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CFA協会ブログ

         

No.761


                                                                                                                                           2026年5月1日

書評:ストリートワイズ:ゴールドマン・サックスへの道とそこで生き抜く方法
Book Review: Streetwise: Getting to and Through Goldman Sachs

エルファン・サーディギ、PhDCFA

 

 「人生とは、別の計画を立てている間に起こる出来事である。」この言葉は、ロイド・ブランクファイン(Lloyd Blankfein)氏のゴールドマン・サックスでのキャリアを如実に表している。彼はゴールドマン・サックスの経営者になることを初めから志していたわけではないが、次期CEO候補と目されていた人々がその座を射止めることはなかった。彼は正式な採用プロセスを経ることなくゴールドマンに入社しそのキャリアをスタートさせた。国境を越えた取引と金融イノベーションが急速に拡大していた時期に、彼はトレーディング部門で着実に昇進を重ねた。そして2006年にCEOに就任したのは、前任者のハンク・ポールソン(Hank Paulson)氏が米国財務長官に就任しCEOの職を辞したからに過ぎない。その2年後、同時代人にとって最悪の金融危機が彼のCEO在任期間を決定づけることになった。野心的な国内施策がベトナム戦争によって頓挫したリンドン・ジョンソン(Lyndon Johnson)大統領との類似点を、ブランクファイン氏自身も指摘している。『ストリートワイズ』は、そんな異例の道のりの結晶である。ブルックリンの公営アパート出身の少年がウォール街の頂点に上り詰めた回顧録であると同時に、リーダーシップ、企業文化、リスクに関する実践的な手引書でもある。金融の専門家にとって、本書は実践的な教訓に満ちている。
 
 『ストリートワイズ(Streetwise)』がその中心に据えているのは、文化こそが究極の競争優位性であるという考えである。ブランクファイン氏は、優れた文化の中では、どんな立場にいたとしても何でも成し遂げられるはずであると考えていた。ゴールドマン・サックスでは、この考え方がパートナーシップ精神という形で現れ、1999年の同社株式の上場後もその精神は受け継がれた。意思決定は意図的に何度も議論を重ねて行われ、CEOは相反する意見に耳を傾け、命令ではなく説得によって合意形成を図る必要があった。ゴールドマンが「成果主義」の報酬モデルを採用することはなかった。同社社員は部門損益の一定割合を報酬として受け取るのではなく、会社全体の利益にならない取引であれば、幹部職にある者はその取引を止めることができた。マクロの経済状況が悪化した場合でも、同社の幹部職員は自らがコントロールできない要因を理由にマイナス評価を受けることはなかった。この「私たち」という文化が基礎となり、競合他社を倒産に追いやった危機でも、ゴールドマンはこれを乗り越えることができた。同社はアドバイザー、資金調達者、投資家という3つの補完的な役割を担い、ブランクファイン氏が述べるように、相互に強化し合うビジネスの好循環を生み出した。
 
ブランクファイン氏の人的マネジメントに関する省察は、本書の中でも特に実践的な章の一つである。彼は昇進したパートナーの一人ひとりに自ら電話をかけ、各々の個人的な事柄に触れることを心がけた。これは、経営陣が社員を大切に思っていることを示す姿勢を意味していた。CEO在任中、ブランクファイン氏は大学のプログラムをモデルにしたアルムナイ(同窓会)事務局を設立し、元社員との良好な関係を築き、彼らを会社のネットワーク資産とした。その退職が競合他社を利することになっても、退職する社員は丁重に扱われた。若手社員に対する彼の姿勢もまた同様に注目に値する。若手とは劣った社員なのではなく、単に経験が浅いだけであり、当時の若手はその上司が若い頃よりも優れた経歴をもっていた。競合他社に負けない給与を支払うことは必要だが、それだけでは十分ではない。人は尊敬と成長の機会も必要とする。本書の中で最も印象的なくだりのひとつとして、「彼は友人を昇進させたのではなく、昇進に値する人々と友人になった。」という箇所があるが、これは彼の哲学を的確に表している。
 
本書がポートフォリオマネージャーやリスク管理の専門家にとって最も意義深いのは、リスク管理に関する記述である。ブランクファイン氏は率直に、リスク管理は予測作業ではなく、緊急時対応計画の規律付けであると述べている。同社の目標は、幅広いシナリオを想定し、そうしたシナリオに迅速に対応できるよう準備することで、実際には周到に準備していただけなのに、これを見た人には事態を予見していたかのように思わせることであった。ポートフォリオマネージャーとリスクマネージャーの間で意見の相違が生じたときには、彼はリスクマネージャーの側に立つのが常であった。彼は危機の真のコストについて率直に語っている。それは、直接的な損失だけでなく、その後、リスク回避傾向に陥ることであり、そうなれば、苦境下で生み出されたチャンスを掴めなくなってしまう。これとは反対の方向に人間の本性は働くとしても、危機直後こそ、リスクを取るのには最適なタイミングであると彼は述べている。景気後退を予見していたと後付けで言い張る人々には、彼は「もしあなたが優秀で起こったことを予測できるのならば、次に何が起こるか、教えてもらえますか。」と相手の勢いをそぐように切り返した。
 
危機管理に関する章は、財務的な仕組みにとどまらない。ブランクファイン氏が強調するのは、ストレスの高い状況における経験豊富な取締役陣――短期的な混乱に翻弄されることなく、長期的な組織の健全性に注意を向けられる、肝の据わった取締役――の重要性である。コミュニケーションは主体的に取るべきである。悪い情報を隠せば事態は悪化するだけである。彼は、プールで何度も泳いだり、自分自身に言い聞かせる言葉を繰り返したりすることで、自身の冷静さを保っていたと率直に語っている。状況が最悪の時には「選択肢がないならそれでよい」というフレーズを口にする。より重要なのは、レジリエンスは単に特性なのではなく、リーダーたる者の義務であるという点である。米国では、レジリエンスは、苦労なく得た成功よりも高く評価される。スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏は、アップルを解雇されて復帰していなければ、あのスティーブ・ジョブズにはなれなかっただろう。シティグループを追われた後、JPモルガンでキャリアを再開したジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)氏についても同じことが言える。危機からうまく抜け出せればその後に成功を手にすることができる、とブランクファイン氏は述べている。
 
ブランクファイン氏は回顧録の中で、知的謙虚さを基礎としたリーダーシップスタイルを提示している。ゴールドマン・サックスの元CEO、ハンク・ポールソン氏はいつも状況を理解することに熱心な素晴らしい聞き手だったというのが、ブランクファイン氏のポールソン氏に対する評価である。ブランクファイン氏自身も同様のアプローチを採り、問題に最も近い立場にある人々に、まず解決策を提案するよう促した。彼は、問題点を明らかにするため、マネージャーたちと毎週月曜に会議を開き、日々の損益計算書の変動について同僚に直接電話をかけるなど、ビジネスを詳細に理解する実践を重ねた。彼は、間違いと愚かさを混同しないよう警告している。重要なのは、その時点で何が分かっていたか、あるいは何が分かり得たかということであり、決定の結果ではない。そして、若手へのアドバイスとして、歴史を読むことを勧めている。長期構造的・景気循環的なパターンを認識することで、目先のことに囚われて判断力が低下することを防ぐことができるからである。
 
『ストリートワイズ』は、ありきたりなウォール街の暴露本ではない。世界で最も影響力のある金融機関の一つが、内部からどのように運営されていたかを、率直かつ時に皮肉を交えながらユーモラスに描いた著作だ。有益な洞察が驚くほど高い密度で詰まっている。ブランクファイン氏は、癌と診断され自分の優先順位が明確になったと、個人的なエピソードに触れ締めくくっている。彼は同僚から聞いた格言を回想する。「冷たい手よりも温かい手で与える方が良い」。組織文化、リスク管理、人的管理が最高レベルで実際にどのように機能しているかを、当事者の視点から理解したい金融の専門家、ポートフォリオマネージャーにとって、本書はその読書時間に十分見合う一冊である。

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執筆者

Erfan Sadeghi, PhD, CFA

(翻訳者:瀧澤 創、CFA

英文オリジナル記事はこちら

https://rpc.cfainstitute.org/blogs/enterprising-investor/2026/streetwise-getting-to-through-goldman-sachs

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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