ラルゥカ・フィリップ, CFA, PRM
長期投資は金融において最も広く受け入れられている原則の1つです。戦略は広く支持されており、データも明確で論理的であり、成果の十分に実証されています。そのため、顧客が長期投資を躊躇する場合、多くのファイナンシャルアドバイザーは、リスク許容度や不安、理解不足によるものだと推測します。
しかし実際には、こうした躊躇やためらいには、ほとんど関係がありません。顧客は必ずしも戦略に反対しているわけではなく、早期に決断することによって、心理的な違和感を抱くことがあるのです。長期投資の論理的な根拠や合理性は理解しているのです。そんな状態で先に進もうとすると、勢いが鈍ってしまうのです。
アドバイザーはこうした躊躇に苛立ちを感じるかもしれませんが、その原因を理解することは有益です。原因は、その戦略が理にかなっているかどうかではありません。決断し実行
するという行為がどのように感じられるのか、ということなのです。一部の顧客にとって、決定は単なる選択ではなく、他のあらゆる可能性を否定するものでもあるのです。
アドバイザーが「長期投資」と書かれた扉を指している間、顧客の注意はまだ開いている他のすべての扉に向いているのです。どれか一つを選ぶということは、まだ完全には固まっていない足場へ踏み入れるような感覚をもたしえるのです。
ここでは、心理的な構造を鑑みながら、顧客をコーチングする方法を探ります。
時期尚早に感じられる意思決定
クライアントとの会話の中で、次のような発言が微かながらも現れることが、しばしばあります。
「もう少しじっくり考えたい。」
「状況を見よう。」
「反対しているわけではない。しかし、まだ踏みきれない感じがする。」
こうした顧客は、明白な緊急性がない限り、決定を早すぎる行動であると感じます。
一方アドバイザーは、異なる思考フィルターを通して行動することが多いです。彼らは長期的な計画を、コントロールのための行為として捉えます。
・早期に意思決定をすること
・ノイズを排除すること
・将来のプレッシャーを減らすこと
彼らにとって、計画は安心感をもたらすものです。しかし、一部のクライアントにとっては、こうした計画を制約的なものと感じてしまうのです。計画とルールを柔軟性の喪失、つまり状況が変化しても従うべき義務として捉えてしまう可能性があるのです。
アドバイザーが「データがそれを裏付けています」や「私たちはこれを熟考しました」などの発言で説明を補強する際、論理的には正しいのですが、顧客が実際に感じるものを見逃しています。アドバイスが最終的な決定を促すように聞こえる場合は、顧客は本能的に判断を先延ばししようとします。
こうした兆候を見分けるには
会話の中で、顧客の次のような発言や様子に気付くかもしれません。
・「たぶん」や「場合による」、「今のところは」といった結論を和らげる表現を使う。
・アドバイスを完全に拒否することはほとんどない。
・「どれが一番いいか?」と尋ねるよりも、「もしこうだったら、どうなるか?」と質問してくることが多い。
・決断することがスケジューリングされている場合よりも、「突然に」決断を求められた時の方が、ストレスを感じない。
コーチングの変更点1:決断を自由の保護として捉え直す
「正しい」ことを強調することをやめましょう。代わりに、その決定が将来の柔軟性をどのように確保するのかを、顧客に示すのです。問題は論理そのものではありません。
多くの顧客は、決断しないことと自由であることを同一視します。彼らの視点からすると、延期は選択肢を維持することになります。彼らの注意は現在に向けられており、将来的な結果は抽象的に感じられるのです。
この場合のアドバイザーの役割は、今行動することでどのように将来の選択肢が確保されるかについて、優しく注意を向け直すことです。
次のような言葉は有効です。
今これを実行することで、望まない決断を迫られる可能性を減らすことができます。」
「これにより、状況が悪化した場合でも選択肢が広がります。」
「今日選択することで、将来の選択の自由を守ることができます。」
こうした変更は僅かなものに見えますが、有効です。決定が今日正しいものかどうかではなく、明日の選択肢を残すためのものとなっているのです。
コーチングの変更点2: 心理的負担を軽減する
長期的な目標の決定や実践に乗り気ではない顧客にとって難しいことは、ゴールそのものではありません。ゴールに向けて必要なステップについて感じる、重大な意味合いや不可逆性が問題なのです。
一度きりの大きな決断は、大きな心理的負担もたらし、次のようなことを考え続けさせることになります。
「もし今が間違ったタイミングだったら、どうしよう」
「今行動したことを後悔することになったら、どうしよう」
多くの場合、意思決定をより小さく連続的なステップに分割すると、状況は改善されます。一度に確定した単一の資産配分を提案するのではなく、連続した意図的な動きとして戦略を構築するのです。
顧客は将来のすべてを決定するのではありません。次の管理可能なステップを決定するのです。
コーチングの変更点3: デザインに柔軟性を与える
ここまで話しをしたような顧客の場合、計画の中に柔軟性が表れている必要があります。
実用的なアプローチの 1 つは、ポートフォリオを単一の統一されたコミットメントとして扱うのではなく、個別のセクションに分割することです。例えば次のようなものです。
・アクセスと柔軟性のある対応のための、流動性のあるセクション
・長期保有を目的とした長期投資のセクション
・より投機的で選択肢のあるセクション
正確な構成はクライアントによって異なりますが、原則はあります。それは、ポートフォリオの異なる部分は、異なるルールに従うというものです。
これには次の2つの効果があります。
・すべての資産が一度に確定するわけではないことを、顧客に再確認させることができる。
・長期的な資金について後から迷いが生じることなく投資し続けることができる。
柔軟性が設計に組み込まれることで、決断と実行が容易になるのです。
意思決定の形を整える
長期投資が定着しないのは、顧客に規律が欠けているからではなく、顧客が選択する時に感じることと、意思決定の構造が一致していないことが理由であることが多くあります。
アドバイザーが、何かを提案するかだけではなく、意思決定の枠組みを調整することで、プレッシャーをかけることなく、クライアントが決断し実行しやすくなるのです。
※このブログは、著者による行動投資に関するシリーズの一部です。詳細はこちらをご覧ください。
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執筆者
Raluca Filip, CFA, PRM
(翻訳者:安部 智宏, CFA)
英文オリジナル記事はこちら
Building Commitment to Long-Term Investing - CFA Institute Enterprising Investor
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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