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CFA協会ブログ

         

No.726


                                                                                                                                           2025年8月29日

何を保有するかだけではなく、どれだけ保有するかが重要:機械学習とポートフォリオ構築の必要性 
It’s Not Just What You Own, It’s How Much: Machine Learning and the Portfolio Construction Imperative

 

 

マイケル・ショプフ(Michael Schopf)CFA

 

厄介な一つの真実があります。ほとんどのポートフォリオ運用者は銘柄選定に固執する一方で、ポートフォリオ構築を後回しにしがちだということです。ウォーレン・バフェットはかつて分散投資を「知識不足に対する防護策である」と呼び、彼と後継者は30銘柄以上を保有しながらも、各銘柄のポジションサイズは大きく異なっています。優れた投資家は知っているのです。すなわち、成功は保有銘柄だけでなく、その保有量にも依存するということを。

とはいえ、ポートフォリオ構築は、依然として投資業界で軽視されがちな存在です。運用担当者は株式調査や市場タイミングの分析に膨大な時間を費やします。しかし、各銘柄への配分比率を決定する段階になるとどうでしょうか?その判断は往々にして単純な経験則や直感に委ねられてしまいます。マイケル・バリーが指摘したように、「損失回避は完璧な銘柄を見つけるだけで完結するものではない。もしそうなら、完璧なポートフォリオはたった1銘柄で構成されるはず」です。

ポートフォリオ構築における失敗は観念的な問題ではすみません。パフォーマンスに打撃を及ぼす可能性があります。銘柄選択がアップルかマイクロソフトのどちらを保有するかを決めるのに対し、ポートフォリオ構築は、最大保有銘柄が30%下落したときにあなたの一年間を台無しにするのか、一時的な変動にとどまるかを決定します。これは芸術と科学の違いであり、直感が当たることを願うことと、体系的に耐性のあるポートフォリオを設計することの違いです。

何十年もの間、この見過ごされてきた分野を支えてきた伝統的な手法は、その限界を見せ始めています。1950年代に提唱されたハリー・マーコウィッツの現代ポートフォリオ理論(MPT)は、安定した相関関係と予測可能なリスク・リターン関係に依存していますが、変動が激しく相互に結びついた今日の市場では、そのような関係は存在しません。

一方、2024年のマーサーによる調査では、資産運用会社の91%が既にAIを活用しているか、今後12ヶ月以内に投資戦略に導入する計画があることが明らかとなりました。もはやこれらの技術を採用するかどうかではなく、競合他社がポートフォリオ構築を主要な競争優位性へと変革する中で、自社がこれを重要性の劣る関心事として扱い続けるかどうかが問題となっています。

資産運用における革命は、銘柄選択だけにとどまりません。ほとんどの運用会社が依然として無視している体系的で科学的なポートフォリオ構築手法にも起こっているのです。あなたは、ポートフォリオ構築を長期パフォーマンスの重要な原動力と認識する側につくのでしょうか?それとも、最良のアイデアも不適切な配分の決定によってはポートフォリオの致命傷に変わる可能性を抱えながら、銘柄選択に固執し続けるのでしょうか?

投資プロセスの革命

均等、時価総額比例、あるいは確信度にもとづいた従来の配分手法は、バイアスや構造的な限界に陥りがちです。機械学習がアプローチの飛躍的進化をもたらすのはこの点です。

均等配分は企業間のファンダメンタルの差異を無視しています。時価総額加重は最も大型の銘柄群にリスクが集中します。裁量配分は運用者の技量を反映する一方、認知バイアスに左右され、ポートフォリオの規模が大きくなると扱いにくくなります。まさにこの点において機械学習は投資プロセスを根本から変革し、人間の最善の洞察力と機械の精度を融合した体系的なアプローチを提供します。

 

機械学習の優位性:芸術から科学へ

動的適応と静的モデルの対比

従来のポートフォリオ最適化は、バックミラーを見ながら運転するようなものです。意思決定は関連性が失われた過去のデータに基づいて行われています。さらに、平均分散最適化(MVO)などの従来手法は、資産リターン、ボラティリティ、相関の間に線形で安定した関係があると仮定していますが、この仮定は、非線形なダイナミクスを特徴とする波乱に満ちた現実の市場環境ではしばしば破綻することがあります。

これに対して、機械学習(ML)はGPSシステムのように機能し、リアルタイムの市場状況に継続的に適応し、それに応じてポートフォリオを調整します。MLの核心的な強みは、こうした非線形な関係を認識し適応する能力にあり、これによりポートフォリオマネージャーは現代市場の複雑さと予測不可能性をより適切にナビゲートできるようになります。

「マーコビッツの最適化の謎」を考えてみましょう。これは理論的には最適なポートフォリオが現実世界の条件下では不振に終わるという広く報告されている傾向です。これは従来のMVO(平均分散最適化)が入力誤差に過度に敏感であるために生じます。ある銘柄の期待リターンのわずかな過大評価が、全体の配分を劇的に歪め、しばしば極端で直感に反するウェイト配分をもたらすことがあるのです。

機械学習ベースの手法は、分散投資に対する考え方を変えることでこの根本的な問題を解決します。個別銘柄間の相関関係の均衡を図ろうとする(不安定さで悪名高い手法)代わりに、機械学習アルゴリズムは異なる市場環境下での挙動に基づいて株式をクラスターに分類します。階層的リスク・パリティ(HRP)手法はこのアプローチの典型例であり、不安定な相関推定値に依存せず、類似したリスク特性を有するグループへ株式を自動的に分類し、ポートフォリオリスクをこれらのクラスター間で分散するものです。

 

優れたリスク管理

国際決済銀行(BIS)の最近の研究は、機械学習(ML)がリスク予測において優れていることを実証しています。高度な機械学習アルゴリズム(ツリーベースの機械学習モデル)は、312か月先の見通しにおいて、従来の自己回帰モデルと比較してテールリスク事象の予測誤差を最大27%削減しました。これは単なる学術理論ではなく、市場のストレス時にポートフォリオを保護できる実践的なリスク管理手法です。

機械学習は単にボラティリティや相関を分析するだけではありません。従来のモデルでは見逃されがちな極端なテールイベントを含む、より広範なリスクシグナルを統合します。この包括的なリスク評価アプローチにより、運用担当者は市場の波乱に耐えうるより強靭なポートフォリオ構築が可能となります。

 

リアルタイム・リバランス

従来のポートフォリオ管理では、週次や月次といった指定されたリバランススケジュールに従うことが一般的ですが、機械学習(ML)は動的なシグナルに連動する調整を可能にします。この機能は、COVID-19による市場の混乱や2025年初頭のボラティリティの高まりにおいて極めて有用であることが証明されました。従来のモデルが変化する状況を認識する前に、MLシステムは素早くディフェンシブなセクターにシフトし、状況が改善すると速やかに高ベータセクターへ切り替えることができたのです。

さらに、機械学習は投資委員会の高次元の判断を、分散投資とリスク目標を維持しつつ、具体的なルールベースのポートフォリオ配分に変換することができます。これにより、戦略的洞察が実行段階で失われないことを確実にします。これは従来の裁量型アプローチが共通して抱える問題でした。

資産運用会社はしかし、厄介な現実と向き合わねばなりません。AIと機械学習は必然的にコモディティ化された技術となるでしょう。数年のうちに、事実上全ての資産運用会社が何らかのAIシステムやモデルを保有するようになるでしょうが、それらを効果的に統合できる企業はあまりないでしょう。真の優位性はここにあります。この技術の民主化が明らかにするのは、将来の真の競争の舞台です。「AIを所有しているか」ではなく「どう活用するか」なのです。持続可能な競争優位性は、AIの能力を一貫したアルファ創出へと転換する技術を極めた者の手に渡るでしょう。

以下のケーススタディは、この戦略的導入が実際にどのように機能するかを具体的に示しています。

 

実証データ:CapInvestの事例研究

理論は実践的な成果が伴わなければ意味をなしません。ある企業の事例は、機械学習(ML)がいかに戦略的に活用されうるかを示しています。私が最高投資責任者(CIO)兼リードポートフォリオマネージャーを務めるフランクフルト拠点の投資専門会社MHS CapInvestは、特にポートフォリオ最適化におけるMLの有効性を説得力ある形で実証しています。CapInvestは、自社AIシステムの開発に数年と数百万ドルを費やす代わりに、厳選したAIプロバイダーと戦略的提携を結び、ポートフォリオ最適化のための高度なMLツールと、ファンダメンタル分析や銘柄選定のための生成AIGenAI)ソリューションを統合しました。

結果は明白です。20257月現在、CapInvestのグローバル株式ポートフォリオは複数の時間軸において卓越したアルファを生み出し、MSCIワールド指数を大幅に上回るシャープレシオを達成しています。このアウトパフォーマンスは、リスクの増大ではなく、より優れたポートフォリオ構築を反映したものです。

また、パフォーマンス指標を超えて、CapInvestが実現したのはオペレーション上の大きなメリットです。ポートフォリオ構築と最適化に必要な時間が大幅に短縮され、ポートフォリオ運用チームは生成AIツールと戦略的リスク管理に支えられた、より深いファンダメンタル分析にリソースを集中させることが可能になりました。

同様に重要なのは、ポートフォリオマネージャーとして最終決定権を完全に保持できた点です。これが肝心な点です。機械学習システムは人間の判断を代替するのではなく、補完する役割を果たすのです。

このハイブリッドアプローチは、膨大なデータセットを扱う上での機械学習の分析的な強みと、生成AIを活用した調査から得られる洞察に富んだガイダンス、そしてポートフォリオマネージャー自身の市場専門知識と直感を融合したものです。これは、現代のポートフォリオマネージャーにとって真の競争の場はAI能力の有無ではなく、その活用方法にあるという根本的な洞察を反映しています。成功の鍵は、AIの計算能力を従来のポートフォリオ運用能力や市場に対する感覚と効果的に統合する経験と知識にあります。

資産運用会社はこれらの機械学習技術をいくつかの方法で活用できます。自社で開発するか、サードパーティ製ソリューションを購入するか、あるいは両者の組み合わせです。本ケーススタディでは最後の選択肢の事例を紹介しました。それぞれの導入方法の詳細と相違点については、後続の記事で詳しく説明する予定です。

 

競争上の必要性

ポートフォリオ構築における機械学習は単なる技術的アップグレードではありません。それは急速に競争上の必要条件となりつつあります。その証拠は圧倒的です。機械学習に基づいたポートフォリオは、優れたリスク調整後リターン、より良い分散効果、動的なリバランス機能、そして強化されたリスク管理を実現します。

今日のポートフォリオマネージャーにとって真の競争の場は、AIを保有しているかどうかではなく、それをどう活用するかにあります。ベンジャミン・フランクリンが指摘したように、「知識への投資は最高の利子を生む」のです。現代の市場において、その知識とはAIの能力を一貫したアルファに変える方法を極めることを意味します。

戦略的なAI導入をマスターした企業は、単なるツールとして扱う企業を凌駕するでしょう。技術は存在し、その優位性は現実のものであり、競争圧力は加速しています。あなたはその変革を率先するのでしょうか、それともポートフォリオ構築が進化する中で取り残されるのでしょうか?

ポートフォリオ構築の革命が到来しています。優位性は今や、その活用法を知る者たちの手に委ねられています。

より深い技術的知見を求める方々のために、完全な研究論文はSSRNhttps://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4717163)で公開されています。実務家からの広範なフィードバックと実世界での導入経験に基づき、同僚と私は最近、AIに関するポートフォリオマネージャーの最も差し迫った疑問に対してより包括的な回答を提供する更新版を出版しました。

 

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執筆者

Michael Schopf, CFA                   

(翻訳者:清水英佑、CFA

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/08/13/its-not-just-what-you-own-its-how-much-ml-and-the-portfolio-construction-imperative/

 

当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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