セバスチャン・ペトリック、CFA
金融は本質的に未来を扱う専門分野です。リスクオフィサー、ストラテジスト、投資の専門家にとって、資産の評価、リミットの設定、資本配分といったあらゆる意思決定は、世界がどのように変化し得るかという前提に依拠しています。従来、こうした前提は過去に大きく依存してきました。しかし、テクノロジー、気候変動政策、地政学、社会的期待によって環境面の姿が変わりつつある現在においては、昨日のパターンだけではもはや十分ではありません。最もレジリエンスが高い金融機関は、未来について学んでいるだけではなく、複数の起こりえる未来から学んでいるのです。
未来から学ぶこととは、環境がどのように変化し得るかについての対比できる複数のイメージを意図的に構築し、現在を照らし出す材料としてそれらを用いることを意味しています。重要なことは、どの経路が現実となるかを予測することではなく、むしろ複数の合理的な可能性を横断的に検討することにより、現在の仮定、脆弱性、および機会について何がわかってくるかということなのです。
予測からフォーサイトへ:リスクモデルの限界を拡張する
「リスク」と「不確実性」について古典的とも言うべき違いを認識することが、特に重要なことです。すなわちリスクとは結果の分布が比較的安定的であってデータから推定することができる状況です。一方、不確実性は、ゲームの構造自体が変わり得るような状況です。リスクの領域においては、過去に基づく推論と確率論的な予測は依然として強力なツールです。
一方、不確実性の領域では、新たな政策、技術、あるいは政治的な取決めが市場の姿を不連続に変えていくことがあります。過去のデータはガイドとしての信頼性を欠くために、構造的な想像力から学習することがより中心的な課題となります。「不連続性」とは、過去のパターンの延長線上ではなくむしろそうしたパターンから断絶するようなシフト、現状を作り変えるようなルール、技術、あるいは行動の変化のことを意味しています。
リスク管理チームやストラテジスト、CIOにとって、金融における定量化の伝統は、しっかりとした予測と補正(以下、キャリブレーション)という、リスク環境下の未来からの学習について洗練された方法を既に提供しています。しかし、金融機関が現在直面している多くの問題は、単一の確率分布にたやすく還元できるものではないのです。
例えば、テクノロジーと経済主体活動の行動変容のさまざまな組み合わせが特定セクターのキャッシュフローをどう変えるか、あるいは地政学的な同盟関係の変化が国境を越える資本フローや特定の金融センターの存続可能性にどう作用するか、こうした問題は過去のデータから単一の真の分布を推定できる類の問題ではありません。むしろ、複数の異なる、妥当性があり首尾一貫した未来を構築し探究するシナリオワークに適した問題です。この場合、未来から学ぶこととは、ドライバー、フィードバック、制約の分析に裏打ちされた質的に異なるいくつものストーリーを使用して、現行の戦略とポジションが多様な環境の下でどれほど頑健か、あるいは脆弱かを検証することを意味しています。
シナリオベースの学習は複数のメカニズムを通じて機能します。第一に、意思決定者がその環境についての複数のメンタルモデルを同時に心に描くことを促します。現状維持(business as usual)の単一イメージだけを思い描いて暗黙のうちに取り組むのではなく、例えば、気候変動政策に関する国際協調が急速に進む世界、断片化し地域ごとに異なるアプローチが生じる世界、気候変動政策よりもテクノロジーと民間主導の技術革新が先行する世界を比較検討するのです。
これらの状況は、それぞれが独自の論理と、価格、フロー、行動に関する独自のあり得るパターンを有しています。専門家はこれらを比較することによって、彼らが現在確信していることのどの部分が特定のストーリーにより影響を受けるのか、どの部分が複数のストーリーの下でも妥当性を維持し続けるのかを明確に理解することができます。第二に、シナリオを構築することによって、変化が実際どのように伝播し得るのかをチームに明確に表現することを求めます。すなわち、規制を通じてなのか、顧客の需要を通じてなのか、技術の代替を通じてなのか、あるいは市場センチメントを通じてなのか。このシステム思考と詳細なストーリーテリングの統合は、定量モデルだけでは見えにくい因果構造に関する隠れた仮説を浮き上がらせます。
シナリオ思考の活用:不確実性の下で意思決定を強化する
ファイナンスの実務家にとって、この学習方法の活用には具体的な形があります。リスク管理においてシナリオ分析は、過去のショックの単純な拡張ではなく構造的に異なる世界を取り入れることによってストレステストを強化します。「2008年のショックに20%上乗せ」のシナリオの下でポートフォリオがどのようにふるまうのかだけを問うのではなく、例えば、政策変更により特定資産が安全資産としてのステータスを失う世界、新技術がセクター全体のマージンを圧縮する世界、あるいは市場インフラが機能不全する世界などを検討することができるのです。
このような多様な状況にわたってエクスポージャー、ヘッジ、流動性プロファイルを評価することにより、純然たる後ろ向き(バックワードルッキング)な指標では見ることのできない集中や依存の関係が可視化されます。結果として得られるのは決定論的な損失マップではなく、過去とは異なる未来に対して、どこが金融機関にとって最も感応度の高い領域なのかについての深い理解です。
事業計画においても、未来から学ぶことはビジネスモデルや成長戦略のレジリエンス評価に寄与します。経営陣が既存および将来の事業を外部環境に関する複数のシナリオに照らして検討することにより、特定の政策あるいは技術の前提に強く依存する事業と、より適応力の高い事業を区別することができるのです。
これは同様に、資本配分、組織能力強化のための投資、および撤退の決定を、情報に基づいて行うことに資することになります。例えば、銀行あるいはアセットマネージャーは、特定のプロダクトがあらゆる未来のシナリオにおいて魅力的である一方で、別のプロダクトは市場構造や顧客行動に関する特定の前提条件が成り立つ世界においてでしか魅力的ではありえないということに気づくかもしれません。こうした思考法によって、コミットメントは排除されるのではなく、むしろどのような条件の下であれば有効であり続けるかについて明確な認識をもちながらコミットメントを行うことができるようになるのです。
シナリオワークは、金融の定量的手法とも自然につながります。シナリオが描く世界が実現しつつある場合に特徴的な動きを示す傾向のある、少数の具体的で時間軸を有する指標を各シナリオから導き出すことはひとつの実践的なやり方です。こうした指標は、明確な予測とモニタリングの基礎とすることができるのです。
実績データが手に入ることにより、期待と結果の間の乖離が生じることで追加的な学習をもたらします。特定のシナリオの論理が他のシナリオよりも顕著になっていること、あるいは特定の仮定についての修正が必要であることが示唆されるかもしれません。このようにして、ナラティブベースの探索と確率論的なキャリブレーションは、別個の活動ではなく単一の学習ループとして機能するのです。
一人ひとりの金融プロフェッショナルにとって、未来から学ぶ姿勢は従来の分析スキルに戦略的なフォーサイトを補完するものです。これは状況的な要因へのアンテナを拡げ、曖昧性への許容度を高め、行動を起こす前に「他に何が起こり得るか?」と問う習慣を促進するのです。
また、それは自身のキャリアや能力についての振返りも促します。特定の機能に関する自動化の進展、規制当局の期待の変化、新たなタイプの顧客層の台頭といったような未来を想定することは、この先の経路が様々に異なるものであったとしても価値を持ち続けるスキルや知識を主体的に獲得する姿勢につながります。その意味において、未来から学ぶことは、金融のリスクと機会を管理することだけではなく、変化する業界における自己の適応力を管理することでもあるのです。
未来への洞察と分析の統合:連続的な学習ループ
究極的には、未来を予測の対象としてのみ扱うのではなく学習の源泉として扱うことにより、推論、構造化分析、規律ある意思決定という金融の強みを、不確実性への深い関与と融合させることができるのです。シナリオ、フォーサイトの取り組み、予測のキャリブレーションはお互いに代替的な関係にあるのではなく、来るべき将来に向き合うための補完的な手段なのです。
金融プロフェッショナルがこれらを思慮深い方法で活用し、視野を広げるために複数の未来を用い、協働的なプロセスを用いて理解を共有することで、継続性と変化の両方に対応する能力を強化することができます。そうすることにより、未来が過去を映す場合だけでなく未来が過去から乖離する場合にも成功することができるように、組織と自分自身を位置付けることができるのです。
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執筆者
Sebastian Petric, CFA
(翻訳者:荒木 謙一、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/11/20/from-risk-to-resilience-what-finance-can-learn-from-the-futures/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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