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CFA協会ブログ

         

No.760


                                                                                                                                           2026年4月16日

市場の現実ではなく、商品の機能としての流動性
Liquidity as a Product Feature, Not a Market Reality

ニラシャ・セナナヤケ、CFA

 

潤沢な流動性(マーケットデプス)を有する市場の時代は終わったのでしょうか。完全にそうというわけではありませんが、そのモデルは変化しています。

流動性はもはや抽象的な概念ではなく、まさに今この現実の中で試されています。プライベート市場が非流動的であること自体は、よく理解されています。問題は、流動性がますます商品レベルで「設計」されるようになったため、ストレス時には実態をともなわない流動性の期待を生み出すことさえあります。

この変化は、微細であり見過ごされがちですが重要なことです。すなわち、流動性が「資産の特性」から、「商品が約束するもの」へと移行しているのです。

 ・これまで実務家は、「この資産はどの程度流動的か」を問いかけてきました。

・しかし今、問うべきことは、「この商品はどのようにして流動的に見せているのか、そしてそれはいつ機能しなくなるのか」なのです。

この状況は、プライベート・クレジット全体における償還圧力にも表れています。より広いエコシステムにもひずみの兆候が見られます。事業開発会社(BDC)が純資産価値(NAV)に対してディスカウント価格で継続的に取引されていて、解約請求に対しては解約申請の制限、上限設定、または遅延が生じています。また、セカンダリー市場ではディスカウント価格で取引が成立しており、さらには出資金に対する分配倍率(DPI)の低下とともに資金調達もスローダウンしています。

これらは個別の一時的混乱ではありません。これらは、流動性がどのように設計され提供されているかという点における変化を反映しています。かつて市場の安定的な特性であると考えられていたものが、今では条件付きのものであり、ストレス下ではますます脆弱であることが明らかになっています。

従来のモデルと新しいモデル

従来、流動性は資産クラスに内在する特性であり、3つの重要な要因によって決まっていました。すなわち、参加者層の厚みと多様性、取引頻度、そして価格発見の透明性です。これらの要素が、ビッド・アスク・スプレッド、約定の速さ、そして市場への参入や退出のしやすさを決定していました。

ポートフォリオ運用においては、上場株式はスプレッドが狭く継続的に取引されるため非常に流動性が高く、プライベート・エクイティは本質的に非流動的であります。一方で国債は通常は流動性が高いものの、一定の状況下ではストレスの影響下では脆弱であることが明確でした。

この従来のモデルは、もはや時代遅れになっています。今日では、流動性はもはや市場参加者の相互的な作用から生まれた特徴ではなく、商品開発者が意図的に作り出す設計上の選択となっています。現代の金融商品は、金融工学や革新的な仕組みを活用し、本来であれば非流動的である資産の中にも、あたかも流動性があるかのような印象を作り出しています。しかし、この流動性は条件付きのものです。安定した市場環境ではうまく機能しますが、ストレス時にはその流動性が現実のものとならないことがあります

設計されたファンド

インターバル・ファンド、エバーグリーン型のプライベート市場ビークル、そしてセミリキッド型のクレジット商品は、インフラ資産やプライベート・エクイティ持分のような本質的に非流動的な資産を保有しているにもかかわらず、現在では定期的な償還の機会を提供しています。

エバーグリーン・ファンドは通常、プライベート・エクイティ(バイアウトや成長企業)、プライベート・クレジット、そしてインフラに投資します。これらは、実現的なキャッシュフローを複数年かけて要する資産であり、流動的なセカンダリー市場が存在しない資産です。このような長期かつ非流動的な性質を持つ資産であるにもかかわらず、これらのファンドでは継続的な募集と定期的な償還が可能となっています。

同様に、インターバル・ファンドは資産担保型ローンや商業用不動産に投資していますが、四半期ごとの償還機会を提供しています。同じ傾向は、セミリキッド・ファンドにも見られます。

 

どのようにして流動性が商品の特性になったのか

 この流動性構造の変化を促している主な力は、3つあります。

 ・テクノロジーと自動化:デジタル化された取引口座開設、申込みおよび解約の自動化されたワークフロー、そして24時間/365日稼働する販売チャネルによって、手続上の障壁が低くなりプロセスのスピードが向上しています。かつては時間がかかり、属人的なプロセスが、今では大規模に展開され、繰り返し実行できるようになっています。投資家の需要を迅速に集約することによって、資金の流入と流出はセカンダリー市場での売買ではなくファンド内部の運営で管理されるため、商品はより流動的であるかのように見えるようになります。

 ・金融工学とファンド・ストラクチャリング:ファンドの条件は、特定の流動性プロファイルを作り出すように設計されることが増えており、毎月または四半期ごとの買戻し機会、償還通知期間、解約制限、ロックアップ、サイドポケット、スイング・プライシング、現物による償還といった仕組みが提供されています。これらの仕組みによって、本来は非流動的な資産が、より流動的であるかのように見えるようになります。

 ・販売チャネルとプラットフォーム経済:プライベート市場がより広い富裕層チャネルへ拡大する中で、流動性の高い商品に似た性質が求められる圧力が高まっています。ウェルス・マネジメント・プラットフォームやモデル・ポートフォリオは、よりスムーズな資金の出し入れのしやすさを優先して、商品の透明性よりも販売のしやすさを選好することがあります。その結果、裏付資産が構造的に非流動的なままであっても、「流動的に見える」商品が販売されるようになります。

これらの力が組み合わさることで、より流動的に見える商品が作られますが、市場がストレス下に置かれたときの本質的な流動性リスクは、必ずしも解決しているわけではありません。

 

買い手の自己責任(Caveat Emptor

ここで重大なリスクが生じます。市場は順調に機能しているように見えても、突然そうでなくなることがあります。流動性は平常時には機能しますが、ストレス時には消えてしまう可能性があります。市場が混乱すると、解約申請が連鎖的に集中して資金流出が発生し、ビッド・アスク・スプレッドは拡大し、買い手は市場から退きます。セカンダリー市場で取引が成立するとしても、それはしばしば大幅なディスカウントを伴います。

この瞬間に、「流動的」として販売されていたものが、実際には「条件付きで流動的」であったことが明らかになります。本質的な問題は、資金流動性(持分を償還できること)と市場流動性(価格に大きな影響を与えずに裏付資産を売却できること)とのミスマッチにあります。

従来の市場では、これら2種類の流動性は一致する傾向がありました。なぜなら、資産は迅速な価格発見のもとで継続的に売却することができたからです。しかし、エバーグリーン商品やセミリキッド商品では、商品が約束する流動性が、裏付資産が実際に提供できる流動性を上回ってしまうことがあります。

これは必ずしも運用の失敗を意味するものではなく、むしろ、その資産クラスが本来支えられる以上に手厚い流動性機能を提供した結果として、予測可能な帰結なのです。

 

アロケーターのための指針

現在、多くのアロケーターは、商品レベルで提供される流動性を、そのまま額面どおりに受け取っています。償還機会、四半期ごとの流動性、そしてスムーズなNAVは、金融サイクルに依存する結果ではなく、安定した特性であるかのように扱われることがよくあります。しかし、その前提は、資金流動性と市場流動性が乖離するストレス時には崩れてしまいます。

したがって、アロケーターおよびアナリストは、以下のような観点でデューデリジェンスを行う必要があります。

 ・流動性は契約上保証されたものではなく、条件付きのものとして捉えること。

・償還条件については、裏付資産の実際の流動性に照らしてストレステストを行うこと(信用リスクの引受と同じ考え方)。

・報告されるNAVではなく、実現可能な価値に注目すること。

・償還上限、解約申請の制限、通知期間、現物による分配、そして流動性の乏しい市場における評価実務といった仕組みを精査すること。

・その流動性が資産によって裏付けされているのか、それともストラクチャーや資金フローによって作り出されているのかを確認すること。

・ストレス時には流動性が急速に低下し、価格が急に変動し、最も必要なときに資金へのアクセスが制限されることを前提として考えること。

そのうえで、ファンドの構造そのものを厳しく検証します。

1.償還請求が急増する一方で回収が滞った場合、何が起こるのか。

2. 解約制限、償還上限、または現物分配は、どのような条件で発動するのか。

3. 現時点で流動性を確保するためには、NAVに対してどの程度のディスカウントが必要となるのか。

4. ストレス時における流動性確保のコストは、残る投資家と解約して退出する投資家のどちらが負担するのか。

  

作られた流動性の限界

流動性は設計によって作り出すことはできますが、本質的に非流動的な資産を、本当に流動的なものに変えることはできません。アロケーターにとって、その意味するところは明確です。流動性は額面どおりに受け入れるべき特性ではなく、評価すべきリスクなのです。流動性がどのように設計されているかを理解することは、今やリターンを評価することと同じくらい重要になっています。

 

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 執筆者

Nirasha Senanayake , CFA

(翻訳者:荒木 謙一、CFA

英文オリジナル記事はこちら

https://rpc.cfainstitute.org/blogs/enterprising-investor/2026/liquidity-product-feature-not-reality

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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