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CFA協会ブログ

         

No.756


                                                                                                                                           2026年4月6日

ブックレビュー:「サステナブル投資のパズル ファイナンスで読み解くESG」
Book Review:The Puzzle of Sustainable Investment

By マーク K. バーシン、CFA

 

The Puzzle of Sustainable Investment: What Smart Investors Should Know2024年)
ルーカシュ・ポモルスキ著(Wiley

『サステナブル投資のパズル』の著者で、アカディアン・アセット・マネジメントのシニア・バイスプレジデントとコロンビア大学非常勤教授を兼任するルーカス・ポモルスキは、本書で激しく賛否のわかれる環境・社会・ガバナンス(ESG)投資に重要なツールを提供しています。本書では、サステナビリティが企業の意思決定に影響を与える経路を分析するとともに、業界で中心的な論点を簡潔にまとめた実例やケーススタディが数多く紹介されています。著者は、いくつかの重要な問いに対する答えが、あの忌まわしき「状況による(it depends)」ことを認めつつ、サステナブル投資の長所、短所、さらには未解明の領域について巧みに論じています。

まず始めに、シンプルな思考実験に基づいて著者が導き出した結論は、実に的を射ています。つまり、ESG特性は情報源の一つであり、ESG情報の一部は、ESG投資全般に対する投資家の価値観にかかわらず、財務的ゴールの達成に役立ち得るのです。したがってこの考え方に基づくと、ESG考慮のポートフォリオは、ESG無視のポートフォリオよりも高いシャープレシオを示すのです。よって、リスクとリターンに対する投資見解にESG要素を取り入れるESGインテグレーションは、より優れたポートフォリオを構築できる可能性があるため有効なアプローチといえます。

一方、ESG投資家が投資プロセスに盛り込む一定の制約はいわゆる「罪プレミアム(sin premium)」、すなわち、たばこや化石燃料といったESGスコアが低い銘柄を保有することで、相対的に期待リターンが高まる現象をもたらす可能性があります。ただしこうした高リターンは、リスクや将来キャッシュフローの質の低下に対する補償ではなく、投資家の嗜好や選好を反映した結果なのです。

著者はまた、炭素排出量削減を意識したポートフォリオの「ESG効率的フロンティア」を示しています。これによると、炭素排出量をベンチマーク比30%まで削減しても、リスク・リターン特性の低下は5%程度にとどまる一方、炭素排出量をベンチマーク比10%まで削減すると、リスク・リターン特性は約15%低下します。この分析は、ポートフォリオにおける炭素強度の削減とリスク・リターン特性との間に、リスクとリターンのトレードオフが存在することを示しています。

さらに本書では、48カ国で取引されている数千銘柄を対象に、7つのESG評価機関のデータを分析した研究も紹介しています。この研究では、市場効率性の原則に基づき、ESGレーティングと株式リターンの間には明確な関係があるとは言い難いと結論づけており、著者もその考えを支持しています(ただし、本書の後半で、財務的に重要なESGファクターが改善している企業に投資することで、ベンチマークを上回るリターンを獲得する可能性がある方法についても論じています)。とはいえ著者は、ESGレーティングが対象企業のリスクについて有益な情報を提供しうるとの主張を支持しています。たとえば、ESGレーティングの高い銘柄が多いポートフォリオは、ESGレーティングが低いという点以外は類似するポートフォリオと比べて、相対的に安全な株式を多く含む傾向があるのです。

本書では、投資ポートフォリオを通じたインパクト創出の具体例として、エンジン・ナンバーワンによるエクソンモービルとのエンゲージメント、グリーンボンド、ネットゼロ・ポートフォリオ構築の3つのケーススタディが紹介されています。なかでもグリーンボンドの事例は、不動産ファイナンス業界に身を置く私にとって、実に興味深い内容でした。ESG志向の投資家はラベル債(グリーンボンド)に対するプレミアム支払いを厭わないため、グリーニアム(greenium)が生じます。グリーニアムは、資金が環境関連プロジェクトに使われる限り、投資家が企業に低コストの資金を提供することを厭わないことを意味します。グリーンボンドが資金調達コストというチャネルを通じてインパクトを生み出すのに対し、エクソンモービルのケースは、株主の経営支配チャンネルを通じてインパクトを創出する事例といえます。

さらに著者は、空売りやコモディティ先物を、ESGインテグレーションの過程におけるツールとして活用する方法についても言及しています。

総じて本書は、実務的で示唆に富む一冊であり、結論の大半は厳密な研究によって裏付けられています。1970年にミルトン・フリードマンが株主第一主義を提唱して以来、米国社会における企業の役割に対する考え方は大きく変化してきました。サステナブル投資の資金流入額は、2023年第4四半期に統計開始から初めてマイナスに転じました。しかし、最も慎重な推計値でみても、今なお少なくとも3兆ドルの資金がサステナブル投資戦略に運用されているのです。

 

(翻訳者: 中山桂、CFA

 

 

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https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/09/20/book-review-the-puzzle-of-sustainable-investment/

 

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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