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CFA協会ブログ

         

No.705


                                                                                                                                           2025年4月21日

ヘッジファンドを避けるべき6つの理由
6 Reasons to Avoid Hedge Funds

 
 ほとんどの投資家は、ポートフォリオに株式や債券などの伝統的な資産を保有することに同意するのでしょうが、ヘッジファンドの保有は物議を醸すものです。私は一般的に、株式や債券に絞った投資をお勧めしています。本投稿は、3部構成の連載の最終回であり、自身の見解を支持するいくつかの観察結果を概説します。

リターンは良くない

 最高級のヘッジファンド・マネージャーにはおそらくスキルがあります。調査によると、ヘッジファンド・マネージャーは2013年から2019年にかけて最大6,000億ドルの付加価値を生み出しました。ただし、この付加価値は手数料控除前の計算です。手数料を控除した額は遥かに低く、マネージャーが生み出した額のほとんどを得て、投資家には残骸しか残りません。最近、ある調査グループは、ヘッジファンドの手数料がグロスリターンの64%を占めていることを発見しました。

 ほとんどの調査で、ヘッジファンドのリターンが、特に2008年以降、平凡(mediocre)であることが明らかにされています。2008年以前に見られた高いパフォーマンスが再現するかどうかを予測する方法はありません。一部のオブザーバーは、運用資産の増加によって資産規模に対するリターンが低下し、ヘッジファンドがパフォーマンスを上げることが困難になっていると主張していますが、証跡は限られています。一般的に、最高級のヘッジファンド・マネージャーにはスキルがあるかもしれませんが、それが必ずしも投資家にとっての優れたリターンに繋がるわけではありません。

 また、ヘッジファンドが提供するリターンは一般的に控えめな一方で、投資家は買付と換金のタイミングが悪いため、保有するファンドのリターンを大幅にアンダーパフォームする傾向があるという事実も考慮する必要があります。

分散投資のメリットは限られている

 株式や債券のポートフォリオにヘッジファンドを追加すると、シャープレシオのような従来の指標で測定されるリスク調整後リターンを向上させることができます。しかし、ヘッジファンドのリターンは2008年以降に大幅に低下しているため、ポートフォリオの株式部分の一部をヘッジファンドに置き換えると、望ましくないアンダーパフォーマンスに繋がる可能性があります。

 さらに、ヘッジファンドは非対称的な手数料体系を採用しており、ファンドが利益を上げた時にはマネージャーは成功報酬を受け取りますが、ファンドが損失を出したときにはファンドに補償をする必要はありません。このような手数料体系によって、一部のヘッジファンド・マネージャーは、時折に大幅な損失を出しながら定期的に控えめな利益を出す戦略を採るように誘導される可能性があります。つまり、多くのヘッジファンドは見た目以上にリスクが高いのです。

費用が高すぎる

 ヘッジファンドの手数料は恐ろしい(horrendous)と考えられます。すでに高額な平均基本手数料である1.5%を超えて成功報酬を支払うだけでも十分悪いことですが、ヘッジファンドの成功報酬の86%はハードルレートの対象ではありません。基本手数料を少し上回るだけのリターンを稼ぐことにはメリットがありません。

 さらに、ヘッジファンドの3分の1は、マネージャーが損失を出したファンドに成功報酬を請求するのを防ぐためのハイウォーターマーク機能を持っていません。しかし、ハイウォーターマーク機能が付いていても、投資家は、初期の成功の後に大きな損失が発生した場合、リターンの悪いファンドに成功報酬を支払う可能性があります。

 分散したヘッジファンドへの投資を検討している投資家にとって、ファンド・オブ・ファンズは、各組入ファンドの手数料に加えて2重の手数料を支払うことで、コストの負担が増加します。勝ち負けしたファンドを持つヘッジファンドを分散して投資家が保有している場合には、別の問題が発生します。勝ったファンドは合法的に成功報酬を請求できますが、負けたファンドはヘッジファンドのポートフォリオによって生み出された利益の総額を減らします。

 その結果、投資家は契約上の成功報酬よりもはるかに高い料率を支払う可能性があります。約6,000のヘッジファンドのプールを調査した結果によると、このプールの平均成功報酬は19%でしたが、投資家はファンドの総利益の50%近くを支払っていることがわかりました。

複雑性は投資家の味方ではありません

 本連載で、ヘッジファンドが、基本的な株式ファンドや債券ファンドよりもはるかに複雑であることに納得していただければ幸いです。調査によると、金融機関は複雑な金融商品を意図的に組成することで利益率を高めています。複雑な商品は情報の非対称性を生み出し、情報に詳しい金融機関は、情報に乏しい顧客に強い立場から交渉することができます。

 金融機関は、(投資家の)近視眼的な損失回避、最新性の効果、自信過剰など、投資家の認知バイアスを利用することで、複雑な商品を魅力的に見せることができます。経済学者のジョン・コクランがかつて言ったように、「金融業界は100%マーケティング業界である」ことに投資家は注意をしてください。

アウトパフォーマーを予測する試みは失敗する可能性が高い

 調査によると、マネージャーのオーナーシップ戦略の独自性商業データベースに登録されていないことなどの特性が、勝てるヘッジファンドを特定するのに役立つ可能性があることが示唆されています。しかし、どのような選別の戦略でも、選択できる数十から数百の候補ファンドが出てきます。これらの候補には、誤検知が含まれます。例えば、スエドロー(2024)の調査では、少数のアウトパフォーム・ファンドが非上場ファンドに見られるプラスのアルファに大きく影響することを強調しています。

 また、ほとんどのヘッジファンドに関する文献では、パフォーマンスの持続性は短期的な期間でしか見られず、長期投資家のファンド選択には役立ちません。また、優れたヘッジファンドを選んだとしても、必ずしもあなたの資金を預かってくれるわけではありません。多くの場合、大規模な機関投資家の資金だけを運用することを選択し、それ以外はアルファを生み出すための完全な能力に欠けるため、新たな資金の受け入れを拒否します。

 最後に、高い手数料、不透明性、複雑さを正当化するのに十分なアルファを見出すことができなかったため、しばしば、最もリソースのある投資組織の一部でさえ、ヘッジファンドの採用をあきらめました

個人的な経験

 ヘッジファンドを避ける他の理由に、個人的な観察もあります。

 経済的な成功は、派手な投資商品や高いリターンではなく、規律ある貯蓄と投資にかかっています。

 投資家は勝てるアクティブ・ファンド・マネージャーを選ぶのがあまり得意ではないという証跡があり、ヘッジファンドの選択が簡単であるという証跡は見たことがありません。

 投資家が富を築いて維持するのは、もう「十分」と感じ、ある程度、さらなる利益よりも慎重さを好むからです。対照的に、投資家が「もう少しリターンを増やす」ためにポートフォリオのリスクを大きくすると、重大な損失が生じることがあります。これは、不透明で複雑な投資商品を扱う場合に特に当てはまります

本連載
 
執筆者
レイモンド・ケルツェロ(Raymond Kerzérho)、CFA
(翻訳者:今井 義行、CFA)
 
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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