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CFA協会ブログ

         

No.708


                                                                                                                                           2025年5月1日

株式リスク・プレミアムが薄れる中でひときわ輝くアルファの価値
When the Equity Premium Fades, Alpha Shines

ピム・ファン・フリート(Pim van Vliet)、PjD

 

 

長年にわたり、株式リスク・プレミアム(ERP)-株式が債券や現金を上回る超過リターン-は投資の屋台骨であり、安全資産を上回る年率5〜6%の追加リターンをもたらしてきました。しかしこの時代は終焉を迎えつつあるのかもしれません。米国株のバリュエーションは史上最高水準に達し、利益成長は鈍化し、構造的な課題も増すなかで、ERP はゼロ近辺まで縮小する可能性があります。このような新たな環境下で、アルファ-スキルと戦略によって生み出されるリターン-が運用成績を牽引する存在になるでしょう。本稿では、ERP が低下する理由、低リターン環境でアルファが輝く仕組み、そして 最も重要な点として、ベータ(市場リターン)が頭打ちになる世界で投資家がどのように適応すべきかを考察します。

 

株式リスク・プレミアムの縮小

時系列にみると、米国株は年率10%のリターンを稼いできました。その背景には、バリュエーション・マルチプルの拡大、力強い利益成長、人口動態の追い風、米国市場の優位性といった要因がありました。1926〜2024年のERPは平均6.2%で、2015〜2024年に限れば10.6%に達しました。しかし過去の時系列を振り返ると、平均回帰のパターンが示唆されます。すなわち、好調な10年の後には低調な10年が続くことが多いのです。好調な期間の後、その後の10年のERPは長期的に平均を1%下回り、低調の10年の後、平均を1%上回るリターンの期間が訪れるのです。

 

 

現在の市場環境は危険信号を発しています。CAPE レシオ(景気循環調整後の株価収益率)は過去最高水準に張り付き、配当利回りは低水準に留まり、実質利益の成長は人口の高齢化とコスト上昇の逆風に直面しています。AQR、リサーチ・アフィリエイツ、ロベコ、ヴァンガードといった大手運用会社は、2025〜2029年の米国のERPをゼロ近辺と予測し、中にはマイナスを示唆するモデルも存在します。対照的に、特に欧州や新興国などグローバル市場は、より高いバリュエーション余地と成長期待に支えられ、なおプラスのERPが見込まれています。

 

アルファが際立つとき

ベータが弱まるほど、アルファの価値は増大します。ファクター・プレミアム-バリュー、モメンタム、クオリティ、低ボラティリティなどの投資戦略から得られるリターン-は、低リターン環境下でも堅調に機能するからです。1926~2024年の歴史的なデータによると、株式リターンが高い局面でアルファは総リターンの25%(15.4%中、3.9%)を占めるに過ぎませんが、低い局面では89%(5.5%中、4.9%)に跳ね上がります。その間、ファクター・プレミアムは一定もしくは上昇しています(図2)。

 

 

図2は、株式リターンが低下するにつれてファクター・プレミアムの重要性が増し、アルファの役割が高まる可能性を示唆しています。

 

学術研究もこの結果を裏づけます。Kosowski(2011)は、ミューチュアル・ファンドが相場環境の悪化する景気後退期に+4.1%のアルファを生み出す一方で、景気拡大期にはその値が-1.3%に低下することを示しました。Blitz(2023)は、株式リターンが落ち込むほどファクター・アルファが高まり、低ERP環境ではバリューやモメンタム等のような戦略がより重要になると指摘しています。さらに Baltussen, Swinkels & vanVliet(2023)によると、1870〜2024年の長期間の時系列分析で、ファクター・プレミアムは景気サイクルのどの局面でも機能するものの、とりわけ高インフレ期や低成長期にはその効果が一層際立つと報告しています。例えばボラティリティの低い株式は相場下落局面で高パフォーマンスを示し、ディフェンシブな強みをもたらします。

 

この変化は深遠な意味を有しています。ERPがゼロとなる世界で、アルファは単なるリターンの上乗せではなく、リターンを生み出す主要な原動力になります。クオリティや低ボラティリティなどのファクターを体系的に取り込むアクティブ・クオンツ戦略は、市場ベータが力を失う局面でも、持続的なアウトパフォーマンスをもたらす可能性があります。パッシブ投資に慣れた投資家にとって、この状況はスキルに裏付けられた投資手法へのパラダイムシフトを意味します。

 

低ERP時代の投資戦略

ERPが縮小すれば、投資家は投資手法の再考を迫られます。かつてリターンの主軸だった従来の市場ベータへのエクスポージャーだけでは、もはや十分ではないかもしれません。その代わり、投資家は体系的で根拠に基づく以下の戦略を通じて、アルファを優先することになるでしょう。

 

l  ファクター投資:バリュー、モメンタム、低ボラティリティなどの複数のファクターに分散すれば、信頼度の高いアルファを獲得できる可能性があります。相場下落時に高いパフォーマンスを生み出すディフェンシブ銘柄は、変動性が大きい相場や方向感の見えない相場では下支えとなります。例えば、低ボラティリティ戦略は、過去、低成長期において、より高いリスク調整後リターンを生み出してきました。

l  グローバル分散:欧州と新興国は(米国でERPがゼロ近辺となる中、依然としてプラスの)高いERPを誇っており、海外に資金を再配分することでリターンを向上できる可能性があります。また、大型グロース銘柄の陰で見過ごされがちな小型株とイコールウェイト型戦略も、割安なバリュエーションに魅力があるため、有望な選択肢となります。

l  アクティブ運用:アクティブシェアの高い戦略やロング・ショート戦略は、特に小型株や低ボラティリティ株など割安なセグメントで、市場の非効率性を捉えて超過リターンを狙える可能性があります。ファクター・エクスポージャーと規律あるリスクマネジメントを融合させたアクティブ・クオンツ手法は、低ERPの環境下では最適なアプローチと言えます。

 

低ERPの世界では、市場の力学が一変する可能性があります。投資家がアルファを追求するにつれて、ファクター重視の戦略ファンドに資金が流入すれば、それらの資産のバリュエーションが押し上げられる可能性があります。過去10年間、高いERPに支えられてきた米国市場の優位性は、欧州やアジア、小型株市場へと資金が移動するにつれて弱まるおそれがあります。こうした動きは、数十年にわたるパッシブ投資への傾斜を逆転させ、アルファを生み出す実績を有し、継続的に成果を出せる運用担当者が報われる環境を生み出すかもしれません。

 

さらに、低ERPの状態が長期化すれば、ディフェンシブ戦略の魅力はいっそう高まるでしょう。不確実性が高い環境で強みを発揮する低ボラティリティ、低ベータのファクターには多額の資金が流入する可能性があり、プラスのリターンを獲得することが難しい局面でも安定性を提供します。アクティブ・クオンツ戦略の採用や、グローバル分散投資に早期に取り組む投資家は、競争優位を確立できる可能性が高いでしょう。

 

まとめ

ERP の低下は投資の終焉を意味するのではなく、アルファ主導の戦略へのパラダイムシフトを迫るシグナルです。米国株のリターンが抑えられる局面では、ファクター投資やディフェンシブ株、グローバル分散などの体系的なアプローチが、堅実なパフォーマンスを実現する道筋となります。ERPがゼロとなる世界では、アルファは単なるリターンの上乗せではなく、リターン創出を牽引する存在となります。市場ベータが薄れるとき、アルファの価値が輝きを放つのです。

 

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(翻訳者:河野俊明、CFACAIACPA

 

和文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/05/01/when-the-equity-premium-fades-alpha-shines/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資勧誘を意図するものではありません。

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