713

CFA協会ブログ

         

No.713


                                                                                                                                           2025年6月6日

プライベート・クレジットの急成長は投資家を興奮させ、規制当局を懸念させている
Private Credit’s Surge Has Investors Excited and Regulators Concerned

 

ピート・ヴァテフ(Pete Vatev, CFA, FRM

 

プライベート・クレジットは、ニッチな資産クラスから世界の融資エコシステムにおける支配的な勢力へと急速に進化し、現在では推定2.5兆ドル規模の産業[1]を形成し、伝統的な銀行融資や公債市場に匹敵する規模となっています。変化するマクロ経済と規制環境の中で舵取りを迫られる機関投資家にとって、この資産クラスは魅力的な機会と高まる懸念の両面を提示しています。

プライベート・クレジットは、カスタマイズされた取引構造、優れた利回り、そして伝統的な債券からの分散投資を約束する一方で、銀行の事業縮小と投資家の投資意欲の高まりを背景とした成長の加速は、流動性、透明性、そしてシステミックリスクに関する重大な問題を提起しています。

この変革は、金融システムの構造的変化によって引き起こされてきました。その主な要因としては、2008年以降の銀行規制の厳格化、低金利環境における利回り追求の姿勢、そしてプライベート・エクイティによるより柔軟で非伝統的な資金調達源への需要の高まりが挙げられます。

 

プライベート・クレジットの成長の原動力

プライベート・クレジットの台頭には、いくつかの主要な要因が寄与しています。

·        銀行規制と緊縮:2008年以降の金融改革(バーゼルIIIやドッド・フランク法など)により、銀行の資本要件が強化され、中堅企業への融資能力が制限されました[2]。このギャップを埋めるために、プライベート・クレジット・ファンドが参入しました。

·        投資家の利回り需要:低金利環境において、年金基金や保険会社などの機関投資家は、プライベート・クレジット投資を通じてより高いリターンを求めました。[3]

·        プライベート・エクイティの拡大:プライベート・エクイティの成長は、企業が従来のシンジケートローンよりもカスタマイズされた資金調達ソリューションを好むため、直接融資の需要を高めています。[4]

·        柔軟性とスピード:プライベート・クレジットはカスタマイズされたローン構造、より迅速な実行、規制監督の緩和を提供するため、借り手にとって魅力的です。[5]

 

金融安定性とシステミックリスクへの影響

プライベート・クレジットにはメリットがある一方で、金融システムに新たな脆弱性をもたらします。

 

·        流動性リスク:銀行とは異なり、プライベート・クレジット・ファンドは中央銀行の流動性にアクセスできません。多くのファンドは投資家の資金引き出しを四半期ごとまたは年1回の償還期間に制限していますが、景気後退期に債務者の債務不履行が増加し、二次市場の流動性が枯渇すると、投資家の償還要求が投げ売りや市場の不安定化を引き起こす可能性があります。

·        レバレッジと集中度:多くのプライベート・クレジット・ファンドは高いレバレッジで運用されており、リターンは増大する一方で、脆弱性も高めます。例えば、事業開発会社(BDC)は2018年にレバレッジ上限を2倍に引き上げることが許可され[6]、システミックリスクへの懸念が高まっています。

·        不透明な評価:プライベート・クレジット資産は公開取引されていないため、評価の透明性が低く、古くなっている可能性があり、潜在的なリスクが隠れてしまう可能性があります。[7]

·        銀行との連動:プライベート・クレジットは伝統的な銀行業務の外で運用されていますが、銀行融資との結びつきが強まることで景気後退時に伝染リスクが生じる可能性があります。[8]

 

規制の見通し

連邦準備制度理事会、国際通貨基金(IMF)、国際決済銀行(BIS)などの規制当局は、金融市場におけるプライベート・クレジットの役割への監視を強化しています。IMFは、プライベート・クレジットの拡大は、特に引受基準が悪化した場合、経済ショックを増幅させる可能性があると警告しています。BISは、特に個人投資家がこの資産クラスへのエクスポージャーを拡大する中で、透明性とリスク監視を強化する必要性を強調しています。

 

さらに考えるべきこと

資産配分者や資産保有者にとって、プライベート・クレジットは利回りとポートフォリオ分散を追求するための戦略的な手段となります。しかし、この分野への資本流入が継続し、リスクインフラの規模を凌駕するケースも少なくないため、投資の前提はリスク調整された視点から継続的に再検証する必要があります。世界的な規制当局による監視が強化され、信用市場の複雑さが増す中で、隠れた脆弱性を回避し、信用サイクルの次の局面におけるレジリエンスを確保するためには、デューデリジェンスとシナリオプランニングが不可欠となります。

同時に、政策当局はプライベート・クレジットの台頭がもたらすより広範な金融への影響にますます警戒を強めています。連邦準備制度理事会、IMFBISなどの世界的な規制当局は、信用市場における不透明で流動性の低いセグメントの無制限な成長は、ショックを増幅させ、金融機関間でフィードバックループを引き起こす可能性があると警告しています。特に、インターバルファンドや公募型BDCを通じて個人投資家がプライベート・クレジット商品にアクセスしやすくなっていることは、流動性のミスマッチと評価の透明性に関する懸念をさらに高めています。こうした動向は、個人投資家の参加が拡大するにつれて、規制当局の注目を集めることになるでしょう。

市場の革新とシステミックリスク監視の適切なバランスをとることは、規制当局だけでなく、規律と先見性を持ってこれらの相反する流れを乗り越えなければならない機関投資家にとっても極めて重要となるでしょう。

 

[1] Bank for International Settlements (BIS) Private Credit Market Overview, 2025.

[2] Federal Reserve Report on Private Credit Characteristics and Risks, 2024.

[3] IMF Global Financial Stability Report, April 2024.

[4] IMF Blog on Private Credit Growth, 2024.

[5] What is private credit, Brookings, 2024.

[6] H.R.4267 – Small Business Credit Availability Act, 2018

[7] Federal Reserve Report on Private Credit Characteristics and Risks, 2024.

[8] Bank Lending to Private Equity and Private Credit Funds: Insights from Regulatory Data, Fed Boston 2025

 

この投稿が気に入られたらEnterprising Investorのご購読をお願い致します。

 

執筆者

Pete Vatev, CFA, FRM

 

(翻訳者:村上みさき, CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/06/05/private-credits-surge-has-investors-excited-and-regulators-concerned/

 

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。