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CFA協会ブログ

         

No.711


                                                                                                                                           2025年5月23日

2つの不朽の遺産:賢人の引退と「バフェットのアルファ」

Two Enduring Legacies, One Oracle’s Exit, and “Buffett’s Alpha”

 

キャシー・スコット

 

「ウォーレン・バフェット氏の功績と、ファイナンシャル・アナリスト・ジャーナルの創刊80周年を、受賞歴ある記事の「バフェットのアルファ」を通じて、称えます。」

 

ウォーレン・バフェット氏が2025年末にバークシャー・ハサウェイのCEOを退任すると発表したことは、一つの時代の終わりを告げるとともに、金融業界全体に「振り返りの時」の始まりを告げます。投資のプロにとってこれは、個人のキャリアの素晴らしい軌跡を振り返るだけでなく、投資哲学を説明や検証、さらには問い直すことに役立つ知的インフラを振り返る時期でもあります。

 

偶然にも、ファイナンシャル・アナリスト・ジャーナルは今年、創刊80周年を迎えます。1945年以来ジャーナルは、実用的かつ実証的に有意義で、そして最先端の研究を発表することで、投資の実践の形成に貢献してきました。バフェット氏自身は長年、複雑さよりも明快さを重視してきたため、ジャーナルの受賞論文の1つである「バフェットのアルファ」が、オマハの賢人の驚異的な成功の背後にある原理を、厳密かつデータに基づいて研究したのは、まさに必要とされたことでした。

 

2018年に出版され、優れた研究に対して贈られるグラハム&ドッド賞を受賞した「バフェットのアルファ」(アンドレア・フラッツィーニ、デビッド・カビラー、ラッセ・ヘイエ・ペダーセン)は、何世代にもわたり投資家が賞賛してきたバフェットの特性、つまり市場を一貫してアウトパフォームする能力を定量化しようと試みました。

 

バフェット氏と彼の投資哲学については多くの著作がありますが、彼のパフォーマンスを説明する厳密な実証的分析は驚くほど少ないです。「バフェットのアルファ」の著者たちは、まさにこうした分析を行いました。

 

バフェット氏の成功は、市場の効率性に関する議論の中心にあるため、著者らは、彼の成功は運によるものだという考えを検証しようとしました。つまり、彼は単なるコイントスの勝者であるという考えです。こうした考えは、グレアムとドッドによる「証券分析」の出版50周年を祝う、1984年に開催されたコロンビア・ビジネス・スクールの会議において、効率的市場仮説の提唱者であるマイケル・ジェンセン氏によって述べられました。このイベントでバフェット氏は、株式市場の勝者の多くは「グレアムとドッド」の学派から生まれたと反論しました。

 

フラッツィーニとカビラー、ペダーセンは、彼のパフォーマンスの高さを説明する要因は何か、そして同様の特性を持った並外れた収益性のポートフォリオを作ることは可能かどうか、判断しようとしました。彼らはマーケットやサイズ、バリュー、モメンタムといった標準的な学術的要因では、バフェットのパフォーマンスを十分に説明できないことを発見しました。そこで彼らは、2つの要因を追加しました。1つ目はベッティング・アゲインスト・ベータ(BAB)、つまり低ベータ株を買い高ベータ株を売るというもの、2つ目はクオリティ・マイナス・ジャンク(QMJ)、つまり高品質株を買い低品質のジャンク株を売るというものです。

 

彼らの体系的なバフェットスタイルのポートフォリオは大きなアルファを生み出し、バークシャー・ハサウェイのポートフォリオに匹敵するパフォーマンスとなりました。バフェット氏はバリュー株の投資家として最もよく知られていますが、著者らの調査結果によると、同氏の一貫した優れたパフォーマンスを説明する上で、彼が安全なクオリティー株に重点を置いていることは、バリュー株指向と同等かそれ以上に重要かもしれないということが分かったのです。

 

この論文はまた、バークシャー・ハサウェイの独特な構造にも焦点を当てており、特に保険事業で得た資金によって、バフェット氏が安定した低コストのレバレッジを利用できたとしています。これにより、過度のリスクを取ることなく収益が増大し、パフォーマンスが悪化した時期でも、バフェット氏は方針を変えることなく乗り切ることができました。「バフェットのアルファ」の著者が指摘しているように、1998年半ばから2000年初めにかけて、S&P50030%以上の上昇をしたにもかかわらず、バークシャーの時価総額は40%以上の下落をしました。しかし、バフェット氏は方針を貫き、自らの優位性の行動的な側面を再確認しました。つまり、他の人ならできないような時でも、健全な戦略を堅持する能力です。

 

永続的な影響

バフェット氏が後継者に託す準備をし、ジャーナルが創刊80周年を迎える中、「バフェットのアルファ」は私たちに、優れたアイデアは特に検証され、公開され、実践された場合に、いつまでも残るということを想起させます。投資の未来は形こそ変わるかもしれませんが、その基盤はなおも、バフェット氏が体現し、ジャーナルが守りつづけた、その特質にかかっています。つまり、規律や証拠、実践的な関連性です。

 

注目すべきことに、CFA協会リサーチ・アンド・ポリシー・センターは今年、リサーチ・ファウンデーションの創立 60 周年という、もう一つの大きな節目を迎えています。数十年に渡って投資業界を形作ってきた、高品質で影響力の大きい記事やレポートをご覧いただくには、当社のセレブレーティング・リサーチ・ハブへ、是非アクセスしてください。

 

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執筆者

Cathy Scott

 (翻訳者:安部 智宏, CFA

 英文オリジナル記事はこちら

Two Enduring Legacies, One Oracle’s Exit, and “Buffett’s Alpha” | CFA Institute Enterprising Investor

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