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CFA協会ブログ

         

No.700

2025年3月7日               

PEGレシオは信頼できるマーケット・タイミングの指標なのか?
Is the PEG Ratio a Reliable Market-Timing Tool?

 
投資家は、株価が適正かどうか判断するために、評価指標を頼りにします。これらのうちPEGレシオ(株価収益成長率)は、将来の収益予想に基づいて株価の評価を調整できることから、よく使われます。標準的なPERは単純に株価と現在の収益を比較するのに対して、PEGには成長予測が組み込まれています。これは、企業のPERを成長率で単純に割って、算出されます。これにより理論的には、株価が割安かそれとも割高かを判断するための、より洗練された指標になるのです。
 
しかし、マーケットの全体的な方向性についても、PEGレシオは有用な見通しを提供するのでしょうか? それを調べるために私たちは、S&P 500のPEGのヒストリカル・ データ (1985年から 2020年) を分析し、売買戦略としての有効性をテストしました。ヤルデニ・リサーチのPERと、同じ期間の将来の成長率予測を使用しました。

 一般的な使われ方は、シンプルです。
・PEG<1.0➡期待される成長に比べて、株が割安である。
・PEG>1.0➡成長に比べて、株が割高である。
 
多くの投資家は1.0が重要な閾値であると考えています。株のPEGが1.0を下回る水準で取引されている場合、それはチャンス(魅力的な投資機会)と見なされます。1.0を超える場合は、注意が必要です。全体的なマーケットの方向性を測定するためにPEGを使用する場合、これらの「割安に評価された」投資機会はどのくらいの頻度で現れ、また高いリターンの兆候となるでしょうか?
 
1985年から2020年までのS&P 500データと、ヤルデニ・リサーチの将来の成長予測を使用して、次のことがわかりました。
 
1. PEG<1.0は滅多にない
・1980 年代を通じて、PEGレシオが 1.0 を下回った月はわずかでした。
・2000年代には、3回しかありませんでした。
・2010年代には、わずか5回しかありませんでした。
・この閾値では、一貫した購入機会をPEGレシオが提供することは、ほとんどありません。
 
2. マーケット・タイミングの指標としてのPEG
・私たちは、PEGレシオが1.0を下回った時に投資家がS&P 500を買い、1を超えた時に売るという戦略をテストしました。
・1980年代のようないくつかの時期には、うまく機能しましたが、2000年代やそれ以降は、はるかに少ない効果でした。
・閾値を1.25や1.5に拡大しても、同様に、結果は一致しませんでした。
 
3. ボラティリティが高い
・リターンを、異なるPEGの水準と関連付けてみると、数十年にわたって大きく変化しました。
・ある期間にうまく機能しても、別の期間には機能しないことが多く、PEGレシオを単独のマーケット・シグナルとして使用することを困難にしています。
 
 
PEGレシオは依然として個別銘柄を評価するための有用なツールですが、これを市場全体のシグナルとして適用すると信頼性がはるかに低くなることが、我々の分析で示されました。歴史的に見ても、PEGレシオが1.0を下回ったときに購入する機会は稀であり、PEGの閾値に基づいて取引する戦略は、特に2000年以降、一貫性のない結果をもたらしました。
 
評価指標は投資の意思決定において有用ですが、単一の指標でマーケット・タイミングを決定するべきではありません。そうではなく、投資家は PEGレシオをより広い分析フレームワークの一部として考慮し、他のファンダメンタル要因やマクロ経済要因と補完して、総合的な投資判断を行う必要があるのです。
 
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執筆者
Derek Horstmeyer
Gopika Patel
Michael (Joonhyuk) Lee
(翻訳者:安部 智宏, CFA)
 
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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