は信じています。
 1790年代の株式と債券の市場が近代の形にどのように進化したかを辿るには、再び過去に遡るが望ましいでしょう。 
南北戦争から第一次世界大戦まで
 ウォール街でのこれまでの分析を十分に読めば、「1871年以降、株式は・・・」または「これは過去150年間で見られた最高(最悪)のリターンでした」などの文言に出くわすでしょう。確かに、このような文言は「1926年以降」はそれほど頻繁には出てきませんが、目にすることはあるでしょう。
 1871年には何が起こったでしょうか。何もありません。1926年と同様に、その年もまた、後世のデータ収集者のニーズと好みによって言われる年であって、実質的な歴史の分岐点ではありません。
 近代が真に始まる地点は、南北戦争の終結時でした。歴史上の注目すべき地点であることに加えて、1865年からはウォールストリート・ジャーナルとムーディーズのマニュアルに相当する資料が手元にあり、株価、株式数、配当、収益、債券価格、クーポン、発行額、満期、条件に関する情報が同時期に公開されています。その情報源であるコマーシャル&ファイナンシャル・クロニクル(Commercial & Financial Chronicle)は、連邦準備制度理事会のセントルイス支店によってオンラインで閲覧可能になっています。
株式
 1871年時点のデータは、通常は、ロバート・シラーのウェブサイトのデータを使用しています。シラーは、1930年代にアルフレッド・カウルズがまとめた株価、配当、収益のデータを再現しています。カウルズは、スタンダード&プアーズの前身であるスタンダード・スタティスティックによってまとめられていた1917年以降のデータを持っていました。彼のユニークな貢献は、株価の記録を50年間も遡らせたことでした。
 カウルズは、1871年のそのデータの最初で何を見つけたのでしょうか。
  •  ニューヨーク証券取引所(NYSE)は既に全米で優位な立場でありました。カウルズは、地方の取引所や店頭(当時は「場外の」取引と表現されていました)で取引される株式をほぼ確実に無視できると感じていました。彼は、ニューヨーク証券取引所の時価総額の80%以上を認識していましたが、これは今日のS&P 500採用企業全体の市場価値とほぼ同じ割合です。
  • しかし、重要な違いが1つありました。この時代のNYSEでは鉄道株が唯一の支配的セクターで、当初はNYSEの時価総額の約90%を占め、1900年までも75%近くを占めていました。
  • 1880年代になってようやくガスと電気といった公益事業がカウルズの記録に登場し始め、1890年以降になってようやく工業株が誕生しました。これはダウ・ジョーンズ工業株価平均が1896年までしか遡れない理由のひとつです。
 実際、そのことが、カウルズが始点を1871年に遅らせた理由です。彼は、1917年からスタンダード・スタティスティックで可能になったマルチセクター・インデックスの構築に尽力しました。1871年までにようやく、彼は「公益事業」と見なすことができるいくつかの株式をかき集めることができ、その場合には港湾業や「工業」、つまりは鉱業や海運業を意味するものでした。
 今日のアナリストは騙されてはいけません。全ての意図と目的のためですが、シラー・カウルズ株価指数は、1900年以降は鉄道株の単一セクター指数であり、それからセクターが急増し始め、第一次世界大戦までに現代の多様な水準に近づきました。
 もちろん、様々なセクターの企業は1900年よりずっと前から存在していましたが、これらの企業は株式が取引されていなかったか、NYSEで取引されていませんでした。
 実際、銀行や金融サービス企業は、南北戦争の前からNYSEでの取引を止めていました。このセクターは、それ以降、カウルズのインデックスには含まれていません。
 最終的に違いがあるのは、利用可能な銘柄の数に関するもので、当初は50銘柄弱がカウルズのインデックスに含まれていました。1899年まで100銘柄もなく、第一次世界大戦までは200銘柄にも達しませんでした。
 それにもかかわらず、銘柄とセクターの集中を除けば、1870年代の米国株式市場と1920年代の市場との違いは、1920年代と1970年代との差よりも実質的に大きくはありません。意味のある連続性があります。
 これらの注意点を念頭に置いて、アナリストは 1925 年以降のデータにカウルズ・シラーのデータを追加して、150 年以上にわたる月次の株式リターンのデータを構築できるのです。株価リターンはトータルリターンと区別でき、配当利回りと株価収益率を計算でき、リターンは価格加重され、シラーは実質リターンを計算するためのインフレ指標を提供しています。
債券
 これは複雑です。
 150年にわたる国債のリターンの一連の記録を、株式のように構築することはできません。むしろ、財務省には南北戦争と第一次世界大戦の間の期間を通じた取引記録がありますが、その記録は複数の間違いがあり、誤解を招く可能性があるものです。
  また、報告に多くの脚注が含まれていない場合は、債券リターンの150年チャートをあまり信用してはいけません。
 注意しなければいけないのは、60/40ブレンドやその他のバランス型株式/債券ミックスの過去のデータにも当てはまり、2022年の悲惨な年の後に急増した報告です。第一次世界大戦以降にまでさかのぼるバランス型ポートフォリオの分析における債券の構成要素は疑わしいです*。 

  * これが概ね長期の社債で構成されている場合、記録は南北戦争にまでさかのぼることができます。第一次世界大戦前が問題なのは国債の記録です。

 実際に、私は19世紀の米国債券市場の説明を本連載に当てはめることができません。私の最近の論文「1793年から2023年までの新たな米国国債の月次リターンの紹介」では、1793年から1925年までの債券市場の歴史を紹介し、どのような国債のデータが構築できるのかを徹底的に論じています。
 第一次世界大戦前の債券市場には存在しなかったモノを繰り返し強調しておきます。
  •  短期国債もリスクフリーレートもありませんでした。1830年頃まで遡ると短期証券の記録がありますが、それは財務省によって発行されたものではなく、リスクフリー商品の代替にはならないことは確かです。したがって、ジェレミー・シーゲルの過去の記録における「短期証券」とは、「デパートや男性用家具店、雑貨・金物・靴・食料品・床材などの仲買業者、綿・絹・毛織物の製造業者」が発行した手形のレートを表しています。(フレデリック・マコーレー、pp. A340-341)。
  • 20年から30年の満期で発行される長期の国債しかなく、1877年頃以降、政府が大幅な黒字だったため、供給は着実に減少していました。
  • 1900年まで、国債には流動性があまりなく、個々の債券は毎月取引されていませんでした。国債は、国立銀行の証券の流通を確保するために財務省に確保されていました。詳細は私の論文を参照してください。1917年にリバティ債が流通してから初めて、現代の国債市場が誕生しました。世界の覇権国によって保証された、債券市場の基盤として機能できる流動性のある市場です。

 結論として、第一次世界大戦前に利用可能な債券の記録について、より重要な注意点を2つ挙げてきましょう。

  • 1871年から1920年までのジェレミー・シーゲルの債券リターンのデータを信用しないでください。
  • この期間のロバート・シラーの「GS-10」データを使用しないでください。
 これらのリターン・データはどちらも同じ情報源に基づいています。シドニー・ホーマーが1963年の著書「金利の歴史」でまとめた利回りのデータです。シーゲルやシラー、そしておそらくホーマーにもわからないそうしたデータの源は、私の論文で詳しく説明しているように、事実に基づかない(fictional)という点で深刻な問題を抱えています。
 そういうものを使わないでください。
 本連載の次の最終回では、南北戦争前の米国市場について見ていきます。
 
 
執筆者
エドワード・F・マッカリー(Edward F. McQuarrie)
(翻訳者:今井 義行、CFA)
 
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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