セバスチャン・カンデール
技術的な複雑さと要求水準がますます高まる環境の中[1]、プライベート・エクイティ(PE)の実務家は、投資家の期待に応えるためにベストプラクティスに基づく高度な投資運営が求められています。
本稿では、PE投資を成功に導くための5つの重要な要素として、経営陣の選定、デュー・デリジェンスの実行、エグジット戦略の検討、バイ・アンド・ビルド戦略(訳注:追加の買収による成長を目指す戦略)、そして金融イノベーションを取り上げます。
実務家にとって、本稿で取り上げる内容は、投資リターンの創出、ダウンサイド・リスクの抑制、そして案件の発掘からエグジットに至る投資ライフサイクル全体にわたる意思決定の質に直結するものです。レバレッジはリターンを高める一方で損失も拡大させるため、また実行リスクが失敗の余地をほとんど残さないため、パフォーマンスの低下を避け投下資本を保全するためには、規律ある投資プロセスの実践が不可欠です。
すべては経営陣次第
PEオーナーは、ポートフォリオ企業に対して、ときに大規模な人員削減を含む容赦ない事業再編を断行するため、「資産の切り売り屋(アセット・ストリッパー)」との悪評を受けてきました。
人員削減の波は経営幹部にも及びます。公開されているデータは限られていますが、PEファンド傘下の投資先企業を率いる経営陣の3分の2から4分の3は、保有期間中に見直し(幹部の1人または複数名の交代)が行われると推計されています。
最大の課題は、レバレッジを活用した資本構成の下で、失敗を許容する余地がほとんどない状況に対応しながら事業計画を遂行できる、最適な経営チームを見極めることです。
実際、経営幹部(C-suite)の陣容が十分でない場合、高いレバレッジを抱えた資本構成を持つ企業では事業計画の実行リスクが大幅に高まります。急成長企業であれば、イノベーションを加速し、新たな市場を開拓できる経営幹部が必要となります。一方、前オーナーの下で十分な経営資源が投入されてこなかった企業では、事業再生(ターンアラウンド)計画が求められるため、業務効率の改善に強みを持つ経営チームが最も適しています。
レバレッジド・バイアウト(LBO)が、もともと「マネジメント・バイアウト」と呼ばれていたのも偶然ではありません。しかし、経営幹部の選定に万能な公式があるわけではありません。ファンド・マネジャーは経験を重ねる中で、保有期間を通じて企業が直面するさまざまな課題や経済環境に対応できる、粘り強さと柔軟性を兼ね備えた経営者を見極める力を養っていきます。
現任の経営陣を続投させる場合であっても、新たな経営者を採用する場合であっても、PEファームにとって最も難しい判断の一つは、事業計画の成果が現れるまでにどれだけの猶予を与えるかという点です。では、どの時点でPEオーナーは、その経営チームがもはや適任ではないと見極め、退任させるべきなのでしょうか。
CEOや他の経営幹部に十分な時間を与えないまま性急に更迭してしまうことは、かえって逆効果となります。それは、オーナーの期待が非現実的であるというメッセージを組織全体に発信してしまうからです。
一方で、何の対応も取らないことも同様に有害であり、これは「ゴーイング・ネイティブ(訳注:投資先経営陣との馴れ合い)」と呼ばれます。問題の対応を先送りすることは、投資リターンを損なうだけではありません。期待を下回る業績が容認されているというメッセージを組織に与え、低業績を常態化させてしまうリスクがあります。
徹底したデュー・デリジェンス
投資を実行する前に、責任あるファンド・マネジャーは徹底した事前分析を行わなければなりません。成功が幸運によるものである場合も確かにあります。しかし、ベンジャミン・フランクリンがかつて述べたように、「勤勉は幸運の母」です。
ファンド・マネジャーがデュー・デリジェンス(DD)を実施するのは、自らの好奇心を満たすためではありません。専門的な調査を行わなければ、必要な負債資金を調達できないからです。LBOが経済的に合理性を持つのは、その資金の大部分を借入によって賄う場合です。こうした資金は、銀行やプライベート・デット・ファンドから借り入れます。これらの貸し手は、マクロ経済環境、市場動向、競争上のポジション、財務状況、訴訟リスクなど、取引に伴うあらゆるリスク要因を評価したDDレポートの提出を求めます。対象となるのは、キャッシュフロー創出力、ひいては信用力を損なう可能性のあるすべての要素です。
景気やM&A市場が活況を呈すると、デュー・デリジェンスにおける分析の深度が低下することが少なくありません。例えば、2014年から2017年にかけて、デュー・デリジェンス期間は平均7.4カ月から6.1カ月へと短縮しました[2]。M&A保険の活用拡大や事前分析の進展など複数の要因がありましたが、最大の要因はオークション・プロセスにおける競争の激化でした。
2006~2008年の過熱したM&A市場では、多くの取引が数週間の交渉のみで成立しました。例えば、競合行であるロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)によるABNアムロの買収もその一例です。このようなスピードで取引が進んだ結果、買収者は対象企業を十分に精査する時間を確保できませんでした。
当時、もう一つ広く普及したのが、売り手主導のデュー・デリジェンス(Vendor Due Diligence:VDD)レポートでした。これは売り手自身が自社の事業を分析して作成するものですが、中には売り手に都合よく内容が修正されたケースもありました。もっとも、VDDは現在では標準的な実務慣行となっています。
適切なデュー・デリジェンスを行ったからといって高いリターンが保証されるわけではありません。しかし、表面的な分析は多くの盲点を残し、失敗につながる要因となりかねません。
まずエグジットありき
PEファームは、自らを企業価値の創造者(ビジネス・ビルダー)として位置付けようとしますが、その本質は売買によって利益を得る投資家です。そのことは、PE投資における最も重要な原則の一つに表れています。ファイナンシャル・スポンサーが企業への投資を検討する際には、買収を完了する前の段階で、将来どのように投資を回収するかという明確なエグジット・ルートを描いておかなければなりません。
明確な売却戦略が描けないのであれば、慎重なPEファームは投資を行うべきではありません。しかし、投資待機資金の運用を急ぐあまり、この原則を無視し、最終的なエグジットを市場環境任せにしてしまうファンド・マネジャーも存在します。
それでも、買収前の段階でエグジット計画を策定することがベストプラクティスとされている以上、当然の帰結として、PEファンド・マネジャーは長期的な企業の育成者というよりも、企業の売買によって利益を得る投資家であると言えます。もっとも、どのような原則にも例外はあります。バイ・アンド・ビルド戦略は、こうした過度な売買志向を抑制することを目的としたものです。
バイ・アンド・ビルド戦略
PEファームはしばしば、業績不振や経営課題を抱える企業を買収し、その再建を図る投資家として語られます。しかし、このイメージは現在のPE市場の実態を必ずしも正確に表しているわけではありません。
PE投資が本格的に始まった1970年代には、バイアウト候補の多くが大企業の非中核事業の切り出し(カーブアウト)でした。こうした事業は、長年にわたり十分な資金や経営資源が投入されておらず、緊急かつ大規模な事業再構築を必要としていました。しかし現在では、このような経営不振企業がディール・フローに占める割合はごくわずかです。
これは、コスト削減、オフショアリング、業務効率化といった容易に実行できる改善策が、前のオーナーによって既に実施されていることが少なくないことを意味します。特に、その前のオーナー自身がPEファンドであった場合には、その傾向が顕著です。
その代わり、現在の環境で価値を創造する最も一般的な方法は、投資先企業をプラットフォームとしてアドオン買収を重ね、業界再編を主導することです。
アドオン買収は、投資先企業の取得時よりも低いエントリー・マルチプルで実行できれば、シナジー効果を考慮する前であっても価値創造効果(アクリーティブ効果)が期待できます。さらに言うまでもなく、これは過度なレバレッジに依存するよりも、はるかに持続的な価値創造手法です。
オペレーショナルな規律と戦略的規律が価値創造を牽引する一方で、その成果を投資リターンへとどのように転換するかを左右する重要な要素が、キャピタル・ストラクチャーです。
レバレッジの扱いは慎重に
イノベーションとは、単に優れた成果を生み出すことだけを意味するものではありません。それは試行錯誤のプロセスでもあります。そして、新たな試みには必ず一定数の失敗が伴います。
財務レバレッジがエクイティ・リターンに与える絶大な影響を踏まえ、PEファンド・マネジャーはこの40年間にわたり、デット・ファイナンスの活用手法を磨き続けてきました。レバレッジはPEファンド・マネジャーがリターンを最大化するための主要な手段であるため[3]、この分野こそが業界で最大のイノベーションを生み出してきた領域なのです。
2008年の金融危機以降、機関投資家系の貸し手とPEファームは、銀行業界に対する規制強化から大きな恩恵を受けてきました。この15年間で、両者は企業向け融資市場におけるシェアを着実に拡大してきました。
大型PEファームは現在、企業向け融資市場における最大級の貸し手の一角を占めています。アポロ、アレス、ブラックストーン、カーライル、そしてKKRはいずれも、資本構成のデットとエクイティの双方で事業を展開しています[4]。これにより、彼らは二つの優位性を得ています。第一に、プライベート・デット部門の融資引受能力を活用し、第三者の貸し手との融資条件交渉を有利に進めることができます。第二に、ディストレスト債務を割安に取得し、その企業が債務不履行に陥った場合には支配権を獲得できる立場を確保することで、企業を低価格で買収することができます。こうしたレンダー主導のバイアウトは、今では一般的な手法となっています。
金融市場には潤沢な資金が存在するため、借り手はしばしば極めて有利な条件で資金調達を行うことができます。その中には、インタレスト・オンリー・ローン(利払いのみを行い、元本は企業売却時またはローン満期時に返済するローン)や、厳格な財務制限条項(デット・コベナント)の遵守を求められないローンも含まれます。
現在、エンタープライズ・バリューが1億ドルを超えるバイアウトの大半は、コベナント・ライト型の期限一括返済型ローン(ブレット・ローン)によって資金調達されています。これは、借り入れた債務の元本を返済期間中に償却(返済)せず、満期時またはチェンジ・オブ・コントロール(経営権の移転)時に一括返済する仕組みです。その結果、借り手は貸し手による厳しい制約や介入を受けることなく、長期間にわたり事業運営を行うことができます。
レバレッジ活用の基本原則は、総資金調達額に占める負債の割合を無理のない水準に抑えることです。突然の規制変更や技術革新によるディスラプション、あるいは深刻な景気後退の影響を受けやすい業種を除けば、多くの業種では負債比率を60%程度までに抑えることで十分機能すると考えられます。こうしたリスクにさらされる業種では、レバレッジ比率をさらに低く設定すべきです[5]。
多くのLBOでは、債務返済義務に対するデフォルト・リスクがかなり高くなる可能性があります。コベナントの見直しや返済期限の延長をめぐる貸し手との長期にわたる交渉、さらには近年増加しているライアビリティ・マネジメント・エクササイズ(債務再編)[6]は、始まりに過ぎません。デフォルトは最終的に破産へと発展する可能性もあります。
だからこそ、ベストプラクティスを実践することが不可欠です。理想的なLBO対象企業の条件をすべて満たす案件はほとんど存在しません[7]。そのため実務家には、長期にわたって有効性を保つ投資および経営の規律を身に付けることが求められます。
本稿の一部は、セバスチャン・カンデールによる『The Good, the Bad and the Ugly of Private-Equity』(プライベート・エクイティの光と影)を基に加筆・修正しています。
[1] https://www.mckinsey.com/industries/private-capital/our-insights/global-private-markets-report/private-equity#/
[2] Merrill Corporation, 19 January 2018
[3] https://rpc.cfainstitute.org/blogs/enterprising-investor/2022/tricks-of-the-private-equity-trade-part-2-leverage
[4] https://rpc.cfainstitute.org/blogs/enterprising-investor/2025/private-equity-and-private-debt-two-sides-of-the-same-coin
[5] https://www.amazon.com/Debt-Trap-leverage-private-equity-performance-ebook/dp/B01KTVJLO0/ref=sr_1_2
[6] https://pitchbook.com/news/articles/european-market-contends-with-repeat-defaults-as-lmes-enter-fray
[7] https://rpc.cfainstitute.org/blogs/enterprising-investor/2026/what-makes-an-ideal-leveraged-buyout-candidate
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(翻訳者:河野俊明、CFA、CAIA、CPA)
英文オリジナル記事はこちら
https://rpc.cfainstitute.org/blogs/enterprising-investor/2026/pe-best-practices-outcomes
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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