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CFA協会ブログ

         

No.745


                                                                                                                                           2026年1月8日

利益が説明するもの、しないもの:150年間の市場データが教えてくれること

What Earnings Explain, and What They Don’t: Insights from 150 Years of Market Data

 

 
長期的に見れば、株価と企業収益は密接に連動しており、この関係性はロバート・シラーが1世紀以上にわたって収集したデータによって裏付けられています。ここでは、この長期的な関係性の強さを詳しく調べ、利益と株価の相関関係の変化が将来の株式市場リターンを予測するための手がかりを与えてくれるのかを分析します。
 
結論から言うと、利益は時間の経過に伴う市場行動を説明するのに役立つ一方で、相関の変動自体はリターン予測に有用な根拠をもたらさないことが示されました。
 
以下では複数のローリング期間にわたる実証パターンを提示し、相関指標を市場タイミングツールとして用いる上での限界を見極めていきます。ここで得られた知見は、金融アドバイザーが、長期的な市場動向を顧客に直観的でわかりやすく説明するのに役に立つでしょう。
 
本分析が明らかにしようとするもの
株価と企業収益の長期的な関係を検証する理由は、主に二つあります。
第一に、ここでの学びは、長期投資を行う際、その間の株式市場の動きを分かりやすく説明する手段を与えてくれるということです。長期とは10年超を指しますが、これは退職後の資金計画や資産配分を決定する際の重要な最小期間です。
第二に、株価と利益の相関係数を算出した後、その相関の変化が将来のリターンの先行指標となり得るかを検証することです。具体的には、歴史的な超低相関の後に、株式市場パフォーマンスが良くなるか悪化するかを検証しました。
 
相関分析の結果
分析では、S&P総合株価指数の1株当たり利益と株価の月次平均を使用しました。S&P総合構成企業の月次利益・株価・リターンのデータは、1871年から2024年12月までのShillerデータに基づいています。
 
複数の期間にわたって、利益と株価の相関係数は一貫して高い水準を示しました。
 
観測期間 相関係数
全期間(1871年1月~2024年12月) 0.977
100年(1925年1月~2024年12月) 0.974
1940年投資会社法以降(1940年8月~2024年4月) 0.973
50年間(1975年1月~2024年12月) 0.963
20年間 (2005年1月~2024年12月) 0.925
10年間 (2015年1月~2024年12月) 0.905
5年間 (2019年1月~2024年12月) 0.790
 
分析に当たって選択した共通のデータ期間についての注意点は以下の通りです。
• 1940年投資家保護法の制定時を計測期間の最初に選んだ理由は、投資家保護およびより統一会計基準導入の後に、結果に何らかの差異が生じたかを検証するためである。その結果、その差異はごくわずかにみえる。
• 過去10年および20年の期間を含めた理由は、退職後の資金計画期間として一般的な期間を反映するためである。
 
時間の経過に伴う相関性の変化
利益と株価の相関性は時間の経過とともに変動しています。特に5年、10年、20年といった短期の時間枠(窓)ではその変動は顕著です。50年という長期のローリング期間でも相関は変動しますが、変動幅ははるかに小さくなります。
 Source: Robert J. Shiller S&P data; Archer Bay Capital LLC
 
ローリング50年相関が最も低下したのは20世紀前半で、その時は相関が0.6まで下がりました。二度の世界大戦、大恐慌、1940年以前の市場規制が限定的であったという背景をふまえると、相関性がさらに低下しなかったことは特筆すべきです。
 
時間軸が短くなるにつれ、変動は増大しています。ローリング20年時系列では、1918年2月~1928年12月までの10年間に相関係数は0.50を下回り、さらに1948年12月も短期間ですが、同様の現象が見られました。
 
 Source: Robert J. Shiller S&P data; Archer Bay Capital LLC
 
ローリング10年の相関は、第一次世界大戦終結時、第二次世界大戦終結時、そして1970年代後半から1980年代初頭にかけての高インフレ期という三つの期間においては、ゼロを下回りました。
 
 Source: Robert J. Shiller S&P data; Archer Bay Capital LLC
 
当然のことながら、ローリング5年の相関は最も変動が激しく、下落の程度もより深く、より頻繁に上下し、相関性が負となった期間も複数含まれていました。ローリング5年の相関の平均および中央値は、より長期の期間で観測された値を下回りました。
 
 Source: Robert J. Shiller S&P data; Archer Bay Capital LLC
 
相関の変動とリターンは連動するか
利益と株価の相関の変動が、株式リターンを予測するか検証するため、相関の水準とその後の年率リターンの回帰分析を実施しました。
 
1871年~2024年までのS&P総合株価指数の利益と株価の間のR²(決定係数)は0.95と非常に高い水準です。この長期的な関係の強さと、相関が低い期間が比較的珍しいということを考慮すると、そうした期間が買いまたは売りのシグナルとして機能し得るかどうかを問うのは合理的と言えます。言い換えれば、利益と株価間の相関の変動は将来のリターン予測に役立つのでしょうか。
 この疑問を複数のローリング期間で検証してみました。相関の水準とその後の年率リターンの関係性から得た結果のR²は、利益と株価自体のR²を大幅に下回りました。ローリング10年および5年の期間ではR²がほぼゼロに近づき、(相関性の変動とリターンとの間に)実際には何ら予測関係が存在しないことが示されました。
50年のローリング期間が最も強い相関を示し、決定係数R²は0.53でした。
 
 Source: Robert J. Shiller S&P data; Archer Bay Capital LLC
 
20年のローリング期間では、R²は0.24となり、変動性がかなり大きいことを反映しています。
Source: Robert J. Shiller S&P data; Archer Bay Capital LLC
 
10年間の移動平均系列では、変動はさらに増大し、R²が0.06まで低下しました。
 
 Source: Robert J. Shiller S&P data; Archer Bay Capital LLC
 
5年間の移動期間には一貫したパターンは見られません。R²はほぼ0.0(実際値:1.27×10⁻⁷)です。
Source: Robert J. Shiller S&P data; Archer Bay Capital LLC
 
全体として、利益と株価の相関関係の変化が将来の年率リターンを予測するという証拠は見つかりませんでした。データは、50年未満の期間では両指標が有意に連動しないことを示しています。
 
相関関係の予測力
利益と株価の長期的な強い関係性は、長期にわたる株式市場の変動を明快に説明してくれます。これは、長期的な株式のトレンドを理解できる簡潔で直感的な枠組みなのです。
 
一方で、第二の目的——相関の変化が年率リターンを予測する指標となり得るか——については達成できませんでした。これまでの実証データは、長期的には二つの時系列は密接に連動しているにもかかわらず、年率リターンの変化率に影響を与えているのは利益と株価の関係性以外の要因であることを示しています。
 
重要なポイント
 
 長期的には、企業収益と株価は密接に連動している
150年以上にわたるシラーのデータは、両者の間に強い相関関係が持続的に存在することを示しています。
 短期間でみると、相当なノイズが生じている
5年、10年、20年といった期間で見ると相関は、戦争、インフレショック、構造変化などを反映しつつ、大幅に変動しています。
 相関が強いからといって予測できるわけではない
利益と株価の相関性の変化には、多くの投資家に関係のある運用期間の将来リターンを予測する能力はほとんどありません。
 最も長い観測期間の分析でさえ、その説明力は限定的であること。 
R²が0.53となる50年間の回帰分析でさえ、得られる知見はほんの僅かであり、より期間が短くなれば、ほぼゼロに近づきます。
 
利益は長期的な市場動向の説明には役立ちますが、市場における(売買の)タイミングを計る助けにはなりません。
 
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執筆者
Ingrid Tierens, PhD, CFA
(翻訳者:大濱 匠一、PhD、CFA)
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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