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CFA協会ブログ

         

No.710


                                                                                                                                           2025年5月16日

顧客の投資目標とリスク行動:行動バイアスとの相関関係について
How Clients’ Investment Goals Reflect Risk Behavior and Hidden Biases

フィリップ・ラルーカ (Filip Raluca)CFAPRM

 

ボラティリティが再び高まり、経済見通しが変化するこの一年、もっとも馴染みのある投資原則でさえも再考する価値があります。損失回避や目標フレーミングといった行動ファイナンスの概念は基本的なものに思えるかもしれませんが、特にストレス下で顧客が実際にどのように行動するかを理解するためにも不可欠なツールであることに変わりありません。

ファイナンシャルアドバイザーは、「顧客を知る(know your client)」ことが単なる規制上の要件ではないことを認識しています。それは、投資期間やリターン目標だけでなく、数字の背後にある感情的なストーリーを理解することを意味します。例えば、60歳で退職するという同じ目標を持つ2人の顧客が、市場が反転したときに全く異なる反応を示すかもしれません。一方はこれをチャンスとして、もう一方はリスクとして捉えます。こうした違いは、彼らがなぜ投資をするのかという点から生じます。

その「なぜ」が重要なのです。投資目標は投資計画を立てるためのインプット情報として扱われることがよくありますが、そこから、より深い心理的パターンも明らかにすることができます。顧客がどれだけのリスクを許容するのか、不確実性をどのように解釈するのか、感情的には最終的にどうなってしまう状況を回避したいのかなどという点です。こうした文脈を理解することで、アドバイザーはより適切なアドバイスを提供できるようになります。市場環境が顧客の投資規律を揺さぶるような状況においてはなおさらです。

これは顧客を区別する際に強力に作用します。構築タイプと回避タイプの違いです。

構築タイプ対回避タイプ

顧客目標のほとんどは、大きく分けて2つに分類されます。それぞれが感情的志向と行動的傾向を明確に反映しています。

構築タイプ(向上心、目標志向)

このタイプの顧客は、チャンスと成長を重視しています。

そうした顧客の目標に一般に見られるのは次のようなことです。

    「早期退職したい。」

    「不労所得(働かずに得られる収入源)を確保したい。」

    「働き方の自由を確保するために資産を増やしたい。」

構築タイプに見られる典型的な行動特性とは

    市場のボラティリティが高い時でも投資を継続する。

    景気後退局面を買いのチャンスと捉える。

    目標達成に必要なリスクと捉える。

回避タイプ(恐怖回避、損失回避指向)

このタイプの顧客は、リスクを最小限に抑えることや最悪の事態を回避することに重点を置いています。

共通に見られる目標として含まれるのは次のような点です。

    「資金を使い果たして退職を迎えたくない。」

    「不測の事態に備えたい。」

    「公的な年金に頼りたくない。」

典型的な行動特性とは

    パニック売りに陥りやすい。

    過度に保守的な投資をする傾向がある。

    最初に良い結果が得られると拠出額を減らす。

長期的規律のための目標の再構築

アドバイザーは、顧客の目標の背後にある感情的な背景を探ることで、通り一遍の計画を立てるだけにとどまらず、より深い理解を得ることができます。目標が顧客の恐怖心に根ざしている場合、小さな失敗であっても過度のストレス反応を引き起こす可能性があります。ところが、前向きな願望を軸に目標の立て方を変えてみると、顧客が目標を達成できる可能性は高まるのです。

例えば、「お金が尽きるまで生きたくない」という目標を「自立して尊厳を持って暮らしたい」という目標に転換することで、回避することから願望を持つことへと目標を転換し、自信と規律を持てる投資へと導くことができます。

アドバイザーはこうした洞察をどう活用できるか

顧客の目標を評価する際には、次の3つの質問を問いかけてください。

    なぜこの目標はクライアントにとって重要なのか?

    その動機は恐怖心に基づくものか、願望に基づくものか?

    ストレスの多い中で意思決定する際には、そうした感情的傾向がどのように影響しうるか?

顧客の感情的傾向を明らかにすれば、アドバイザーには次のようなことが可能になります。

    各々の顧客に合ったリスクの取り方をアドバイスする。

    コミュニケーションと信頼関係を強化する。

    より一貫性のある投資行動を促す。

結論

投資目標は単にテクニカルなインプットではなく感情的な指標です。恐怖心よるものなのか、願望によるものなのかはさておき、顧客の投資目標は、顧客がどのようにリスクに向き合い、市場のストレスにどう対応し、成功をどう定義するかに影響を与えます。アドバイザーがこれを良い機会にできるかどうかは、顧客が何を望んでいるかだけでなく、なぜ望んでいるのかを理解することにかかっています。

2人の顧客について考えてみましょう。サラは経済的自立を目指す45歳の経営幹部、トムはお金が尽きることを心配する52歳の契約社員です。2人ともリスク許容度は中程度で、似たようなポートフォリオを選択しています。しかし、市場が下落すると、サラは現状を維持したい、トムは資金を引き揚げて手仕舞いしたい。その違いは資産配分にあるのではなく、モチベーションです。一方は目標に向かって資産を構築し、もう一方は恐怖を回避しようとしているのです。

顧客が「構築タイプ」なのか「回避タイプ」なのかを見極め、それに応じてコミュニケーションの仕方や投資計画の立て方を変えることによって、顧客はより明確な態度で自信をもって不確実な状況を乗り越えることができます。なぜなら、投資の成功は数字だけの問題ではないからです。人々が自分の将来について信じるストーリーと戦略を一致させることが重要なのです。

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執筆者

Filip Raluca, CFA, PRM

(翻訳者:瀧澤 創、CFA

 

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How Clients’ Investment Goals Reflect Risk Behavior and Hidden Biases | CFA Institute Enterprising Investor

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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