ジェイコブ・ミラー
公開市場と非公開場市場の双方で人工知能(AI)の急激な成長には目覚ましいものがあります。現在、10社にも満たないテクノロジー銘柄がS&P 500の時価総額の約40%を占める一方で、AIを活用したスタートアップ企業が、ベンチャー投資全体への資金流入と企業評価額で支配的なシェアを占めています(図1および図2参照)。
ファンドの質を評価するには、運用会社だけでなく、成熟度が異なる新たなテクノロジーの違いを区別することも重要です。重要な課題は、依然として、投資家がAIに特化したベンチャー・ポートフォリオにおいて、いかにしてシグナルとノイズを区別し、真の永続的な価値を見極めることができるかということです。
図1
出所:Pitchbook NVCA ventures Monitor 2025年第1四半期
図2

出所:Carta、2024年12月
次に示すフレームワークは、リミテッドパートナー(LP)と投資アドバイザーがそうしたノイズを排除し、AI ベンチャー・ファンドをより正確に評価するのに役立ちます。
シンプルなフレームワーク
AIに特化したファンドに関心のあるLP、アドバイザー、投資家は、まず次のことを自問自答する必要があります。
1. オープンAI(OpenAI)のリリースする新機能に太刀打ちできない、GPTラッパー(Chat GPTのようなAIモデルの再パッケージを行う企業)に自分は投資しているだけではないか?
2. 自分が資本を投入する業界はどの程度飽和状態にあるのか?
3. サービスナウ (ServiceNow) 社など、既存のエンタープライズSaaS企業が急速に市場シェア確保を進めているにもかかわらず、AIを活用してレガシーSaaSを再構築することに価値はあるか?
こうした最初の問いをクリアしたら、投資家はAI特化企業の耐久性と拡張可能性を評価する上で、さらに二つの要素を考えます。
第一に、こうした企業は参入障壁の高い分野で事業を展開し、同時に起こっているイノベーションの波をうまく活用できるようなポジションにいるでしょうか。そうであるなら、市場が成熟するにつれて、しっかりした持続力と大きなリターンを生み出す可能性が高くなります。
参入障壁の高いスタートアップ企業は、より広く、より長く続くエコノミックモート(経済上の堀)を有しているため、オープンAI社やグーグル(Google)社が次に開催する会見やコンファレンスで発表される新テクノロジーから、自らをある程度守ることができます。一夜にして登場したメモアプリやコーディングアシスタントは、今後より広範に技術が進歩すれば、困難に直面する可能性が高いでしょう。
さらに、多くの場合、最も強力な参入障壁の一つは、企業への信頼です。信頼は製品の採用に不可欠であり、顧客との関係性や共感、専門性を通じて時間をかけて築き上げられます。優れた企業は、AIを使用するターゲットを広げるのではなく、むしろ絞ることで、信頼を生かし関係を深めることができます。こうした場合、AIは、顧客からのフィードバックに応え開発サイクルを短縮する大きな原動力として機能します。AIは置き換えではなく、増強であり、そうした増強が顧客からの信頼を築き、ビジネス全体の成長を支えるのです。これは「バイブコーディング」とは対照的です。バイブコーディングでは、AIはスピーディーにすべてのコードを作成することを重視しますが、高品質な成果物を提供することや真のニーズを解決することに重きを置いていません。
第二に、複数の革新的なスーパーサイクルの中心に自社を位置づけることで、スタートアップ企業はその持続性と市場開拓戦略の増強という両者を向上させます。AIだけの活用事例を有するAI企業にのみ投資するのではなく、それに隣接する活用事例も含めて投資対象を拡大することで、顧客に対し複数の参入ポイントを持つ競争優位性を築く可能性が高まるのです。
例としては、AIエージェントに物理的センサーを併用して造船所を自律的に管理する物流のスタートアップ企業や、スケジュール管理、支払請求、文書共有などの診療管理機能にAIを活用し、アプリを通じて患者にこうした機能をシームレスに提供するヘルスケア企業などが挙げられます。
ウィズ(Wiz):ベンチャーキャピタルのケーススタディ
こうした不達の要素がどのように組み合わさっているかを明確に示す例が、2021年に設立されたクラウドセキュリティのスタートアップ企業ウィズ(Wiz)で、グーグル社は同社を320億ドルで買収しようとしています。
クラウドセキュリティは参入障壁が高い分野であり、企業データの保管と漏洩防止という機密性のため、高度な運用上の信頼の上に成り立っています。ウィズ社は、事業の実現性を検証するプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)を早くから行っている企業で、優秀なエンジニアの採用、顧客との連携による信頼構築によって事業を拡大しました。
初期段階でクラウド移行のためにウィズ製品を導入した顧客は、エンタープライズAI開発に伴う新たなセキュリティ課題に直面しましたが、ウィズ社はそこに対応し、この分野でもビジネスを成功させました。自社製品に対する信頼を勝ち取り、クラウドとAIの両方の波に乗ることで、ウィズ社はグーグル社の注目を引き、投資家に高いリターンをもたらしました。
ノイズを切り抜ける
AIに特化したベンチャーキャピタルファンドが急増したことで、投資家とアドバイザーは、より厳格なデューデリジェンスを実施する必要に迫られています。こうしたシンプルなフレームワークを用いれば、真の参入障壁と長期的な戦略的ポジションを有する企業を支援するファンドの運用責任者と、誇大広告に惑わされる運用責任者を峻別することができます。その違いを見極められる投資家こそが、この先、成功を収める投資家となるでしょう。
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執筆者
Jacob Miller
(翻訳者:瀧澤 創、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/12/10/ai-in-venture-capital-separating-signal-from-noise/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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