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CFA協会ブログ

         

No.768


                                                                                                                                           2026年6月19日

プライベートクレジットストレス: システミック危機ではなく、集中リスク
マーク・J・ヒギンズ, CFAのプライベートマーケットリスクへの回答
Private Credit Stress: Concentrated Risk, Not Systemic Crisis
A Response to Mark J. Higgins, CFA, on Private Market Risk

アルフォンソ・リッカーデリ, CFA

 

最近の一部のプライベートクレジットにおける解約制限とストレスを受けて、プライベートマーケット全体に及ぶ大規模な調整局面が到来するとの警告が出ています。しかし、これらの懸念を引き起こす事象の多くは、私の見方では、プライベートクレジットの中でも特定のニッチな分野、すなわち米国のミドルマーケットのソフトウェア企業へのスポンサー支援型のダイレクトレンディングと関係しています。

 

昨年、マーク・J・ヒギンズ, CFAは『Enterprising Investor』で、プライベートクレジットをバブルとは呼ばなかったものの、深刻な「危険信号」を示していると議論しました。更に最近では、解約制限とマーケットストレスがプライベートマーケットでは「楽しい時間は終わった」ことを示唆していると提言しています。私はその見方には反対します。ダイレクトレンディングの一部分が明らかにプレッシャー下にある一方、私は現在の状況がプライベートマーケット全体のシステミック危機に匹敵するとは思いません。

 

ヒギンズの先の議論は、大手銀行がまだ積極的にダイレクトレンディングに戻っていないので、プライベートクレジットはまだ完全なバブル領域に入っていないという前提に基づいています。直近の彼の議論では、彼は解約制限、マーケットボラティリティ、そして一部のSaaSセクターのストレスを根拠として、プライベートマーケットがすでに転換点を迎え、広範な巻き戻しが進行している状況に変わったと述べています。

 

最近の市場動向はもっと複雑な状況を示しています。直近のプライベートクレジットをめぐる懸念が広がった後の数週間においても、いくつかの大手プライベートマーケット企業は資本市場へのアクセスを継続し債券発行を成功させており、その中には力強い需要を集めた投資適格企業も含まれます。

 

Pimcoは大手プライベートクレジットのBDCが発行した4億ドルの債券を額面価格(パー)で全額引き受け、その裏付けとなるローンポートフォリオは完全に健全であると評価しました。また、ある大手銀行のプライベートクレジット部門は、投資適格債券として7.5億ドルを発行し、そのスプレッドは初期条件提示時よりタイト化しました。さらに、別の主要プライベートクレジットファンドによる債券発行では募集額の5倍の応募が集まりました。

 

そしてこれはプライベートクレジットのみの話なのです。プライベートエクイティでは、SpaceX1.5-1.75兆ドルの企業評価額を目標として秘密裏にS-1(新規株式公開登録届出書)を提出したとされています。また、ある投資家が100億ドル相当のSpaceX株式1.25兆ドルの企業評価総額時点で直近売却しました。それに加えてOpenAIは今年か来年に株式を公開すべく準備を進めていると噂されています。

 

もちろん、それは上場市場のパフォーマンスが不振であることを意味していません。そもそも、なぜ不振でないといけないのでしょうか。S&P 500は最高値で4月を終え、2026年第一四半期の収益は前年同期比27.1%増という2021年第四半期以来の成長率を示し、決算を発表した企業の84%がEPSの市場予想を上回りました。

 

マグニフィセント・セブンは、アナリスト予想の3倍である61%の利益成長率を達成しました。AMDのデータセンター事業の売上は57%増加しました。サムスンの時価総額は、アジア企業としてはTSMCに続いて2社目に1兆ドルに達し、韓国総合株価指数(KOSPI)を最高値に押し上げました。日経225は、年初から20%以上上昇しており、MSCIアジアパシフィック指数は一か月でおおよそ11%上昇しました。またナスダック指数は1992年以来の最長連騰記録を達成しました。

 

プライベートクレジットに戻り話をまとめると、上場しているハイパースケーラーは2026年に、前年を77%上回る7250億ドルのAIインフラ投資にコミットしています。これはプライベートインフラストラクチャーの株式、債券両方にとって恩恵となり得ます。

 

念の為に言うと、これはプライベートマーケットとパブリックマーケットを対立させるものでは決してありません。ほとんどの投資家にとって、プライベートマーケット投資のみに配分するポートフォリオを保有することはお勧めできません。そして高額な手数料とはいえ、リテール投資家がプロのマネージャーを通じてアクティブ商品を検討すべきでないという理由もありません。重要なのは、どの程度のアクティブ対パッシブのエクスポージャー比率が投資家に適しているかであり、その判断は投資教育やリスク許容度の問題でもあります。

 

また、プライベートクレジット、特にダイレクトレンディングがストレス下にあることも否定できません。問題のあるPIK(ローンの期中に追加されるペイメント・イン・カインド(繰延利息))が増加している可能性があります。これは真のストレス指標です。一部のリテール投資家の資金は流出しています。ゴールドマンサックスは、2年間でウェルスチャネルの資金が450700億ドル流出すると見積もっています。

 

スポンサー支援を受けたソフトウェア企業に対するダイレクトレンディングが過去10年間の勝ち筋でしたが、AIディスラプションが当該セクターの一部の長期成長前提に疑問を投げかけたため、このビジネスモデルにプレッシャーがかかっています。しかし、このセクターを除けば、プライベートクレジットはより広くの領域に広がっています。たとえば、ストラクチャードクレジット、アセットバックファイナンス、航空機やインフラを担保とする実物資産向けレンディング、転換社債などです。

 

ヨーロッパそして今アジアでは、リスク回避的なバンキングシステムと過剰規制による明らかな資金供給不足の中、より多くの資本が流入しています。一つのセクターへの集中度を5%以下に抑えて適切に構築されたマルチストラテジーポートフォリオであれば、AIセクターへの増加などの構造的なシフトがあっても影響は限定的です。

 

更に一般的にいうと、解約制限付で準流動性のリテールビークルの問題からプライベートマーケット全体の崩壊を予想すれば、よく知られた認知バイアスに陥ることになります。地政学ショックと投資家の意思決定の研究によれば、アナリストと投資家はともに、より数多く存在し、かつ発生確率の高い平凡な結果よりも、最もドラマチックな歴史的事例を引き合いに出す傾向があります(1907年の信託会社パニックやグローバル金融危機)

 

世界金融危機(GFC)との比較は、構造的な観点から見ても成り立ちません。2007-2009年の危機はファンディングミスマッチが引き起こした大惨事でした。翌日物のアセットバックコマーシャルペーパーによって流動性の低いモーゲージ資産の資金調達をし、30から40倍のレバレッジをかけて、透明性が欠如していました。今日のプライベートクレジットは優先担保付の変動利率貸出で、1から1.25倍のレバレッジをBDCレベルでかけています。四半期ごとの解約制限が設けられており、これが最後の貸し手として機能します。

 

更に、解約制限は欠陥ではなく、プライベートマーケットに組み込まれた仕組みです。解約制限はシステム全体の欠陥の証拠ではなく、設計された通りに機能し、最も悪い局面での強制売却を防いでいます。長期投資家はプレミアムと引き換えにこの非流動性を意図的に受け入れています。

 

プライベートクレジットは一つのセグメントへの集中問題、一つのプロダクトタイプの一時的な解約対応上の課題、そして一つのディストリビューションチャネル(リテール投資家)の投資家心理問題を抱えています。システミックソルベンシー問題やファンディングミスマッチ危機を抱えているわけではありません。Preqin202511月の調査81%のリミテッド・パートナーがプライベートクレジットへのコミットメントを維持するもしくは増やす意向であることを明らかにしました。このアセットクラスは2030年までに4.5兆ドルに達する見通しです。

 

プライベートマーケットは標準化されておらず、リスク・リターンを左右する要因も案件ごとに異なります。また、マネージャー選定とアンダーライティングスキルがより重要となります。プライベートマーケットは単一のアセットクラスでなく、投資ユニバースであるため、投資対象同士が高い相関関係を持つわけではありません。

 

問題は、プライベートマーケットが比較的最近になって一般的な議論の対象となったこともあり、その複雑さに見合った議論がまだ十分に追いついていないのです。金融ジャーナリストの多くは、不十分な知識とパブリックマーケットのマインドセットで、単純に当てはまらない馴染みのあるフレームワークを当てはめようとします。ボラティリティ、流動性、そして日次のプライシングはプライベートマーケットではおおよそ的外れですが、標準的な評価基準となったままです。

 

実践者にも責任の一端があります:業界は長年にわたり、本来はわかりやすい概念を、周りを疎外するような専門用語で包み込み、内輪で話をしてきました。

 

このミスマッチの結果、リテール投資家は断片的なストーリーやセンセーショナルなヘッドラインに圧倒され、投資機会を評価する準備が整っていないまま放置されています。プロの投資家は、事実関係を修正するインセンティブがほとんどありません。そして「楽しい時間は終わった」や「バブルは破裂している」といったパニック状態のヘッドラインは現実を照らすのではなく、不安を煽る効果の方がはるかに大きいです。その結果、本来であればプライベートマーケットから最も恩恵を受けられるかもしれない投資家が、様子見状態になっているのです。

 

アルフォンソ・リッチャルデッリ(CFA)は、CFA協会研究財団(CFA Institute Research Foundation)が刊行した『An Introduction to Alternative Creditオルタナティブ・クレジット入門)』の共同編集者です。

 

(翻訳者:古賀紗希、CFA

 

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Private Credit Stress: Concentrated Risk, Not Systemic Crisis

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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