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CFA協会ブログ

         

No.720


                                                                                                                                           2025年7月8日

ブックレビュー:より安く、より速く、より良く:気候戦争に勝利する方法
Book Review: Cheaper Faster Better How We’ll Win the Climate War

 

 

マーク・K・バシンCFA

 

より安く、より早く、より良く:気候戦争に勝利する方法 2024年) トム・ステイヤー著、シュピーゲル&グラウ社刊

 

本書「より安く、より速く、より良く」において、ガルバナイズ・クライメート・ソリューションズの共同会長でファラロン・キャピタルの共同創設者であるトム・ステイヤーは自身のストーリーを共有し、クリーンエネルギーへの移行における他の気候リーダーたちの革新的な取組みに焦点を当てています。彼は、気候対策の進歩を拡大するために資本主義がどのように利用可能であるかを示し、地球の安定化のためにすべての人々に支援を呼び掛けています。ソーラーパネル、グリーンコンクリート、グリーンスチール、グリーン水素などのグリーンテクノロジーが急速にクリーンで安価なものになりつつあり、地球の未来を再構築することがこれまで以上に重要になっています。

 

ステイヤーは、自然災害が経済に壊滅的な影響を与えることを私たちに再認識させてくれます。その代償には、再建にかかる費用(納税者が負担)、中小企業の休業費用、災害に見舞われた住宅所有者や従業員の保険料の高騰(あるいはいかなる価格でも保険に加入できないこと)、気温上昇により労働時間短縮を余儀なくされる屋外労働者の収入の減少、そしてこれらの大惨事に伴う人々の苦痛と死が含まれます。 米国では2000 年代に、復旧に 10 億ドル以上の費用がかかる災害を平均年間 7 件経験しました。 2010 年代には、10 億ドル以上の災害の数が平均年間 13件に急増し、2020 年代にはさらに増加しています。

 

炭素汚染を削減してネットゼロを達成するために、ステイヤーの「5プラス1」アプローチから始めることができます。排出量を削減する必要がある5つの分野は、発電、輸送、製造、農業、建築です。不動産の実務家として、建物に関する彼の詳細は洞察力に富んでいると私は思いました。ほとんどの建物ではエネルギーを無駄にしているため、今日建設中のものがネットゼロエミッションであることを確認する必要があります。先進国の建物の 80% 2050 年においても使用されている見通しですので、新しい建設物に焦点を当てるだけでは十分ではありません。私たちは古い建物を改修して、エネルギーの浪費を減らし、その過程において所有者にかかる費用を減らす必要があります。プラス 1は、直接空気回収などの技術によって大気から温室効果ガスを除去する炭素隔離です。炭素を吸収する樹木やケルプ(海藻)の床を植えるなどの自然を利用した解決策も有用な戦略となりえます。

 

ステイヤーは資本家であり、人々が思いやりからあるいは外部性の認識のために地球にとって良い製品に対してより多く支払うであろうことを前提とする、2つのバージョンの「グリーンプレミアム」の背後に存在する根拠に対して根本的に反対しています。競争の激しい世界では、いかなる理由であれ、より高価な製品を販売しようとしてもうまく行かず、規模も拡大しないという彼の意見に私も同意します。ネットゼロを達成するためには、全世界を化石燃料から移行させて、クリーンエネルギーとクリーンテックを最も安価な選択肢にする必要があります。これらのグリーン産業は価格そのもので勝負する必要があります。たとえば、ソーラーパネルのコストは 1977 年以来 99% 低下しました。屋根設置型太陽光発電は従来の電力よりもクリーンなだけでなくはるかに安価になりました。新しいテクノロジーの価格は、長い間存在してきたものの価格よりもはるかに速く下落する傾向があるため、価格差は今後も拡大し続けることがほぼ確実なのです。

 

環境正義は私たちが二酸化炭素排出量の削減に気を配るべきもう一つの理由ですから、私はステイヤーが本書の最後でこの点を強調していることに勇気づけられました。貧しい国は気候変動の影響による不均衡な負担を負わされるものです。さらに、米国では、アパラチアの炭鉱労働者などの社会から疎外されたコミュニティが、石油やガス関連の汚染により最も苦しんでいるにもかかわらず、そうしたコミュニティの人々は気候変動の影響から身を守る能力が最も低いことが多いのです。これらの不平等に対処することは正しいことなのです。

 

以上をまとめると、「より安く、より速く、より良く」は、クリーンエネルギー経済への移行手順を含む実用的な洞察を与えてくれる書籍です。この移行のためには新しいテクノロジーが不可欠ですが、一度それが普及し始めれば、より安く、より速く、より優れたものとなり、人々により良い取引を提供できるようになるのです。

 

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執筆者

Mark K. Bhasin, CFA

(翻訳者:荒木 謙一、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

 

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/07/08/book-review-cheaper-faster-better-how-well-win-the-climate-war/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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