ヴィヴェック・マニ, CFA
・潜在的なマクロ・ファクターへのエクスポージャーは、ポートフォリオの分散効果を低下させる可能性があります。
・それぞれの資産だけではなく、背後にあるリスク要因に目を向けることで、ポートフォリオの動きをより明確に把握することができます。
・ファクター・ベースの管理は、共通したリスクを対象とすることで、従来のリスク管理を補完することができます。
ソブリン・ファンドの投資家は通貨や金利、個別の投資案件を監視することで、ポートフォリオのリスクを管理していると考えています。実際に、多くのポートフォリオがコモディティ・サイクルや金融環境、通貨動向といった一連の限定的なグローバル・マクロ要因の影響を受けています。これらは観測や測定が可能であり、多くの場合ではヘッジを行うことも可能です。
通貨や金利のリスクは日常的に監視されていますが、より広いシステマティック・エクスポージャーは注目されていないままです。それは、それらが複雑だからではなく、明示的に把握されていないことが理由です。ポートフォリオ管理の次なる進化とは、アセット・エクスポージャーではなく、ファクター・エクスポージャーを管理することです。
市場のストレス局面では、こうした共通のエクスポージャーがポートフォリオのパフォーマンスを大きく左右し、地理的な分散投資によってソブリン・ファンドの投資家が期待する分散の効果を低下させてしまう可能性があるのです。
分散投資という幻想
大規模なソブリン・ファンドのポートフォリオは、国やセクターの面では分散されているように見えても、ファクターの面では集中してしまっていることがよくあります。新興国市場(EM)への投資、特にプライベート・クレジットや株式への投資は、比較的少数のマクロ要因の影響を共通して受けています。
新興国市場の資産は、過去のデータから次のような傾向を示しています。
・コモディティ・サイクルへの感応度の高さ(特に原油や工業用金属)
・新興国(EM)のクレジット・スプレッドとの負の相関(J.P.モルガンEMBIグローバル・インデックスなどの指数で示される)
・世界的なリスクセンチメントへの高い感応度(MSCI新興国市場指数などのベンチマークとの連動や、CDX新興国市場指数などの金融商品のスプレッド拡大に反映されている)
こうした関係性は、市場のストレス局面、つまり相関が高まり分散投資のメリットが低下した際に、強まってしまいます。
こうしたパターンは、マクロ経済がストレスに晒される局面において株式市場の動向を左右することが多い、貿易エクスポージャーの違いを反映しています。例えば、ブラジルやナイジェリアといった市場への分散投資は、地域こそ異なりますが、原油価格や世界的な経済成長といった共通のファクターから影響を受けるため、想定していたほどの分散効果が得られない可能性があります。
最も高度な手法を用いるソブリン・ファンドの投資家の一部は、ファクター・ベースのリスク分析の要素をすでに取り入れていますが、その適用状況にはばらつきが見られます。特に、コモディティ・サイクルや世界的な金融情勢の影響を大きく受ける、新興国市場のポートフォリオにおいては、その傾向が顕著です。個々の投資先だけを見れば、それぞれが異なるものに映るかもしれません。しかし、ポートフォリオ全体として見れば、必ずしもそうはなっていないのです。
ソブリン・ファンドのファクター・エクスポージャーとは何か?
従来のポートフォリオのモニタリングは国別の配分やセクター・エクスポージャー、個別企業や個別クレジットのパフォーマンスといった、それぞれの資産特性に重点を置いています。これらは依然として不可欠な要素ですが、ストレス下でのポートフォリオの動きを十分に説明できるものではありません。
より本質的な視点は、各資産ではなくエクスポージャーに注目することです。「何を持っているのか?」と問うのではなく、「どのようなリスクを抱えているのか?」と問うことこそが、より多くのことを明らかにするのです。
実際には、これはポートフォリオの収益率や妥当な代替指標を、コモディティ価格や新興国市場のクレジット・スプレッド、世界の株式市場、為替変動、その他システマティックな変動要因といった、比較的少数の共通したエクスポージャーに対応させることを意味します。
ここでの目的は、精度よりも可視化にあります。簡略化されたファクター・フレームワークであっても、ポートフォリオが構造的に世界経済の成長を享受するのか、金融環境の引き締めに対して脆弱性があるのか、あるいはコモディティ関連のリスクに偏っているのか等を明らかにすることが可能です。
一見リスク要因に見えるものすべてが、それ単体でリスク要因となるわけではありません。多くの場合、為替変動は独立したリスク源というよりも、より広範なマクロ経済のショックがポートフォリオのパフォーマンスに伝播していくメカニズムです。他のエクスポージャーも同様に、根底にあるマクロ経済のリスクを増幅させる可能性があるのです。
正しくリスクをヘッジできていますか?
すべてのリスクをヘッジすべき、ということではありません。長期の投資家は低い流動性を受け入れ、短期的なボラティリティを許容し、それらに伴うプレミアムを獲得するように考えられています。そうしたリスクは意図的なものです。一方、システマティックなマクロ・エクスポージャーはそうではありません。これらは多くの場合、意図的な投資判断の結果としてではなく、ポートフォリオ構築の副産物として生じてしまうものです。
こうしたエクスポージャーが特定されれば、多くの場合、流動性の高い金融商品を用いて部分的に相殺することが可能です。具体的には、新興国市場のクレジット・エクスポージャーはクレジット・デフォルト・スワップ指数によって、市場全体のリスクは株価指数先物やETFによって、あるいはコモディティ価格の変動への感応度は原油や工業用金属の先物やオプションによって、それぞれ調整することができます。
これは、リスクを排除したりリターンの変動を抑えたりするためのものではありません。その目的は、システマティックな下落局面が及ぼす影響を軽減することにあります。こうした局面では、資産間の相関が高まり、分散投資の効果が薄れ、異なる特性を持つはずの投資対象が共通のリスク要因によって一斉に打撃を受けることになります。具体的には、完全なヘッジではなく部分的なヘッジを行い、脆弱性が高まった際には保護を強化し、リターンの向上よりも下落局面での耐性が重視されることになるでしょう。
場合によっては、最も効果的なヘッジが、最も直接的なものとは限りません。コモディティに連動する経済情勢へのエクスポージャーが大きいポートフォリオにおいては、現地通貨の変動は、それ自体が独立したリスク要因というよりは、原油や金属市場における根本的なショックを反映していることが多々あります。外国為替市場での流動性が低い、あるいはヘッジコストが高く、デリバティブの利用に制約があるといった状況では、コモディティ関連の金融商品を活用する方が、根本的なエクスポージャーを軽減する上でより効率的な手段となり得ます。
ファクター・ベースでの管理は、従来の通貨ヘッジに取って代わるものではなく、またベーシス・リスクも依然として重要な管理項目です。ファクター・ベースの管理は、あくまで補完的な役割を果たすものであり、個々のポジションのヘッジから、ポートフォリオ・リスクの共通の要因をマネジメントすることへと焦点を移すためのものです。
制限と限界
ファクター・ベースの管理が全面的には採用されていないことには、正当な理由があります。管理の枠組みはデリバティブの利用に対応したものである必要があり、会計処理上の時価評価に伴う変動が発生する可能性もあります。また、流動性の高い金融商品は、複雑な構成を持つプライベート・ポートフォリオの代替物としては、依然として不完全なものです。一部の機関投資家の間では、ヘッジを行うことは長期的な投資期間という運用方針と整合しないのではないか、という懸念も存在します。
しかしこうした否定的な意見は、根底にあるエクスポージャーを解消してはくれないのです。これらは単に、エクスポージャーを管理されないままにしているのです。システマティックなマクロ・リスクを測定せず、あるいは選択してヘッジをしないポートフォリオは、依然として根本的に共通する世界的なショックに晒され続けるのです。単に、そうしたリスクがどこに潜んでいるかが不明確になっているだけなのです。
長期的な資本の保全と成長を担う機関投資家にとって、これは重要な違いです。ファクター・ベースの管理をしないからといって、システマティック・リスクがなくなるわけではありません。単に、そうしたリスクが測定も管理もされないまま、放置されているだけなのです。
ポートフォリオ・リスクの真の意味についての視座の転換
長期投資家は今後も資産を保有し続けるでしょうが、それらの資産を結びつける要因を理解することが、下落局面からの回復力を高める上で、ますます重要な要素となり得ます。単に、ポートフォリオ・リスクの定義を拡大すればいいのかもしれません。分散投資のあり方は、ポートフォリオが保有する各資産だけでなく、それらのリターンを共通して左右する要因にも基づいて評価されるべきです。
こうしたエクスポージャーを認識し、選別的に管理することは、長期投資から逸脱するものではありません。むしろ、長期投資をより体現するものです。それぞれの資産がポートフォリオの構成を定義し、ファクターがその動きを定義するのです。
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執筆者
Vivek Mani, CFA
(翻訳者:安部 智宏, CFA)
英文オリジナル記事はこちら
Factor Risk in Sovereign Portfolios | EI Blog
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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