セバスチャン・カンデール
2025年6月30日時点で、プライベート市場全体において4.6兆ドルを超える資金がコミットされながら未投資のままとなっています[1]。そのためファンドマネージャーは、デューデリジェンスにおける規律を維持しつつ資金を投下するよう、ますます強い圧力に直面しています。とりわけ、バイアウトおよびグロース・キャピタルの領域では競争が激化しており、約2兆ドルのドライパウダー(待機資金)が、限られた適切な投資対象を追い求めている状況にあります。
プライベート・エクイティ(PE)のパフォーマンスの大部分は、レバレッジの機械的な効果によってもたらされます[2]。その一方で、経験豊富なファンドマネージャーは、投資判断においては選別眼こそが報われることを知り抜いています。
着実な歩みが勝利をもたらす
成功確率の高いレバレッジド・バイアウト(LBO)には共通する特徴があります。それは、反復的な収益と予測可能なキャッシュフローです。
負債を抱えた企業は、複利で積み上がる利息負担に長期間さらされ、最終的には借入金の返済を求められます。そのため、安定的にキャッシュフローを生み出し続ける必要があります。事業は多額の設備投資(CAPEX)や運転資本の需要に直面しないことが望ましいですが、このような流動性の安定性を確保する最良の方法は、利益およびキャッシュフローの変動性が小さいビジネスモデルを採用することです。
一例として、ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)は、単なるソフトウェアやハードウェアの提供よりも優れていると言われています。その理由は、SaaSプロバイダーが、一度限りの製品販売ではなく、継続的にソリューションを提供することにあります。同様に、Appleのようなスマートフォンメーカーは、単なるハードウェアおよびソフトウェアの設計企業にとどまりません。同社はアプリケーション・プラットフォームを提供し、それがアプリ開発者を引き付けることで、最終ユーザーは自社サービスから簡単には離脱しないのです。スマートフォンの利用者が複数のアプリをダウンロードすると、それらのアプリはクラウド上に保持され、端末を乗り換えても引き継ぐことが可能となります。
アプリ開発者が独立した存在であり、多くの場合は個人事業主として活動しているという事実も、アプリ・プラットフォーム側から見たこの収益モデルのリスクを低減させています。アプリはヒットの偏在性が高く、ごく一部のみが成功するという「ブロックバスター型(訳注:一握りのヒット作に収益が偏在する構造)」の特性を持ちます。仮にAppleがすべてのアプリを内製していた場合、その多くが限定的な需要しか生まないことにより収益は不安定になるでしょう。その一方で、開発者の給与は固定費として発生することになります。要するに、スティッキーな収益構造と変動費(あるいは外注化されたコスト)を備えたビジネスは、LBOの対象として極めて適しているといえます。
価値の源泉は、もはや一度限りの製品販売にはなく、継続的なプラットフォームへのアクセスに移行しています。この「製品」から「ソリューション」への転換は、1980年代にGEがジャック・ウェルチのリーダーシップの下で導入したビジネスモデルを反映しています。冷蔵庫や航空機エンジンの提供にとどまらず、同社は追加機能オプション、アクセサリー、メンテナンス、さらには金融サービスまで提供するようになりました。こうした包括的かつ統合的なソリューションを提示することで、顧客のスイッチング・コストが上昇し、その結果としてキャッシュフローの予測可能性が高まるのです。
サブスクリプション型やフィー型の収益モデル、すなわちファンドマネージャーが採用するようなモデルは、ビデオゲームや映画のようなブロックバスター型プロジェクトと比べて優れています。なぜなら、収益の予測可能性が高いためです。
同様に、インストールベース(既存顧客基盤)を有するビジネスは、より高い予測可能性をもたらします。よく引き合いに出される例が、ジレットの「カミソリと替刃」モデルです。このモデルでは顧客の継続利用を確保する仕組みが特徴です。また、Facebookのようなソーシャルネットワークや、Googleのような検索エンジンも、大規模なネットワーク効果の恩恵を受けています。これはインストールベースの原理を現代的に拡張したものと言えます。
さらに、予測可能で安定的なキャッシュフローが持つもう一つの利点は、貸し手を引き付ける点にあります。通常、ローン契約では、貸し手が享受できる上方の利益は限定的である一方、下方リスクへのエクスポージャーは大きいためです。
不完全な市場構造
高い参入障壁を伴う支配的な市場地位を有している企業こそが、最良のLBO対象企業となります。独占的・寡占的な市場地位は高収益性につながりやすいのです[3]。また、新技術や新規参入者、あるいは代替品によるディスラプションのリスクにさらされていないことも重要です。以下に、いくつかの実務的な示唆を挙げます。
顧客および供給者基盤の分散性:キャッシュフローを保全する一つの方法は、多数の供給者および顧客と取引することです。逆に、特定の一社、あるいはごく少数の主要なサービス提供者や顧客に依存している場合はリスクが高くなります。例えば、世界金融危機後において、TPGがスポンサーとなった放送事業者のユニビジョンは、主要なコンテンツ供給者であるテレビサへの依存度が高く、契約再交渉の局面で業績に悪影響を受けました。このように調達または販売が特定先に集中している企業を、LBOの対象とするにはリスクが過大であるといえます。
景気循環性か非循環性か:景気循環の影響を強く受ける企業も、レバレッジを活用する対象としては信頼できる資産とはいえません。小売業、とりわけファッション小売のような分野や、投資銀行、航空輸送、商品取引、広告依存型ビジネスといった取引量依存型の産業は、基本的に回避すべきです。
投資の世界には「景気後退に強い(Recession Proof)」という危ういほど楽観的な表現が存在しますが、景気後退の悪影響を完全に免れる企業は存在しません。とりわけ過剰にレバレッジをかけている企業において、その影響は一層深刻なものとなります。
もっとも、サブスクリプション型モデルや、プライベート・エクイティ・ファンドが多く投資対象とする食品・飲料製造業、さらに空港運営や有料道路事業者のように長期契約に基づいて事業を展開する企業は、相対的に耐性が高いといえます。
大衆文化型かテクノロジー文化型か:長年にわたり、景気後退に起因する企業再生案件を除けば、LBOファンドの運用者は、ほぼ専らバリュー投資、すなわち製品ライフサイクルが長く、売上やキャッシュフローが安定的ではあるものの、際立った成長が見込みにくいセクターや企業に注力してきました。こうしたビジネスは、業績が大きく変動することが稀でした。
しかし、過去30年にわたり、まず企業間取引(BtoB)領域で始まり、その後消費者向け市場へと浸透してきたテクノロジー革命は、多くの産業構造を変化させました。従来であれば、数年あるいは数十年単位の製品ライフサイクルに基づいて、大衆文化の動向に適応すれば十分でした。しかし現在では、そうした企業もよりダイナミックで、ブームと失速を繰り返す流行志向の市場に直面しています。情報から小売、エンターテインメントからレジャーに至るまで、経済の広範な領域におけるデジタル化は、製品の更新サイクルを1年程度へと短縮し、場合によっては一部の流行性の高いビデオゲームにおいては数四半期にまで短縮させました。このような技術的ディスラプションは、負債の返済に必要な予測可能性を確保しようとする企業にとって、深刻な影響をもたらす可能性があります[4]。
PEファンドの運用者は、テクノロジーの変化にさらされている、あるいは今後さらされる可能性の高いセクターへの投資を控える必要があります。信頼できるLBO対象企業とは、大規模な戦略転換や抜本的な構造改革を必要としない企業です。
最適な事業基盤
市場支配力や、債務返済を賄うためのキャッシュフローの予測可能性に加えて、最も望ましいLBO対象は、成熟し、持続可能で、単独で完結した事業体です。
さらに、資産と人材に関して言及すべき2つの観点があります。
資産効率:資産集約型のビジネスにおいて、ファンドマネージャーが答えるべき重要な問いは、「いかにして既存資産からより多くの価値を引き出すか」です。資産集約度、すなわち売上高に対する資産の比率が高い場合、収益性の足かせとなり得ます。
プライベート・エクイティ(PE)ファンドの運用者は、従来は担保として活用できる担保未設定の資産を有する企業を求めていましたが、近年ではポートフォリオ企業のアセットライト化を進めることに積極的です。資産集約型のビジネスは、陳腐化した設備の更新や入替のために継続的な投資を必要とするためです。
ブラックストーンによるヒルトンの買収事例は、ホテルグループのような従来型の不動産運営企業にとって、運営契約(マネジメント契約)が、キャッシュフローを圧迫する設備投資を伴うことなく自己資本利益率を最大化する手段となり得ることを示しました。そこで温存されたキャッシュフローは、負債の返済や配当の支払いといった用途により有効に活用できます。さらに、景気循環への依存度を低減する目的もあり、ヒルトンは資産保有型モデルからフィー収入型モデルへと転換し、資産価値の変動に対する感応度を低下させました。
アセットライト戦略の危険性は、事業が行き詰まった際に、不動産や設備の売却によって緊急的に流動性を確保する手段を持たない点にあります。
2001年に会計不正が発覚した際、エンロンはこれに対処することができませんでした。同社の経営陣は長年にわたり、資産ベースのガスパイプライン事業者から、資産をほとんど保有しないトレーディング・プラットフォームへと事業構造を変化させていました。負債が簿価の3倍に達する状況の下、エンロンには他に選択肢がなく、最終的に米連邦破産法第11章の適用を申請するに至りました。
会計面でそこまで極端な手法を用いない場合であっても、高度にレバレッジをかけた企業が、アセットライト型モデルを採用していると、景気後退や市場のディスラプションに直面した際の対応が困難となり得ます。
人材依存型ビジネス:従来、広告業のような分野は、創造性に依存する人材に依拠しており、その成果が不安定であることから、LBOの対象としては適していませんでした。しかし現在では広告の自動化が進み、FacebookやGoogleのような広告プラットフォームは極めて魅力的な対象となっています。もっとも、創業者が金融工学的手法に価値を見出すかどうかが前提となります。現時点では、これらの企業は製品およびサービスのイノベーションによる成長に注力していますが、その状況が将来的に変化する可能性もあります。
レコード会社のEMIミュージックは、2007年から2011年にかけて失敗に終わったバイアウトの過程で、アーティストやレパートリー担当者に依存する録音事業部門が、レバレッジ取引には不向きなほど変動性が高いことを示しました。一方で、出版カタログ事業はより安定的であり、証券化の対象として適していました。これは、2009年にKKRがドイツのメディア企業であるベルテルスマンとの合弁であるBMGライツに投資した事例が示しています。よりリスクの低いバイアウトを志向するのであれば、人的資本に強く依存するビジネスは回避するのが望ましいといえます。
現在のLBO環境
激しい競争の影響により、LBOの対象企業の属性は、1970年代にこの手法が登場して以来、大きく変化しています。当時の主な対象は、コングロマリットの非中核事業(カーブアウト)、経営難に陥り資金を緊急に必要としている企業、事業承継問題を抱えるファミリービジネス、あるいは大型買収の過程で不要とされた部門などでした。
現在では、こうしたタイプの対象がディール全体に占める割合としてはごくわずかに過ぎません。市場の飽和により、年間ディールの約半数はセカンダリー・バイアウト、すなわちスポンサー間取引となっています[5]。また、公的市場も重要な案件供給源となっており、典型的な年では、上場廃止(テイク・プライベート)がディールフローの10%から20%を占めます。
もちろん、すべてのファンドマネージャーは、これまで述べてきた特性をできる限り多く備えたLBO対象を求めますが、過熱した市場環境において規律を維持することは容易ではありません。記録的なドライパウダーの蓄積は、記録的なディール評価額をもたらしており、直近5年間のうち4年間で、エントリー・マルチプルは過去最高水準に達しています[6]。現在のPE市場環境では、買い手よりも売り手に有利な局面と言えます。
本稿の一部は、セバスチャン・カンデールによる『The Good, the Bad and the Ugly of Private-Equity』(プライベート・エクイティの光と影)を基に加筆・修正しています。
[1] https://pitchbook.com/news/articles/global-private-market-funds-dry-powder-dashboard-2026
[2] https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/10/21/tricks-of-the-private-equity-trade-part-2-leverage/
[3] https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/08/14/debunking-the-myth-of-perfect-competition/
[4] https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/05/16/distress-investing-a-tale-of-two-case-studies/
[5] https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/02/09/private-equity-market-saturation-spawns-runaway-dealmaking/
[6] https://pitchbook.com/news/reports/2025-annual-us-pe-breakdown
この投稿が気に入られたらEnterprising Investorのご購読をお願い致します。
(翻訳者:河野俊明、CFA、CAIA、CPA)
英文オリジナル記事はこちら
https://rpc.cfainstitute.org/blogs/enterprising-investor/2026/what-makes-an-ideal-leveraged-buyout-candidate
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。