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CFA協会ブログ

         

No.748


                                                                                                                                           2026年1月30日

今話題のシンセティック・リスク・トランスファーは懸念すべきものか?
Synthetic Risk Transfers Are the Talk of the Town. But Are They as Scary as They Look?

 

  

By Alfonso Ricciardelli, CFA, CAIA

Posted In: Investment TopicsRisk ManagementStandards, Ethics & Regulations (SER)

アルフォンソ・リッカーデリ, CFA, CAIA

 

シンセティック・リスク・トランスファー(SRT)に近頃懸念の声が広がっています。2000年代初頭に規制資本最適化のニッチな形態としてヨーロッパで初めて導入され、それから今では現代の銀行のバランスシートマネジメントの最も重要な手段の一つに発展してきました。[1]

2016年から銀行は1.1兆ドル以上の原資産を参照したSRTを年間数百億ドル規模の発行をしてきました。取引が活発化し、プライベートクレジットファンドが取引を熱心に取り入れたことから、規制当局と金融ジャーナリストは段々と懸念を主張するようになってきました。

ここでの問題は、こうした取引にさらなる監督が必要かどうかです。

 

SRTsとは何か?

SRTsは合成証券化の形態の一つであり、銀行が典型的にクレジットデリバティブ、保証契約を通じてバランスシートからローンを完全に売却することなく部分的にクレジットリスクを取り除くもので、しばし「オンバランスシート証券化」とも呼ばれます。

そのマーケットの誕生地ヨーロッパでは、投資家は典型的にCDSの売り手になることで、アメリカではCLNを通して、メザニンローンのリスクを取得します。主要なプロテクションの売り手はパブリック及びプライベートのクレジットファンドであり、彼らは競合的な利回りと高いクオリティの分散されたクレジットエクスポージャーへのアクセス、そしてトランシェを通じたリスク調整力の魅力に引きつけられています。銀行はこれを通じてローンのクレジットリスクの一部を投資家に移転することで規制資本要件を削減することが可能です。その結果資本を増資よりも低いコストでの新たな貸出に解放する事ができるので、銀行はこれらのプロテクション料を支払います。

オリジネーションをする銀行はファーストロス(ジュニア)トランシェを保持します。投資家はそのプールの原資産ローンの詳細な情報は有しておらず、残存期間、格付け、業種構成といった一般的な属性情報のみにもとづき固定プレミアムやクーポンを得ます。もしポートフォリオにデフォルトが発生したら、銀行がファーストロスを吸収し、それを超える損失については、投資家がメザニントランシェのリミットまでロスをカバーします。

銀行は顧客とのリレーション、ローンの事務、そして利息収入を「自らリスクを背負う」ために保持し、そしてそれは規制要件でもあります。しかしこれはポートフォリオリスクの一部を外部に移転することから、銀行はローンに対する資本削減を認められます。

SRTsはキャピタルリリーフとリスクマネジメントの為に典型的に設計されました。前者については、バーゼル資本ルールが特定のアセットに過剰に懲罰的だと広く見られた為です。例えば、オートローンは限りなく低いデフォルト率に不釣り合いに高い資本を要求されます。SRTsにより銀行はリスクウェイトアセット (RWAs)を多くの取引で5080%削減する事ができます。それに加えて、銀行はバランスシートを縮小させる事なく地政学別、借入人別、セクター別に集中リスクを減らす事ができます。

 

SRTsはどこで成長しているのか、そして何故か

ヨーロッパの銀行が世界の発行のおおよそ6070%を占め、変わらず最もアクティブな発行体です。マーケットのルーツがヨーロッパにある理由は、グローバル金融危機(GFC)後の資本規制が厳格に解釈・運用されてきたためです。明確な監督上の枠組みと深い投資家層もヨーロッパの市場成長を支えました。各SRT取引は欧州中央銀行/欧州銀行監督局レビューを受け、直近の規制ルールでは、高クオリティのストラクチャに更に効率的な資本の取り扱いが認められました。

アメリカではFRBの2023年ガイダンスを受け、ダイレクトCLNストラクチャをキャピタルリリーフの対象としたことで銀行は早急にマーケットに参入しました。アメリカは今では30%近くのグローバルのディールフローに相当しています。アジアでは、オーストラリアやシンガポールなどのマーケットの機関はSRTのようなストラクチャを試み、しばしばボリュームは相当小さく、多くは異なった分類やパイロットプラグラムとして扱われています。

過剰規制の背景に生まれ、それでもなお厳しく精査される

その利点にも関わらず、SRTsは著しい規制監視を受けています。監督者はロールオーバーリスク、投資家集中、バックレバレッジに最も焦点を置いており、それらは全て発行の成長に伴いより顕著になってきているものです。

第一に、ロールオーバーリスクが発生します。理由は、原資産となるローンがしばしばバランスシートにより長期に残り続けているのにも関わらず、SRTsの満期が通常35年の満期である事からです。もしマーケットの状態が悪い時にSRTsが更新の時期となると、銀行はプロテクションを取り替えることが難しくなり、突然のRWAs増加や潜在的なでレバレッジのプレッシャーに繋がる可能性があります。

第二に、このリスクは投資家の集中によって増幅されます: 比較的小さなグループのプライベートクレジットファンドがメザニンマーケットを支配している為です。彼らの過大な役割はSRTエコシステム全体が一握りのプレイヤーのリファイナンス意欲に依存するという事を意味します。ストレス時のマーケットでは、これらのファンドは極めて高いスプレッドを要求する、あるいは完全に撤退する可能性があり、銀行には限られた代替手段しか残されていません。

第三に、規制当局はバックレバレッジに順応しています。バーゼルIII/IV及び地域規制では(例えばEUの資本要件規制(CRR)、銀行はポートフォリオの重要なシェアが移転された際に、移転が質的かつ真正なものであること、投資家はストレスマーケットでも保護されるという根拠を示さなければなりません。

こうした規制は、重大なリスク移転と銀行自らの実質的なリスクを背負う証拠を要求することで、循環取引を通じた規制アービトラージを防ぎ、SRTsが金融システムの弱体化ではなく、むしろ強化をすることを保証しようとしています。

最後に、不透明性についての懸念は依然として続いています。SRTs2008年以前のCDOと比べて格段に基準化され透明化しましたが、そのオーダーメイド性と限られた公共開示から、いくつかの監視者は真のリスク分散について神経を尖らせています。

 

核心を見据える

銀行にとって、SRTsは資本運営、クレジットエクスポージャー軽減、そして当局がGFCの後に規制環境を厳しくした後に貸出ボリュームを維持したまま資本制約に対する戦略的手段となりました。

SRTsをめぐる公衆の懸念は、私の意見では、金融危機によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の結果です。今回における主要な違いは2008年以前よりモラルハザードが相当に低いという点です。銀行がファーストロスを被り、投資家は真のリスクを保有し、全体的なマーケットは比較的小規模です。

SRT発行はむしろ、危機後何年も銀行に貸出の制限を押し付けるような過度に保守的なリスクウェイトへの回答なのです。それは銀行が特に圧倒的な主要プレイヤーであるヨーロッパにおいて、リスクを再配分することで、投資資本を解放する合理的なアプローチです。機関投資家にとって、SRTsは潜在的に多様化されたクレジットエクスポージャーと魅力的な利回りを提供します。

[1] SRTsシグニフィカント・リスク・トランスファーとも呼ばれます。シグニフィカント部分はキャピタルリリーフ(必要資本の削減)を得るため、十分なリスクが真正に移転されたことを証明してバーゼルルールなどの当局規制クライテリアに合うことを言及します。同時に合成(シンセティック)とはリスクはアセット自体を売却するのではなく(キャッシュセキュリタイゼーション)CDSなどのデリバティブを通じて移転されることを強調します。

[2] アメリカでは、銀行は通常ジュニアトランシェのファーストロスを保持し、シニアリスク(各トランザクションにつき2トランシェのみ) を移転します。

 

 

(翻訳者:古賀紗希、CFA

 

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Synthetic Risk Transfers Are the Talk of the Town. But Are They as Scary as They Look?

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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