Kanan Mammadov
2025年の金(ゴールド)の目覚ましい上昇は、より不安定な局面に入りました。1オンスあたり4,300ドルを超え、年間で50%以上上昇した後、金は今や急落しています。この調整は、多くの投資家が懸念していたことを裏付けています。つまり、構造的な強気相場であっても、センチメントが行き過ぎればつまずく可能性があるということです。
問題はもはや金価格がなぜ上昇したかでなく、ポートフォリオの中核資産として新たに確立した重要なポジションがストレスに耐えられるかどうかです。投資家にとって、この最近の変動は、金がヘッジ手段から戦略的シグナルへと進化していく過程がまだ途上にあることを改めて示すものです。
地政学的不安と安全資産への反射的行動
紛争や政治的な機能不全は、依然として金の需要の強力な原動力となっています。ウクライナやガザで続く戦争、地域の不安定化、そしてアメリカの財政的不確実性が、実物資産による保護を求める動きをさらに強めています。デビア・グループのナイジェル・グリーン氏は「政治がどれほど安定していたとしても、資産の安全までは保障されない」と述べています。制度への信頼が揺らぐとき、金が持つカウンターパーティーリスクのなさこそが最大の強みとなります。
しかし、今回の調整局面は「恐怖にも限界がある」ことを示しています。短期的なリスクが後退したり、市場が自信を取り戻したりすると、安全資産への資金移動は急速に巻き戻されます。プロの投資家の間では、金をパニック時のヘッジではなく戦略的な保有資産として捉える傾向が強まっています。この微妙な変化が、金相場の力強い上昇と急速な反落の両方を説明しています。
中央銀行:静かな買い手たち
表舞台に報道されている話題とは別に、中央銀行は引き続き金需要を支えています。2022年以降、各国の中央銀行は年間およそ1,000トンの金を購入しており、これは数十年ぶりの速いペースです。ロシアの外貨準備凍結は転機となり、新興国の中央銀行がドルからの分散を進め、政治的に中立な準備資産として金を選好するきっかけとなりました。ワールド ゴールド カウンシル(WGC)の調査によると、95%の中央銀行が今後1年間で世界の金保有はさらに増加すると予想しています。
こうした公的機関による購入は、市場の変動が大きい中でも安定要因として機能しています。個人投資家にとっても、それは金への分散投資が一時的な流行ではなく、金融戦略の長期的なシフトであることを示しています。
政策転換とドルの動向
マクロ経済の背景も依然として重要です。年初には、アメリカの利下げ期待が高まり、利息を生まない資産である金の機会費用が下がったことで、金価格は上昇しました。しかし、その後ドルが反発し、投資家が追加利下げ観測を後退させると、金への追い風は一転して逆風に変わりました。
ポートフォリオ・マネージャーにとって、これは重要な教訓です。つまり、金はインフレや危機回避へのヘッジ手段としてだけでなく、金融政策や為替の見通しにも敏感に反応する資産ということです。マクロ環境のストーリーが変わると、同じ資金の流れが急速に反転することもあります。
投資家フローとモメンタムの反転
ETFへの資金流入は、今回の上昇局面を加速させた大きな要因でした。9月には記録的な資金流入があり、四半期ベースで過去最高を更新しました。しかし、同じ資金フローが現在では下落局面を拡大させている可能性があります。価格の下落に伴い、投機的なポジションによる利益確定売りが先物やETF市場を通じて連鎖的に発生し、流動性が価格変動を両方向に増幅させる結果となっています。
それでも、投資家の根本的な関心は失われていません。デジタル資産や他のコモディティと比べても、金の高い流動性と安定性への信頼は根強く、特に長期的な分散戦略を見直す機関投資家からの需要が続いています。
信念の試練
今回の調整は、金の構造的な魅力を否定するものではなく、それを試す局面です。金相場を押し上げてきた上昇要因―地政学的な緊張、中央銀行による分散、財政的な圧力―は依然として存在しています。しかし、上昇のペースが基礎的な要因を上回っていたため、今回の下落はどんな安全資産もボラティリティから完全には逃れられないという現実を思い出させるものとなりました。
プロの投資家にとって、最も重要な教訓はバランスです。金の新たな役割は、株式を上回ることでも債券を代替することでもなく、信頼、流動性、政策の信認といった要素の変化を示す指標となることです。今回の下落は、市場がその指標をどの程度ポートフォリオに組み込むべきか、そしてどの水準で評価すべきかを再調整している過程を示しています。
この投稿が気に入られたらEnterprising Investorのご購読をお願い致します。
執筆者
Kanan Mammadov
(翻訳者:村上みさき, CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/10/23/from-hedge-to-test-case-golds-volatility-and-the-limits-of-safety/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。