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CFA協会ブログ

         

No.774


                                                                                                                                           2026年7月28日

昨日は今日の昔-投資家が当たり前だと思っている市場の経験則を見直す

Why Yesterday's Market Rules Don't Always Apply Today -Rethinking the market rules investors take for granted

ナブニースクリシュナ・モーハンNavneeth Krishna Mohan

・投資家は市場の経験則に頼りがちです

・その経験則は、特定のマクロ環境の産物であり、普遍的な法則ではありません。

・投資がうまくいくかどうかは、潮目が変わったことを見抜く能力にかかっています。 

 機関投資家は、習慣的に、ポートフォリオを構築し、リスクを評価し、ポジションを説明するために、異なる資産間の関係を重視します。その関係性の多くは、簡単な経験則として投資プロセスに組み込まれます:例えば、2年物米国債利回りはフェデラルファンドレートに連動する、短期金利の上昇はドル高を招く、インフレは金価格を押し上げるなど。 

これらの経験則は、かなり頻繁に当たるため、何か頑丈な建物のように感じられます。しかし、実際はそうではありません。

  20年間分のデータに基づく相関関係の推移から、マクロ経済情勢の変化に伴い、各相関関係が強くなったり弱くなったり、時々逆転することが分かります。このような市場の混乱は、安定した長期的な実相を取り巻く統計的なノイズではありません。それは、市場が新たな不確実性の種を価格に織り込みつつあることを示しているのです。

資産間の相関関係は不変のパラメータではありません。それは、マクロ経済の動因が変化していることが、その時々の枠組みに沿った形で発露したものです。根底にある枠組みが変化するとき、その経験則は、大抵の場合、それを生かしてきたメカニズムが消滅した後もしばらくは、居残り続けます。

機関投資家にとって、課題は、経験則が正しいか誤っているかを判断することではありません。その経験則を信頼しうるものとしていた条件が、もはや存在しなくなったことを認識することです。以下で挙げる3つの例は、なぜ、そのような枠組みの変化を理解することが、経験則そのものに頼ることよりも価値があるのかを説明してくれています。

経験則12年物利回りはFRBの動向に連動する

3つの関係のうち、この関係が最も安定しているはずです。2年物国債利回りは、短期的な金融政策に対する市場の見通しを反映しつつ、FRBが政策金利を決定します。この2つの関係は、ほぼ機械的なものです。

 

1. フェデラルファンドレートと米国2年物国債利回りのローリング相関。ほとんどの期間で正の相関を示していますが、政策の転換点付近では負の相関に転じることもあります。

1は、相関関係がほとんどの期間にわたって強い正の関係性を維持していますが、政策転換時付近では、繰り返し負に転じていることを示しています。そのような局面では、2年物利回りは、現行のFRB政策を反映するものから、サイクルの次の段階――将来の利下げ、成長鈍化、あるいは転換が差し迫っていること――を織り込むレベルへと移行します。つまり、この相関関係の崩壊は、異常事態というよりは、むしろ何かの兆候を示しているのです。これは、市場が現在の政策スタンスの先を見据え始めていることの合図ともいえます。

経験則22年物利回りの上昇がドル高を招く


これはお馴染みの理屈です。つまり、米国の短期利回りが上昇すると資本の流入を促し、ドルおよび米ドル指数(DXY)の上昇をもたらすということです。しかし、この関係性はサンプル全体を通じて不安定であり、不成立には明確な構造的理由が存在します。

 

2. 米国2年物国債利回りの変動とDXYリターンの間のローリング相関。20042006年および20222025年には強い正の相関が見られますが、その長い谷間の期間では弱いか、負の相関を示しています。

最初の要因は、DXYが絶対的な利回り水準ではなく、金利差に反応する点にあります。例えば、米国の短期利回りが上昇しても、欧州の金利が同じ程度のペースで上昇すれば、ドルの限界的な優位性は変わりません。

第二の要因は構造的なものです。DXYはユーロのウエイトが極めて高いため、ユーロ安の局面では、米国の短期利回りの動きとは関係なく指数が変動することがあります。すなわち、DXYをドルに対する純粋なシグナルとして扱うと、誤解を招く恐れがあります。

リスクセンチメントは3つ目の理由です。市場における不確実性が高まる局面では、短期金利が低下しているにもかかわらず、安全資産への需要がドル高を招くことがあります。2年物利回りの上昇がドル高を招くという関係性が強まるのは、あくまで、金利差、相対的な成長期待、そしてリスクセンチメントが互いに補強し合う場合に限られます。これらの要因がばらばらに動くと、相関関係は弱まるか、あるいは逆転します。

 

経験則3CPIが金価格を押し上げる


3つ目の経験則「金はインフレヘッジになる」という格言は、最も深く根付いている関係性と言えます。CPIが上昇したら、金を買う。この考えに対する反論のなかで最強なものは、おそらく、クロード・アーブ(Claude Erb)とキャンベル・ハーヴェイ(Campbell Harvey)による論文「The Golden Dilemma」(訳注:https://www.nber.org/papers/w18706)で提示されたもので、同稿では米国の実質利回りと金価格の間に約-0.82の(逆)相関関係が見出されています。彼らの結論は、金は利回りのない資産を保有することによる機会費用に対応しており、その動きは名目CPIではなく、むしろ実質利回りに左右されるというものでした。シカゴ連邦準備銀行が、物価連動国債(TIPS)の利回りを用いて行った
2021年の分析でも、同様の結果が裏付けられています。

 3. CPIの前年比変化率と金リターンのローリング相関。2002年~2013年は正、2013年~2017年は負、2018年~2021年は不安定、2022年~2023年は別の理由により一時的に正となっています。

3はこれを実証的に裏付けています。2002年から2013年にかけて、CPIと金の相関関係は概ね正の値を示していますが、そのからくりはCPIそのものによるものではありません。インフレが変動する一方で名目利回りは抑制されたままだったため、実質利回りが低下し、それに伴って金を保有するコストも低下したというわけです。2013年から2017年にかけて相関関係が負に転じていますが、これは、CPIの上昇が、金融政策の正常化、実質利回りの上昇、そしてドル高を示唆するようになったためでした。でも、これは、経験則に基づけば、明らかに間違ったサインを送っています。

2018年以降、金価格はCPIのみではなく、実質利回り、安全資産としての需要、中央銀行による買いオペ、および外貨準備の通貨分散などの要因にますます左右されるようになり、両者の関係は不安定になっています。インフレは依然として重要ですが、金価格を変動させる直接的要因としてではなく、実質利回りやマクロ経済の不確実性への影響を通じて作用しているに過ぎません。

共通点:なぜ、経験則は通用しないのか

このような相関関係の崩壊は、単独で起こっている現象ではありません。これらは、市場が価格に織り込もうとしている材料においてより広範な変化が起こっている状況を示しています。

最初の2つの経験則には、共通の要素があります。それは2年物国債利回りです。しかし、2年物国債利回りは、どのような環境においても、同じ情報を伝えているわけではありません。それは常に金融政策に対する期待を反映していますが、そうした期待を形作る要因は、マクロ経済の局面の動きにつれて変化します。

政策が主要な不確実性要因である場合、2年物利回りは、フェデラルファンドレートが今後どのように推移するのかに関する市場の思惑に密接に連動します。インフレがその推移を乱す場合、2年物利回りは政策に対する思惑が市場で見直しがなされているのかどうかを読み解く指標となります。その見直しが市場で織り込まれると、2年物利回りは他の主要国に対する米国との金利差をますます反映するようになり、ドル高を後押しします。

  

4. 3本のライン(3つの相関)を重ねたグラフ:フェデラルファンドレートと2年物国債利回り(灰色)、CPI2年物国債利回り(オレンジ)、および2年物国債利回りとDXY(緑)。市場がさまざまな不確実性の要因を再評価するにつれて、各局面において支配的な関係性が変化します。

4は、それぞれの(市場における)主役交代の様子を示しています。時々の市場での主要な関係性が時間とともに変化するのは、2年物利回りが変動したからではなく、マクロ経済における不確実性の要因が変化したためです。その背後にあるメカニズムは徐々に変化していきますが、経験則自体は変わることはありません。

2020年以降の状況が分かりやすい例です。インフレはまず、FRBの政策見通しに対する市場の再評価を余儀なくさせました。その調整が市場にほぼ織り込まれると、短期金利は他の中央銀行と比較した米国政策の持続性をますます反映するようになり、金利差の拡大を通して、ドル高が促されます。

このことこそが、より確かな教訓です。資産横断的な経験則は、変数同士を元々結びつけていたメカニズムが損なわれていない場合にのみ有用です。根底にある要因が変化すると、経験則は、実際のところ全く違う結果をもたらしているにも拘わらず、見た目にはこれまでどおり馴染みのあるものであり続けるかもしれません。したがって、投資家に課せられた仕事は、ただ市場の相関関係を認めることではなく、その関係性に意味を与えている「レジーム」を特定することにあります。

戦略的資産配分とリスク管理への示唆

実務にどんな示唆を与えているかは単純明快です。投資家は、過去の平均値ではなく、今はどんな局面かという視点を通して、市場の相関関係を評価しなければなりません。

以上のことから導き出される原則は、以下の3点です:

・局面に応じた相関分析を行うこと。 過去の平均値には、相関関係が異なる経済的要因によって形成されていても、それらの期間を混在させており、現在の環境を誤って表現しているかもしれません。

経験則を適用する前に、そのメカニズムを理解すること。 慣れ親しんだ相関関係がこれまでとおり成立していると仮定する前に、今日、市場は何を価格に織り込んでいるのかを問うべきです。

・局面の変化に伴い、ポートフォリオの役割を見直すこと。 金などの資産は、マクロ経済情勢の変化に伴い、インフレヘッジから実質利回り、準備資産の分散手段、あるいは地政学的リスクヘッジへと役割が変化するかもしれません。

市場における資産間の相関関係が消滅することはめったにありません――ただ、すこしずつ変化しています。よって、機関投資家にとっての課題は、過去の経験則を暗記することではなく、その経験則を生み出した経済的局面がいつ変化したかを見極めることです。

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執筆者

ナブニース・クリシュナ・モーハン(Navneeth Krishna Mohan

                   

翻訳者大濱 匠一、PhDCFA

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Why Yesterday's Market Rules Don't Always Apply Today-Rethinking the market rules investors take for granted

 

) 当記事はCFA協会CFA Instituteのブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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