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CFA協会ブログ

         

No.699

2025年2月28日               

女性とファイナンス: リスクを受け入れ大きな成功を手に入れる方法
Women and Finance: How Embracing Risk Can Unlock Greater Success

 
 
投資とキャリアの成長にはリスクがつきものです。慎重に行動すれば損失を防ぐことができますが、リスクを完全に回避すると、チャンスを逃し、パフォーマンスが劣り、停滞に陥るなどの危険が伴います。これまで女性は投資や職業上の意思決定において、よりリスク回避的であると考えられていました。
ただし、オルタナティブ資産への投資、報酬交渉、大胆なキャリア変更などで成功するには、計算されたリスクを取ることが不可欠です。今日の競争環境において有利な地位を築いているのは、慎重にリスクを受け入れている専門性を有する人々であり、そうした人々がイノベーションを推進し、経済的自立を獲得し、一過性でない影響力を作り出しています。
先月、私はロサンゼルス・タイムズ紙主催のインスピレーション・ウーマン・フォーラム&リーダーシップ・アワードで、「リスク回避的であることのリスク」という討論会の司会を務めました。このブログでは、2人のパネリスト、アンバー・オーティス(Amber Ortiz)氏とララ・ショーツ(Lara Shortz)氏による女性とリスクに関する洞察 (少し編集しています) を皆さんに紹介します。
なぜ女性はこれまでリスクを回避してきたのか?
バーバラ・スチュワート、CFA: 正直、私たち女性はこの固定観念に囚われていました。歴史的には、投資の世界における「リスク」とは債券や現金ではなく株式に投資することと定義されていました。30年前、米国男性は60%以上が株式に投資していたのに対し、女性はわずか40%であり、株式に関しては投資ギャップがありました。しかし時代は変わりました。2001年から2008年には、男性の65%、女性の59%が株を所有していました。2009年から2017年には、その差はさらに縮まり、男性の56%、女性の52%が株式に投資しています。さらに、2024年のギャラップ社のデータによれば、女性の63%に対し、男性は62%が株式を所有しています。
女性はどのような状況でリスクを回避し続けるのか?
ララ・ショーツ:1つ挙げられるのは、女性幹部の多くが昇給、昇進について、難しい交渉することに不安を感じていることです。女性はそうした交渉に困難を感じることがよくあります。専門性を有する若い人の間では給与格差は改善しましたが、上級職レベル、特に女性幹部の場合には給与格差は時間の経過とともに拡大することが多く、それを埋め合わせるのが一層困難になります。
普通、こうしたことは意図的なバイアスによって生じた結果ではありません。人々の職業全体の構造的要因に関するものと言ったほうがよいかもしれません。たとえば、女性は転職頻度が少ない傾向にあるため、給与に関し交渉する機会が限られています。しかし、新しい人材を採用する際に企業は優秀な候補者を採用するため高い給与を提示することがよくあります。要するに、女性はキャリアチェンジをしないと給与交渉という大切なチャンスを逃すということです。こうした状況により、昇給・昇進に関する交渉は益々困難になっていきます。
アンバー・オーティス: リスクは多面的であり、いくつかの要因から影響を受ける可能性があります。女性はリスクを回避しているのではなく、むしろリスクを認識しているのだと思います。女性は時間をかけてリスクを理解し、潜在的な問題点をすべて評価し、そうして決定したことが家族、会社、社会など自分にとって大切な人たちにどのような影響を与える可能性があるかを評価しているのです。
リスク回避するとどのようなリスクが生じるのか?
バーバラ・スチュワート、CFA:プライベート・エクイティ会社のケンジントン・キャピタル・パートナーズ(Kensington Capital Partners)から委託され私が行った最新の調査「女性とオルタナティブ:グローバルな視点(Women & Alts: A Global Perspective)」では、世界的に男性は女性よりもオルタナティブ投資へのエクスポージャーが2倍であるということが重要な発見事項として紹介されています。
これは主に、女性に対するネットワーク効果が欠けていることやオルタナティブ投資に関するセールスやマーケティングが男性向けに行われていることなど構造的な問題によるものです。オルタナティブ資産への投資額が小さくなっているのが、実際にリスク回避した結果であれ他の要因によるものであれ、ここで明らかなことは、従来からリスクが高いと見られてきた資産クラスに投資しないことが女性投資家にとってはリスクであるということです。
ララ・ショーツ:益々競争激化する市場では、組織はイノベーションと新たなことを試してみる文化を育む必要があります。なぜでしょうか?競争の激しい市場では、有能な人材をつなぎとめる方法を継続的に考えていく必要があるからです。これには多くの創造性が必要とされます。
環境にもよります。たとえば、私のいる法曹界は伝統的にはリスクを回避するビジネスであり、法律事務所では、専門能力の開発に重点を置いて起業家的な環境を持つことは一般的ではありません。しかし、私たちはとてもポジティブで前向きなカルチャーを持つ環境を築いています。変化が速く、非常に創造的な環境を持つ業界では、チームに対して明確さと安定を提供することも重要です。私が重要であると思うのは、ビジネス目標と自分たちが作るカルチャーに明確な意思と透明性を保ち、そこで働く人々が組織からのサポートを感じモチベーションが湧くようにすることです。
アンバー・オーティス:リスクはパフォーマンス不足と後悔です。これは、投資パフォーマンスとビジネスの成功の双方に当てはまります。リスクは相対的なものであり、時間の経過とともにリスク許容度は変化し形を変え続けます。潜在的なリスクとリターンの評価は人によって異なります。リスクは極めて主観的であり、意思決定によって生じてくる影響にもよります。リスクのマイナス面を評価することに時間を費やすだけでなく、リスクをとることでチャンス、創造性、成長、レジリエンスがどのようにもたらされるかについても話し合う必要があります。
複数の研究結果が、女性は男性よりも優れた投資パフォーマンスを生み出していると結論付けています。男性は物事を細分化する能力に長けているため、意思決定の際には決断力があり、自信を持つ傾向があります。一方、女性は自分の投資や意思決定が家族、ビジネス、流動性、さらには社会に与える可能性についても、あらゆる角度からその影響を評価します。私たちは、ほぼすべての意思決定においてリスクに直面していることを忘れず、リーダーとして自信を持ち、リスクを取ることは良いことであるとしつつも、意思決定に対する慎重なアプローチを維持する必要があります。
女性はどうすればリスク回避をリスク認識に置き換えることができるか?
アンバー・オーティス:コミュニティ空間を作り参加してください。自分が信頼し、尊敬し、耳を傾け、効果的なコミュニケーションを図るアドバイザーにチームとして関与してもらうことをお勧めします。あなたや家族にアドバイスをくれる人々との関係を築くことが重要です。似たような考えを持つ女性を周りにおいてください。私は女性だけの密な懇話会(10-15人)を開催し、そこで資産継承計画、不動産投資、世代間のギャップなど特定のトピックについて掘り下げています。全員が女性のセッションは、質問したり失敗談や成功談を共有したりして、同じような状況を経験し同じような心配事を持つ人々のコミュニティを構築するための空間を提供します。
ララ・ショーツ:私から出来るアドバイスは、自分が最も得意とすることに集中し、残りはアウトソースすることです。たとえば、報酬交渉に関しては弁護士に依頼するとまったく異なる力関係が生まれる可能性があります。そうすることで、自己主張が強すぎることを質問してしまうなど偏ったやり取りを避け、契約条件の交渉に集中できるのです。
実を言うと、この哲学は人生のあらゆる面に当てはまります。多くの女性と同じように、私も仕事、家族、数え切れないほどの責任に翻弄させられることがよくあります。何かを手放すのは必ずしも簡単ではありませんが、自宅でもオフィスでも、誰かに仕事を頼むと時間とエネルギーの不足から解放され、本当に重要なことに集中できるということを学びました。アウトソースは実用的なだけでなく、自分に力を与えてくれます。
バーバラ・スチュワート、CFA:私にとって一番のアドバイスは、過去15年間の調査でインタビューした世界中のとても賢明な女性たちから直に教えてもらったことでした。リスクは恐れるものではありません。それを理解し賢く管理する必要があります。投資であれキャリアの決定であれ、計算されたリスクを取る人には、より大きなチャンス、経済的成功、仕事上の成長への扉が開かれます。女性は近年益々投資ギャップを縮めており、リスクを回避するのではなくリスクを認識することが長い目で見てより良い成果につながることが証明されています。
重要なのは、慎重さと行動、自信と準備、大胆さと戦略のバランスを取ることです。リスクを賢く受け入れることで、専門性を持った人々はその可能性を最大限に高め、他の人々にインスピレーションを与え、自分のやり方で成功を再定義することができるのです。
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執筆者
Barbara Stewart, CFA
(翻訳者:瀧澤 創、CFA)
 
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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