デレク・ホーストマイヤー、ユージー・パン、ステファノ・サナウハ
驚くべきことです。従来の常識に反し、債券市場は株式市場からリスクの兆候を把握している可能性があります。少なくとも、2つの主要なボラティリティ指数の変動を比較すると、そう言えそうなのです。
株式投資家は、株式市場における恐怖や将来の不確実性の尺度として、CBOEボラティリティ・インデックス(以下、VIX指数と記載)を参照する機会がよくあります。一方、債券投資家は、債券市場の将来のボラティリティ予想をフォローするのに、メリルリンチ・オプション・ボラティリティ・エスティメート(以下、MOVE指数と記載)を参考にしています。しかしながら、どちらの市場が他の市場の動向を左右するのでしょうか。このボラティリティ指標のどちらかが他方を先導しているのでしょうか、それとも、それぞれ異なるリスクソースに反応しているだけなのでしょうか?
揺らぐ前提:株式が債券を先導するという証拠
この問いに答えるため、2003年以降の日次データを用いて、VIX指数とMOVE指数相互の関連を時系列で検証しました。
分析の結果、驚くべき結果が得られました。MOVE指数の変動はVIX指数の動向を予測するものではないものの、VIX指数の変動はMOVE指数の将来の動向を予測するのに役立つのです。
これは従来の常識を覆すものです。投資家は金利予想やマクロ経済シグナルに敏感な債券市場が株式市場の動向を左右すると考えるのが普通です。しかし、少なくとも市場で示される将来の不確実性に関しては、その関係は逆転しているようです。債券市場は株式市場からある種のシグナルを得ているのです。
この点を検証するため、2つの指数がどのように連動するかを調査しました。過去20年間、両指数は概ね連動しています。特にマクロ経済のストレス期にそうした連動は顕著で、30日のローリング相関はおよそ0.59でした。しかし、相関関係は因果関係ではありません。予測可能性を検証するため、片方の時系列が別の時系列の予測性を改善するかどうかを判定するのに役立つグレンジャー因果分析を使用したところ、私たちのケースでは明らかな答えが出ました。VIX指数が先行しているのです。
市場のストレスと一時的な債券主導
ストレスが高まる時期にはパターンが変化するというのが興味深い点です。VIX指数とMOVE指数の両方が75パーセンタイル水準を超えて急上昇しボラティリティの高騰を示すと、反転が見られるのです。つまり、MOVE指数の予測力がVIX指数よりも高くなるのです。この瞬間、株式は債券からある種のシグナルを得ているようです。稀なことですが、こうした例外は極めて高い不確実性の時期において、両市場間に見られる通常の情報の流れが一時的に逆転する可能性が示唆されます。
こうした結果の解釈ですが、ひとつには、MOVE指数が極度の不確実性が高まる時期に主導権を握るため、債券運用者のほうが株式運用者よりも経済の大きなマクロ経済変動に敏感であり、大きなセンチメントの変化(つまり、モメンタムがプラスからマイナスに転じる時)をよりよく捉えているという解釈です。
マルチアセット投資とヘッジ戦略にとっての示唆
今般明らかになったのは、単一資産に投資する投資家でなく、複数の資産クラスに分散投資する投資家にとって最も大きな影響を与えるという可能性です。ここで浮き彫りにされたのは、マルチアセットの運用責任者にとって、市場の恐怖を評価するには、恐怖、つまり不確実性の大きな変動が明らかになった際の債券市場に注目することが最善であるという可能性です。しかし、将来の不確実性に関する指標の小さな変動に対しては、驚きの結果ですが、株式市場をフォローする方がリスク指標として優れている可能性があります。
こうして得られた結果は、株式市場や債券市場における投資家だけではなく、リスクヘッジとして株式・債券を活用している投資家にも大きな示唆を与えます。商品トレーダーが、ポジシのために、株式市場や債券市場の大きな変動の兆候を早期に見つけたいならば、市場環境の変化に応じてVIX指数とMOVE指数の間で注視すべき指標を切り替える必要があるかもしれません。
今般の検証結果は、「債券市場が常に先行する」という長年の仮説に疑問を投げかけます。少なくとも将来の不確実性を計測するという点については、ボラティリティが最も高まる局面では債券市場が影響力を取り戻すという例外を除けば、株式市場が先取りしてこれに反応しているようです。通常、債券市場は将来のリスク評価において株式市場を後追いしているのであって、その逆ではありません。こうした結果は、一方の市場が他方を先導しているかという点だけでなく、不確実性の波及効果が両市場間でどのように伝わっているかという研究にも貢献します。
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執筆者
Derek Horstmeyer, Yuge Pang, Stephano Sanahuja
(翻訳者:瀧澤 創、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/07/23/volatility-signals-do-equities-forecast-bonds/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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