マルコス・ロペス・デ・プラド、Phd
ファクター投資は、なぜ一部の株がアウトパフォームするのかを説明することで、市場に科学的な精度をもたらすことを約束していました。しかし、長年にわたり期待外れだった結果、研究者たちは、問題はデータ自体ではなく、モデルの構築方法に気付いています。新しい研究によると、多くのファクターモデルが相関を因果関係と誤認し、「ファクターミラージュ」を生み出しているとしています。
ファクター投資は、市場が分散不可能なリスク、すなわち、バリュー、モメンタム、クオリティ、企業規模へのエクスポージャーに報酬を与えるという、洗練された考えから生まれました。そして一部の資産が他よりも優れたパフォーマンスを発揮するかについての理由をも提示します。この前提に基づいた投資商品には、それ以来、数兆ドルの資産が配分されています。
データは厳しい現実を語っています。ブルームバーグ・ゴールドマンサックス米国株式マルチファクター指数は、古典的なプレミアムのロングショート・パフォーマンスに追随しており、2007年以降シャープレシオはわずか0.17(T値は0.69、p値は0.25)であり、コスト控除前ではゼロと統計的には区別がつきません。端的に言えば、ファクター投資は投資家に価値をもたらしていません。このようなモデルを基に商品を設計したファンドマネージャーにとって、その欠陥が長年の低パフォーマンスや自信喪失に繋がっています。
なぜバックテストは誤解を招くのか
従来の説明では、バックテストの過剰適合や「pハッキング」という研究者がノイズをアルファのように見せるまでマイニングすることが原因とされています。この説明は、正しいですが不完全です。CFA協会の調査財団が公表したADIAラボの最近の研究では、より深い根本的な欠陥、すなわち体系的な誤特定です。
ほとんどのファクターモデルは、線形回帰、有意性検定、2パス推定量など計量経済学の基準に従って開発されており、相関と因果関係を混同する構造的な弱点を抱えています。計量経済学の教科書では、回帰は因果メカニズムにおける変数の役割にかかわらず、リターンに関連する任意の変数を含めるべきだと教えています。
これは重大な方法論的な誤りです。ファクターとリターンの両方から影響を受けるコライダーを誤ってモデルに含めたり、ファクターとリターンの両方に影響する「交絡因子(以下、コンファウンダー)を除外したりすると、推定される係数には体系的なバイアスが生じます。
このバイアスはファクターの係数の符号を反転させることがあります。そのため、投資家は売っていたはずの証券を買い、その逆もまたありえます。たとえ全てのリスクプレミアムが安定して正しく推計されていても、誤ったモデルでは体系的な損失を生み出す可能性があります。
ファクターミラージュ
「ファクター動物園」はよく知られた現象で、何百もの公表済みのアノマリーがアウトオブサンプルでは再現できないという問題です。ADIAラボの研究者たちは、より深刻で危険な問題を指摘しています。それが「ファクターミラージュ」の存在です。これはデータマイニングからではなく、教科書通りの計量経済学手法に従って開発されたにもかかわらず、因果関係を誤って特定したモデルが生み出すものです。
コライダーを持つモデルは特に懸念されます。なぜなら、正しく指定したモデルよりも高いR²を示し、しばしばp値も低いからです。計量経済学の基準では、このような誤ったモデルを好み、適合性の良さを正確性と混同しています。
コライダーを持つファクターモデルでは、リターンの値がコライダーの値より先に設定されます。その結果、コライダーから得られる強い関連性は収益化できません。そのような学術論文が指摘する「収益可能な関連性」は実際にはミラージュのようなものです。しかし、その方法論的誤りが、過去数十億ドル規模の資産配分への影響をもたらしてきました。
例えば、2人の研究者がクオリティファクターを推定していると考えてください。研究者の一人は収益性、レバレッジ、企業規模をコントロールしています。もう一方は自己資本利益率(以下、ROE)を加えています。これでは、ROEは収益性(ファクター)と株価パフォーマンス(結果)の両方に影響を受けるため、コライダーとなります。
コライダーを含めることで、2人目の研究者は偽の関連性を作り出します。すなわち、高いクオリティが過去のリターンと相関するのです。バックテストでは、2つ目のモデルの方が優れているように見えます。実際の取引では立場が逆転し、バックテストは静かに資産を失わせる統計的な錯覚に過ぎません。個々のファンドマネージャーにとって、こうした誤りが静かにリターンを蝕むこともあります。市場全体にとって、資産配分を歪め、世界規模で非効率を生み出します。
誤ったモデルがシステミックリスクを生むとき
モデルの誤った仕様は、様々な結果をもたらします。
l 資本の誤配分:数兆ドルが、関連性と因果関係を混同するモデルによって操られており、これは統計的な誤りであり、非常に大きな経済的影響をもたらします
l 隠れた相関関係:同様の誤特定されたファクターに基づいて構築されたポートフォリオはエクスポージャーを共有し、システミックな脆弱性を高めています
l 信頼の侵蝕:実際の取引で失敗するバックテストは、概して投資家の定量的手法に対する信頼を損ないます
ADIA Labの最近の研究はさらに進み、因果ファクターモデルなしではいかなるポートフォリオも効率的にはならないことを示しています。基礎となるファクターが誤って特定されてた場合、平均と共分散の完全に推定したとしても、最適はでないポートフォリオを構築してしまいます。つまり、投資とは、単なる予測の問題ではなく、複雑さを加えてもモデルが良くなるわけではありません。
投資家は何か違うことができるのでしょうか
ファクター投資の課題は、より多くのデータや複雑な手法によって解決されることではありません。最も必要なのは因果的推論(causal reasoning)です。因果的推論は、あらゆる資産配分に直ぐに適用できる実践的なステップです。
1. 因果関係の正当化をしてください。モデルを採用する前に、作成者は因果関係のメカニズムを明らかにしていますか?因果関係のグラフは現実の認識と一致していますか?因果関係のグラフは経験的証拠と整合していますか?選んでいるコントロール変数にバイアスはありませんか?
2. コンファウンダーを特定し、コライダーを避けましょう。コンファウンダーは管理するべきですが、コライダーはそうではありません。因果関係のグラフがなければ、研究者は違いを見分けることができません。因果の発見ツールは、データに沿った一連の因果関係のグラフを絞り込むのに役立ちます。
3. 説明力は誤解を招くものです。分散が少ないものの合理的な因果構造に沿うモデルは、高い決定係数(R²)を持つモデルよりも信頼性が高いです。実際には、強い関連性が収益性の向上を意味するわけではありません。
4. 因果関係の安定性のテスト。因果関係は時代を超えて安定しているべきです。もし、「プレミアム」の符号がそれぞれの危機によって変わるなら、その主因はリスクに対する補償の変動ではなく、誤って特定されたモデルである可能性が高いです。
相関から理解へ
金融業界だけがこの変遷を経験しているわけではありません。医薬業界は数十年前に相関から因果関係へと変遷し、仮説に頼る治療からエビデンスに基づく治療へと変遷しました。疫学、政策分析、機械学習では、いずれも因果推論を受け入れています。今度は金融業界の番です。
ゴールは科学的な純粋さではありません。実務における信頼性です。因果モデルは、リスクとリターンの真の原因を特定し、投資家が資産を効率的に配分し、パフォーマンスを説明可能な形で理解できるようにするための基礎です。
進むべき道
投資家にとって、この変遷は単に学術的なものではありません。単に効果があるだけでなく、なぜ効果があるのかを説明するモデルを現実世界で耐えられる戦略を構築することです。データが豊富にあふれる現在、因果関係を理解することこそが唯一の本当の強みかもしれません。
ファクター投資は、ファクターミラージュを引き起こしてきたこれまでの慣習を捨て去る場合に限って、元来の科学的な約束を果たすことができます。次世代の投資研究は、因果的な基盤の上に再構築されなければなりません。
l 専門分野の知識と因果の発見手法の組み合わせに基づく因果関係グラフを明らかにしてください
l すべての変数を網羅し、因果関係グラフと因果効果の導出法(do-calculus)の適用と整合する経済的論理で正当化します
l 反事実的推論で戦略を評価してください。エクスポージャーが違っていたらリターンはどうなっていたでしょうか?
l 因果関係の構造的な変化をモニタリングしてください。パフォーマンスに変化が現れたときには既に手遅れです
l 今日の市場はデータにあふれていますが、理解に乏しい状況です。機械学習は何百万もの変数にまたがる関連性をマッピングできますが、因果関係がなければ誤った発見を生み出します。AI時代における真の優位性は、より豊富なデータや複雑なアルゴリズムからではなく、リターンを真の原因に正確に帰属させるより良い因果モデルから生まれることでしょう
ファクター投資が投資家の信頼を取り戻すためには、主観的な観察パターンの記述から因果的説明へと展開するにとどまらず、相関から因果関係へと焦点を移さなければなりません。この変遷は、定量的投資が体系的であるだけでなく、真に科学的な手法へと進化する極めて重要な一歩となるでしょう。
執筆者
マルコス・ロペス・デ・プラド、Phd
(翻訳者:今井 義行、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
The Factor Mirage: How Quant Models Go Wrong - CFA Institute Daily Browse
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。