ジャネット・J. マンジャノ
ある債券運用者の回想録:社債投資へのガイド 2024年 マーク・A・リーダー 自己出版
社債投資の初心者もベテランも、マーク・リーダーのくだけた語り口と、「ある債券運用者の回想録」で明快に示された複雑な分析のアイディアを知れば、きっと魅了されることでしょう。私は債券投資に関する最高の参考書について尋ねられれば、同僚や学生にはフランク・J・ファボッツィの「債券ハンドブック」(原題:The Handbook of Fixed Income Securities)を勧めています(注)。ファボッツィの著書と同様に包括的な大作であるリーダーの著書は2024年に出版され、社債やプライベート・クレジットの分析および債券ポートフォリオの構築と運用に関する個人的な洞察が加わった高度な専門ガイドとして、その価値を高めています。
リーダーは、社債ポートフォリオの構築は誰でも可能だが、大きな損失を出さずにアルファを生み出す適切な債券を継続的に選択できるのは、熟練した投資家だけだと主張しています。私は個別社債の分析と債券ポートフォリオの運用において30年の経験を有していますが、本書を読んだことにより、個別銘柄の分析とポートフォリオ全体の構築に関して私の投資活動に直ちに影響を与える新たな手法を習得したと言うことができます。
マーク・リーダーの名前は、フランク・ファボッツィほどアナリストやポートフォリオマネージャーに広く知られているわけではありません。それでも、2008年の金融危機後にプライベート・クレジットの急拡大を伴いつつ発行体が入れ替わり信用の世界が変化し、そうした状況が今もある中で、彼の著書は社債実務ガイドの分野の一角を占めるにふさわしいものなのです。彼は、デロイト・トウシュやゴールドマン・サックスにおける初期のキャリアから、シンガポール政府の政府系ファンドであるGICのマネージングディレクター兼リード社債ポートフォリオマネージャーとしての在任期間に至るまで、債券の分析と運用における豊富な経験を持っています。彼は2023年に、グローバルなマルチストラテジーのクレジットマネージャーであるラ・マー・アセットを設立しました。彼の自信に溢れた話は、金融危機以降の長年にわたる在任期間をベースとしており、コーポレートクレジットの第一線の現場における深い経験に基づいているのです。
本書が社債投資の入門書ではない点にはご留意いただきたいですが、それはともかくとして、本書は金融市場の概要(パートI)から始まります。その後は、リサーチのプロセス(パートII)、ポートフォリオ運用(パートIII)、ポートフォリオ運用に関するより高度なトピック(パートIV)と続き、教訓と結論(パートV)で締めくくられています。
概要のパートの記述は初歩的に思えるかもしれませんが、債券市場の規模とパフォーマンス、最大の発行体である米国とその資金調達ニーズの高まり、ゼロ金利政策(ZIRP)の環境における社債需要、そしてそうした低金利債務の借り換えについて、たくさんの有益な考察を引き出しています。本書の40ページに要点が次のようにまとめられています。「賢明な投資家は、スプレッドと利回りが拡大しているときには信用エクスポージャーを増やし、スプレッドと利回りが縮小しているときにはエクスポージャーを減らすことでポートフォリオを調整する」。債券投資がそれほどまでに単純であればいいのですが、さすがにそうはいきません。だからこそ、著者は本書の中心となる部分で、詳細な演習とケーススタディを提供しているのです。
リサーチのプロセス (パート II)では、第 9 章「企業キャッシュフローの分析」と第 10 章「リーダーのマトリックス」において、取引実行時に十分な情報に基づく最適な意思決定を行うために潜在的な投資に関する未知の情報を最小限に抑えるというひとつの目的に向けて、分析の方向付けが行われています。
ポートフォリオ運用(パートIII)では、第13章「クーポン、利回り、債券リターンの違い」において、ベンチマーク金利と信用スプレッドの変動に基づく銘柄選択についての確かな洞察を提供しています。ハイブリッド証券についても詳しく取り上げており、債券市場ではめったに議論されないトピックを取り上げています。リーダーは、債券市場における他の投資手段と比較したハイブリッド証券のリスクを認識しつつ、より高い利回りを求める投資家に対し、ハイブリッド証券の検討を推奨しています。
ポートフォリオ運用のパートにおいて、以下の章は明確に機関投資家向けに書かれています。第17章「クレジット取引ツールの台頭」と第18章「プライベート・クレジットの機会と課題」です。後者では、レバレッジ制限のない状況を生み出す可能性のある資産クラスについて考察しています。リーダーは、過去10年間のプライベート・クレジットの急成長に関連する多くの重要な疑問を提起しています。
• プライベート・クレジットは公的債務よりもデフォルト率が低いか?
• 金利が上昇するとデフォルトは増加するか?
• プライベート・クレジットを利用する企業は、際限なく債務を再編できるか?
• 生命保険会社がプライベート・クレジットに殺到することで、システミックリスクが生じる可能性はあるか?
• 流動性に関する懸念はあるか?
著者は、プライベート・クレジット市場の進化が、流動性の高いクレジットとプライベート・クレジットの大きな収束につながると示唆しています。プライベート・クレジットの発行と投資の10年以上にわたる急速な成長については、このテーマに関する今後の著書で考察されることでしょう。
より高度なトピック(パートIV)は、あらゆる資産クラスの投資家とアナリスト向けのものです。金融工学、破産、企業再建、そして私のお気に入りでもあるクレジット・ポートフォリオのリスク管理といったトピックを取り上げています。また、多くの人が経験しているにもかかわらず、あまり話題に上らない「ポートフォリオの継承」についても取り上げています。
この包括的な書籍について私がひとつだけ批判をするならば、索引が付いていれば良かったと思います。著者は詳細な注釈を付けていますし、私も多くのページにブックマークを付けましたが、特定のトピックや言及されている人物を探すのに苦労することが何度もありました。
結論として、本書は専門的観点から焦点を絞りながらも、あらゆる経験レベルのアナリストやポートフォリオマネージャーにとって分かりやすい、魅力的な社債ガイドです。また、市場のボラティリティ上昇の影響を受ける可能性のある債券関連のトピックをより深く分析するための出発点としても役立ちます。
(注)フランク・J・ファボッツィ他著「債券ハンドブック」(原題:The Handbook of Fixed Income Securities)第9版 (マグロウヒル、2021年)。
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執筆者
Janet J. Mangano
(翻訳者:荒木 謙一、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/05/06/book-review-reminiscences-of-a-bond-operator/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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